35 攻めと守りと思わぬ人物
「スーイ、どうした?」
港からずっと走り続けていたスーイが急に立ち止まった。上を見るスーイにつられて空を見上げる。
上空には赤い鳥……にしては大きい。あれ……?
「……ピー?」
なんでピーがいるんだ?
羽ばたく赤い羽からキラキラと光る金色が見え隠れする。
ーーヒノコだ。
おれはなぜか確信した。
ヒノコとピーは、黒い塊と対峙しているように見える。黒い塊はもしかして、スーイがさっき言っていた蝙蝠だろうか。
いや、おれの知ってる蝙蝠ってもっと小さいはずだぞ……。
その蝙蝠の上に人が見えた。さっきスーイが言ってた「女の人」だよな。
「スーイ。あの女の人と話、出来ないかな」
スーイが目を丸くして言った。
「……だめ」
※ ※ ※
「邪魔をするな!」
フォッシルウッドがヒノコに向かって叫び、石の塊が複数、空中に出現した。そのまま真下ーーヒノコに向かって飛んでいく。
「ピー!」
ヒノコの呼びかけを聞いて、ピーはひらりと石を避ける。ヒノコが手のひらから現れた炎がそれを消し去った。
少しの石が炎を逃れて速度を増して落ちて行く。
「あっ」
ヒノコが言葉を発したと同時に大きな水の壁が現れ、石の落下を防ぐ。地上にいたスーイが魔法で石の速度を削いだのだ。
石は静かに地面に落ちていった。
「やるじゃん」
ヒノコはピーから身を乗り出し、下を見て呟いた。
「なんなのよ」
フォッシルウッドはイラつきながら、再び石を出現させた。それは、先ほどよりも大きく、数は膨大だった。
ーーやり過ぎだ。
蝙蝠は咄嗟に叫ぶ。
「ひけなくなる!」
「うるさいっ」
フォッシルウッドは両手を大きく上げた。
フォッシルウッドの周囲を旋回し、竜巻のようになった石はそのまま降下する。先ほどの速さとは比べものにならない。
「まずっ」
ヒノコは最大限の炎を放射する。花火の様に輝き消え、竜巻の速度を削いでいく。
地上にいたスーイはアオバの手を引き再び走り出した。
「…ここから離れる!」
ただならぬ空気にアオバも足を速めた。
アオバは先ほどから行なわれている魔法の応酬に頭がついていかず、混乱していた。
しかし、ここが危険な状況にあるのだけはわかった。ふと、近くの民家の窓から不安そうな顔で子供を抱いた父親が外を見ていた。
フォッシルウッドとヒノコの空中戦はまだ続いていた。彼女の石をヒノコの炎が燃やす。繰り返すたびに周囲の温度が上がった。
ヒノコは、石を下に落とさないこと。それだけを考えた。
下にはアオバがいるんだ。
ヒノコは緑頭の少年を思った。その時ーー。
「自己中女はお帰りの時間だ!」
暴言ともとれる言葉を叫んだのは蝙蝠だった。
「うるさいっーーーーーー……あ、」
フォッシルウッドは急に一瞬だけ意識が途切れたのを感じた。
ーーーーこんな時に!
気付いた時にはもう遅く、フォッシルウッドは落下していた。
「……!」
落ちるフォッシルウッドを蝙蝠がギリギリの所で掬いあげ、そのまま地上に降りた1人と一匹。
ちょうどだった。スーイの手にひかれながら走っていたアオバの視界に、フォッシルウッドたちの姿が入る。
バチン。
フォッシルウッドが目を開いた瞬間、アオバと目があった。
あの子!
瞬間、アオバは見えない力によりフォッシルウッドの元に引き寄せられる。
「…アオッ」
スーイはアオバの手を強く握ろうとしたが間に合わなかった。
「バっ、ーーーークソっ」
スーイが怒りを込めた瞳でフォッシルウッドを睨んだ。
「アオバ!!」
ヒノコとピーが上空から舞い降りた。
「「アオバを返せ!」」
スーイとヒノコが同時に叫ぶ。
フォッシルウッドはその様子にすら、気付かず腕のなかにおさまったアオバを見つめていた。そして溢れるまま言った。
「ーー待ってたの。ずっと」
待ってるの。ずっと。
「え?」
フォッシルウッドの言葉にアオバはポカンとした。
一番早く動いたのは蝙蝠だった。自分たちに向かってきたヒノコを乗せた赤い鳥にしがみつき、そのままの勢いで空のに上昇する。
「アオバを!」
ヒノコが地上のスーイに向かって叫んだ。
「…もちろん」
スーイは懐から小さな杖を取り出して言った。
「…水よ!」
フォッシルウッドに向かって何本もの水の矢が放たれ、フォッシルウッドにぶつかる寸前に丸い檻に変化した。
フォッシルウッドはパチンと指を鳴らすと水の檻が崩れて落ちる。
…僕じゃ力不足……! …それでも……。
「フォル、逃げろ!」
上空でヒノコと対峙していた蝙蝠が突然、下に向かって叫んだ。
「……あ!?」
ちょうど、フォッシルウッドの真下の地面から木が生える様に大きな光の腕が現れた。そしてフォッシルウッドの腕の中にいたアオバをつまみ上げ、外に弾き出す。
「わ、ああああ!?」
飛ばされたアオバが塀の壁に激突する既のところでブルーが現れ、アオバを抱いて自ら壁に激突する。
「ぐっ…!」
「ブ、ブルー!?」
アオバが叫んだ。
「邪魔ばっかり! なんなのよ!」
フォッシルウッドが再びアオバを引き寄せようと、力を使う。
「こ、こまでとは…っ」
ブルーは自分の認識が甘かったことを実感し、予想以上のフォッシルウッドの力に息を呑んだ。
見えない力に引き寄せられるようになりながら、アオバを抱きしめ耐えるブルーは覚悟を決めた。
ーーやるしかない。
その時。
「アオバにいちゃんを困らせるな!」
「だめー!」
フォッシルウッドとアオバの間に現れたのは、リュウセイとユウの小さな兄弟だった。
2人の出現と同時にフォッシルウッドの力が消える。フォッシルウッドは戸惑いの声を上げた。
「なに……!?」
ブルーの腕の中から、外を見たアオバは地球に帰ったはずの兄弟がいることに目を見張った。
「リュウセイ……ユウ!?」
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