27 旅の神官と料理当番
次の日。
おれたちはライさんの移動式神殿車の中にいた。
「ライさん、何か飲み物はいりますか?」
「今はいらないです〜。お気遣いありがとうございます。みなさん、気にせず休んでいてくださいね〜」
運転中のライさんが言った。
昨日、温泉の休憩室で出会ったライさんは、旅の神官で各地を転々としているという。ちょうど、ラネム方面に行く予定だったらしく、おれたちの話を聞いて一緒に行かないかと誘ってくれたのだ。
「移動式神殿車に乗ったのは初めてなのですが、とても乗り心地がいいんですね」
ブルーが感心した様に言った。
「そう言っていただけると嬉しいです〜」
「恥ずかしながら、移動式神殿車を見たのも初めてでして…」
「まだ数が少ないですから、なかなか実物を見る機会もありませんよね〜」
移動式神殿車は、いわゆるキャンピングカーみたいな雰囲気の乗り物だった。
ただし、タイヤや車輪は付いていなくて、乗り物全体が少し浮いていたのを見た時は本当に驚いた。
さすが魔法の国……!
「はは、そうですね。……それにしても、助かりました。ラネムまで送っていただけるなんて」
「たまたま同じ方向に行くので、ついでですよ〜」
「いえ、本当にありがとうございます」
「1人で行くよりも誰かと一緒の方が楽しいですから〜」
本当にライさんのようないい人に会えて良かったなあ。
「にぅっ」
向かいあった前の席にいるチビが大きな欠伸をした。微かな揺れが気持ちいいのか、チビは丸くなって目をつむった。
かわいい。……あ、そういえば。
おれの隣で外を眺めているヒノコに言った。
「ピーは空から追いかけてるんだよな?」
「うん」
窓から空を見上げてみるが、大きな鳥は見当たらない。
「ピー、見えないんだけど、大丈夫なのか?」
「ピーは消えることができるから。今は見えないけどおれを追ってるよ。呼べばすぐ出てくるけど、呼ぶ?」
「い、いや、いいよ」
「そう?」
着いてきているんなら良かった。
チビとピーは同じ妖精族だって聞いたけど……全然違うんだな。まあ、見た目も猫と鳥だし、そりゃあ違うか。
夕方。移動式神殿の中。
「じゃあ、今日の夕飯はおれ担当ということで」
「アオバのごはん楽しみっ」
「何を作るんですか? 私も手伝いますか?」
笑顔のヒノコと、少し心配そうなブルーは言った。
ラネムまでの道中は、おれとブルー、そして成り行きで一緒にいくことになったヒノコが食事を担当をさせてもらうことにしたのだ。
ライさんは遠慮していたけど、無償でラネムまで連れて行ってもらうんだ。当然だよな。
「大丈夫だって、ブルー。それと、正直、あんまり見られ過ぎると気になってうまく作れないかもだからさ。とにかく3人は休んでてよ」
「ではボクはお言葉に甘えて休ませてもらいますね〜」
運転席をチェックしていたライさんは、外へ出ていく。
「ほら、2人も!」
なぜか不服そうにしながらも2人も出ていってくれた。
「さてと」
改めて車内の小さなキッチンの前に立つ。
自分の家とは違うキッチンって、なんだか緊張するよな。しかも、ここは異世界なわけで。
初日はおれ担当で、明日はヒノコ。その次の日はブルーの予定で、すでに今日の昼食はおれが作っている。
……まあ作るといっても、コンフレークのような穀物をサクサクに加工したものと、玉子焼き。それにフルーツを切って添えた簡単なものだったから、用意したの方が正解かも。
改めて、出発前にブルーと買った食材をざっと眺めた。3日分くらいは買い込んだので、それをいい感じに配分しないといけない。
「でも、夕飯はがっつりしたのが食べたいよな」
おれは食材を手に取った。
「うまっ」
ヒノコが弾けるような笑顔で言った。
おれたちは車の外焚き火を囲みながら夕飯をとっていた。
夜空の下で火を囲みながら食事するのって、キャンプみたいで正直ワクワクする。
「まじ? 良かった」
今日の夕飯である野菜や肉がごろごろ入った具沢山のポトフスープを取り分けながら、こっそり胸を撫で下ろした。
「簡単なものしか作れなかったけど…」
素材を切って煮て、調味料でなんとか味を整えただけのやつ。
おれからポトフを受け取り、スープを一口飲んでからブルーが言った。
「いえ、本当に美味しいです! ……でも見知らぬ食材ばかりで手間取りましたよね」
「うーん、でも、食材な似てたから、何とかできたみたい」
料理当番を決める時に、ブルーはおれがこの世界の住人じゃないことを気にしていた。見ず知らずの世界で料理するのも大変じゃないかって。
ありがたかったけど、早くこちらに慣れたいという気持ちもあって、むしろ一番先に当番を名乗り出たのだ。
食材は、確かに見たこともないものもあったけど、手に取って観察したり、味見なんかをして作ったらどうにかなった。
「それに、肉とかは先に下処理してもらったから家にいた時と同じように作れました。ライさん、ありがとう」
「いいえ〜、気にしないでください」
食材を持ち込んだ時、ライさんが手際よく処理してくれたのだ。なんと、魔法でだ。
「魔法で肉をきり始めたときはびっくりしました」
「ちょっとした応用なんですけどね〜」
ライさんは笑った。
「すごいなあ、魔法って」
「おれだって魔法使えるかんね!」
突然ヒノコが大きな声で言った。
「見てて」
立ち上がり手をあげて口を開いた瞬間、横からブルーが待ったをかけた。
「ちょっと、ヒノコさん! こんなところでやめてください!」
「なに?!」
不服そうなヒノコを軽く睨み、ブルーが言った。
「そもそも食事中ですからね!」
「そうだぞ、座って食べろよ」
おれもたしなめながら、内心ヒノコも魔法が使えることに驚いた。
……いや、ピーを乗りこなしてる時点でびっくりしたけどさ。
次の瞬間、ヒノコの背後に巨大な鷹が現れた。
「ピー!?」
思わず叫んでしまった。おれの叫び声にはものともせず、ピーはヒノコの頭を突いた。
「あいたっ……わかったよ、魔法を止められてること忘れてないから!」
頭をガードしつつ、ピーにヒノコは叫ぶ。するとピーは満足そうに頷き(おれにはそう見えた)すうっと消えた。
「だ、大丈夫か?」
「うん」
ヒノコはケロリとして、食事の続きを始めた。
「ヒノコも魔法使えるんだな?」
「うん。でも今は使うなって言われてる」
「へえ…」
魔法に制限でもあるのかな?
疑問に思いつつも、ヒノコ自身がこの話題に興味がなくなったのか食事に集中しているので、おれも食べ始めた。
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