30 船上とお礼
「うわぁ~、気持ちいーな!」
頬を撫でる風を受けて、おれは海の匂いを思いきり吸い込んだ。
「気に入ったようで何よりだ」
隣ではタングステンが豪快に笑っている。
今、おれたちは舶に乗って海の上にいる。タングステンの城に着いたと思ったらら、ブルーは美女軍団に連れて行かれ(タングステンの兄弟だった)、おれはというと、タングステンに連れられて舶に乗せられ海上までやってきたのだった。
海の上から、街並みがくっきりと見える。街の中心にはさっきまでいた城が見えた。
やっぱり目立つなあ。
「おれたち、あの城にいたんだよな」
「そうだ。ーーこれはおれの好きな景色でな」
タングステンが目を細めて微笑む。その表情に迫力を感じて思わず呟いた。
「タングステンって王子様だったんだな? びっくりしたんだけど……てか、ごめん、呼び捨て」
「はは、呼び捨て結構!」
タングステンが破顔した。
「今更、変えてくれるなよ? アオバから『王子』などと言われては悲しいからな」
「そ、そう…?」
な、ならいいけど。今更変えるのも、変な感じだったし。
「にしても、正直驚いたな。お前が俺の国まで来るとは。まさか本当に俺に会いに来たということか?」
「そうだよ」
頷くと、何故かタングステンは固まった。
「さっきも言ったけど、お礼が言いたくて、タングステンに会いにきたんだ」
「……面白いやつだな、アオバは」
何故かそっぽを向いてタングステンは呟く。
「え? なに?」
「こちらの話だ」
「?」
「そういえば、体調はもう良いのか? リュウセイとユウを返した途端に倒れていただろう」
肝が冷えたぞ、と心配げに聞かれた。
そうだった。おれ、あの時倒れたんだよな。
「うん、もう大丈夫」
「アオバの様子が気がかりだったのだが、どうしても帰らなくてはいけなくてな。ブルーに任せたんだが、やはり心配したぞ」
「あ、はは……ごめん」
心配かけちゃったみたいだな……。
というか、あの時のこと、あんまり覚えてないんだよな〜。なんかハズ…。
「アオバが倒れた時、ブルーのやつが見たことがないくらいの狼狽ぶりでな」
ブルーが?
そ、そうだったんだ…。
「アオバ、愛されているな」
「あっ、あいっ!?」
真顔のタングステンに思わず声が裏返った。
な、なにを恥ずかしげもなく…!
「お前が倒れてからのブルーは本当に甲斐甲斐しく世話を焼いていたぞ。そう言えば、着替えは勿論だが、風呂も…」
「ふっ、風呂ぉ!?」
そういや、目を覚ました時は、汗でベットリなんてことが全然なくて、妙にさっぱりしてたよな? てか、風呂までブルーが入れてくれたのか…えっ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!? うわ、おれ…そ、想像するのやめるんだ! む、無になれ…!
目を白黒させているているであろう、おれを見てタングステンが吹き出した。
「ははは!」
「かっ、からかうなよ!」
「ははっ、いや、からかってはいないがな」
心なしか、意地の悪い笑みを浮かべるタングステンにおれは話題を変えたく、言った。
「ったく…。でも改めだけど、ブルーにも随分と世話になってたんだな。ほんとにリュウセイとユウが帰れたのもタングステンやブルーたちのおかげだよ。おれだけだったら詰んでた」
思わず呟いたおれをタングステンはじっと見ていった。
「あの時……帰れると分かった時」
「え?」
「お前は躊躇なくリュウセイとユウを優先したな」
「そんなの、当たり前だよ」
何を言ってるんだか。
「その心意気、俺は好きだ。お前が気に入ったぞ」
「あ、えっと……ありがとう?」
「ふん」
ニヤリとタングステンが笑った。
な、なんだ、この人? いまいち何考えてるか分かんないけど。
「困ったことがあったらすぐ俺に言え」
「わ、わかった」
妙な迫力があるんだよな…。あ、でも…。
「ブルーが言ってたんだけど、次に地球に帰るには、召喚のはパワー? っていうの? それが充電されるのが時間がかかるんだって。……あ、タングステンはそんなこと知ってるか。でもとにかく、おれはその間、ブルーの所で世話になることになったんだけどさ」
おれは言葉をきった。
「長い間、ブルーの世話になるだけっていうのは気が引けるっていうか……」
「ふむ。ブルーは気にしないと思うが」
「そうかもなんだけど……」
不思議そうなタングステンの顔を見ながらおれは言った。
「悪いんだけどさ、今度でいいから、バイト……仕事で手伝えることがあったら、おれにやらせてくれないかな?」
「ほお」
タングステンは面白そうな顔をしている。
「仕事をしたいということか?」
「まあ、そう。おれみたいなガキが言うのもなんだけど。せめて何かの役に立ちたい」
「……いいだろう。今すぐにとはいかないがな、アオバに向いていそうな話があればよこそう」
「あ、ありがとう!」
良かったあ…何もしないなんて、嫌だったんだよな。ブルーに悪いし。思いきって聞いて良かった。
「まあ、ブルーが良しとすればの話だが」
タングステンは苦笑気味にいった。
「ブルーが?」
「こと、アオバに関しては奴は過保護だからな」
「おれってそんなに危なっかしいかな」
おれの呟きに、タングステンはただ笑うだけだった。
「あ…」
話し込んでいて気が付かなかったけど、今まで見えていた景色が変わっていた。
ちょうど、タングステンの城の裏側までまわってきたみたいだ。水の国は城を中心に島全体がせり出ていて、ちょうど島を半周した感じなのかな。
あれ?
