29 タングステンと水の国
青い空、青い海、白い砂浜。
おれたちは無事、水の国の入り口までやってきた。
「すご…きれいだなあ…!」
水の国側の転移門は高台にあった。
ブルーが言うには、ちょうど水の国全体を眺められる位置に作ったという。
海に浮かぶ大きな島のうえに建物が並び、真ん中に大きな丸いドーム型の白い城があり、それを囲むようにレモン色の家々が建つ。港もあり、いくつもの舶が停泊していた。
「いつ見てもきれいな所です」
おれの隣でニコニコしながらブルーが言った。
「さて……行きましょうか」
「オッケー!」
見知らぬ地にワクワクしてきた。足取りも軽くおれたちは歩き出した。
おれはブルーの案内のもと、タングステンの家にやってきた……わけだが……。
「って、ここ!!?」
思わず、大声を出してしまった。
だってここは……先ほど見た、街の中心にあった大きな城だったのだから。
「は、はい」
ブルーはおれの大声に驚いた様子で頷いた。
「タングステンとは玄関ホールで待ち合わせしてまして……」
と言うブルーと一緒に向かったホールは、学校の体育館並みの広さがあるところだった。
「いや、やっぱり広すぎるって!?」
おれの大声に再びビクリとするブルーだったが、ホールの両端にある巨大な階段を見て言った。
「あ…いました」
「来たな!」
声とともに颯爽と現れたのはタングステンだった。
「遠路はるばるご苦労。といっても思ったより早かったな!」
「沼の転移門を使ったんだ」
「まだいけたか! なんだ。おれも使えばよかった」
「まあ、私がいないと動かないからね」
「はは、そうだったな」
豪快に笑ってから、ふいにタングステンがこちらを見た。
「アオバもよく来た」
おれは優しげな赤い目を見て伝えたかった言葉を口にした。
「リュウセイとユウを地球に返してくれて、ありがとう」
タングステンに続けて言った。
「あの時おれ、急に倒れたから、きちんとお礼が言えなくて遅くなったけど……本当にありがとうございました」
「…気にするな」
タングステンらしくない静かな声音が響く。優しげな笑みを向けられてなんだかどきどきしてしまう。これだから男前は…。
「王子」
と、短いがよく通る声がタングステンの背後から聞こえた。
「海底に神殿が出現しました」
「……ほう」
当たり前の様にタングステンが答えた。
神殿が出現? ……というか、今「王子」って言ってた?
タングステンと同じく頭に角が生えた男の人が、トレーにのった書類をタングステンに差し出す。
タングステンがそれを一瞥すると、おれたちに向き直る。
「ーーというわけなので、俺はいく。ブルー、部屋で待っていてくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
ブルーが応える。そしてタングステンはあっという間にどこかへ行ってしまった。
「では、私たちも行きましょうか」
ブルーは何でもないようにおれに語りかけた。
「う、うんーー…って」
疑問が浮かんでくる。
「タングステンって王子なの? てか、神殿ってあの神殿? 森の中にあったんじゃ……」
あたふたするおれとは対照的に、落ち着いた様子のブルーは困ったように微笑んだ。
「急に驚きましたよね? …とにかく、今は移動しましょうか。落ち着いた場所で話します」
「わ、わかった…」
おれは頷くしかなかった。
勝手知ったる様子でタングステンの家……というか、城の中を歩くブルーの後ろについていき、広めの一室に到着した。
その部屋はいわゆるオーシャンビューってやつで、大きめの窓の外に広がる海が輝いていた。
「うわ…綺麗ーー」
「そうですね、いつ見てもきれいです」
ブルーが荷物を降ろしながらニコニコと頷く。
「いつ見てもって……。ブルーってここ、来たことあるの?」
「ええ、何度か」
何でもないようにブルーは応えた。
「じゃ、タングステンが王子って知ってたんだな?」
「はい」
眉毛を下げてブルーが頷く。
「なんだよ、もっとーー」
早く言ってよ、驚いたじゃん。
そう言葉にしようとした瞬間、騒がしい声が響いた。確かにそれは騒がしいーーけど、鈴の音みたいに軽やかでもあって……。
「ブルー」
「来ていたのね」
「待っていたわ」
「相変わらず」
「あら」
「見慣れない子もいるのね」
「あいらしい」
「もしかして」
扉から現れたのは、美しい女の人たちだった。
それぞれ違う色の花飾りをつけた女のたちは、ブルーとおれを見て思い思い感想を口にしながら、部屋に流れこんできた。
ーーきれいな人たちだ。
おれはどきりとして固まってしまった。ひとり、ふたり……きれいな人たちは8人もいた。
そのうちの赤い花飾りの人がブルーの肩に手を置いて言った。
「いきますわよ」
「え?」
「さあ、こちらに」
今度は青い花飾りの人がブルーの腕に白い手を絡めた。
「あ、いえ、その」
ブルーは慌てた様におれを見た。
「あら、このぼうやが心配なのね。大丈夫」
黄色い花飾りの人がおれの頭をするりと撫でた。
うわ、なんか今いい匂いがしたんだけど……。
「ぼうやはここにいてね」
そのままあっという間に、8人の女の人たちはブルーを連れてどこかへ行ってしまった。
それと入れ替わりで、タングステンが笑顔で部屋に入ってきた。
「ーー急にびっくりしたろう?」
「タングステン! い、今、女の人たちにブルーが連れてかれちゃったんだけど…!」
「はは。すまんな、おれの兄弟が」
「きょ、兄弟!?」
って、今の女の人たちが!?
「うむ。あれらは、おれの姉と…妹達だ」
タングステンがニヤリとした。
「全部でおれを合わせて10人いる。末子はまだ2歳でな。さきほどの塊にはいない」
「……じゅ、10人兄弟」
お、多いってもんじゃないけど。
おれはひとりっ子だったから、どんな感じなのか想像もつかない。
「彼女たちはブルーとも幼なじみだ。久々に会ったからな。ヤツで遊びたいんだろう。放っておいて害はない」
「な、なら良いけど」
「ふむ」
タングステンはおれをじっと見て、おれの手をとった。
「行くぞ」
「は、あっ?」
そのまま、グイグイと部屋の外へ連れて行かれるのであった。
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