「なんか……海の中が光ってる…?」
そう。
海の底が広範囲に渡り、薄く光っているように見えた。昼間の明るさの中でも、海からわく光は不思議と認識できた。
「あれは神殿だ」
「し、神殿?」
「ああ。さきほど、神殿がこの国の海底に出現したという報告があってな」
「あ、おれたちがタングステンの城に着いたばかりのときに話してたやつ?」
「そうだ」
「神殿って、森の中にあったんじゃないの?」
「話していなかったか? 神殿は移動するものなんだ。誰も制御は出来ないもので、予測もつかないのだが。定期的に移動をする。うちの国に移動してきたのは、ここ最近では珍しいがな」
「そ、そうなんだ……じゃあ普通のことなの?」
「ここ最近は、神子が不在だったためか、移動自体していなかったのだが……」
「神子……」
そういえば、ヒノコって神子候補なんだったよな?
おれは水の国に入る前に別れたヒノコを思い出した。
「神子と言えばさ、ヒノコってさ、神子候補なんだって?」
「そうだが」
やっぱりタングステンも知ってるんだな。
「神子候補って他にもいたりするの? ……おれも、神子候補だって言われてさ」
「誰にいわれた?」
「ヒノコ」
「……ふむ。そうだな、神子候補は実はそこまで珍しいわけではない。現におれの国にもいるぞ」
「えっ、いるの? この国にも!?」
「ああ。城の客人として1年前くらいから暮らしていてな。アオバと同じくらいの歳だったな」
「へえ…」
「あとで紹介してやろう。……さて、思ったよりも話し込んでしまったな。腹が減っただろう。少し待っていろ」
そう言って、タングステンは船内へ入っていった。
気付いたら、太陽は真上辺りにきていた。こっちの世界が地球と同じ時間軸なら、もうすぐお昼ゴハンかな。そう認識するとお腹が減ってきた気がする……。
ふと、海風がゴウッと鳴った。思わず目をつむる。
「す、すごい風だったな……って、あれ?」
おれの足元に白い帽子が落ちていた。
誰のだろう。
拾い上げて辺りを見渡すと、ちょうど船員さんがこちらに向かってきていた。
「あ、これってあなたのですか?」
「…ハイ」
「良かった、どうぞ」
「…ありがとうございます」
帽子を受け取った船員さんはペコリ、と頭を下げる。……切りそろえられたまっすぐな黒い髪が揺れた。
船員さんは顔を上げてそのまま動かずに立っている。そうなるとおれたちはは向かい合った形になった。
「……」
「……」
船員さんと目が合った。
……キレイな紫色だなあ…………って……な、なんか、めちゃくちゃ見られてるんだけど……き、気の所為じゃない……? おれ、何かしたかな。
ちなみに船員さんに表情はなく、何を考えてるのか全く分からない。
……なんだこの時間……。
「えっと、おれの顔に何かついてます?」
「…ついてない」
そう呟き、そのまま黙り込む。この間もおれはこの人に見られたままだ。
…………あ、そうだ。
「おれ、アオバって言います」
まずは挨拶しとけば間違いない、はず。
「……」
「おれ、舶乗ったの初めてなんですけどメッチャ気持ちいいですね」
「…ウン」
やった。無表情のままだけど、少し会話できたぞ。単に物静かな人なだけなのかな?
あれ? ……よく見たらこの人、若そうかも。というか、おれと同い年くらいに見える。
「年、いくつ?」
思わず口に出していた。
「…14」
「おれも14! 同い年だな」
学校以外で同い年の人に会うと、妙にうれしい気持ちになるんだけど、今そんな感じだ。
「待たせたな、アオバーー」
そこにタングステンが戻ってきた。
「貴様……」
タングステンは船員さんに気づきーーなぜか笑って言った。
「アオバ、コイツがさっき話していた水の国の神子候補だ」
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