26 ヒノコの目的と親切な人
「よっ、ブルー」
ヒノコがのんきに手を振った。ブルーは必死の形相のまま固まる。
「ヒ、ヒノコさん!? どうしてここに」
おれは身体を起こして説明した。
「あのさ、お風呂に偶然ヒノコがいたんだ。今はちょっとのぼせちゃったから休んでるとこなんだ」
「あっ、そうですか⋯⋯」
ブルーは力が抜けたように休憩室の小上がりに座りこんだ。
「なんか心配かけた?」
「い、いえ。大丈夫なら良かったです」
ブルーが力なく微笑んだ。
もしかして、おばちゃんがブルーに連絡したのかな。
「過保護だな〜」
ヒノコが笑った。
「すみません⋯」
ブルーが謝る。
そんな様子におれはちょっと恥ずかしくなってヒノコを睨む。
「おい、茶化すなよ」
「う、ごめん」
ヒノコがあっさり謝る。妙に素直なとこ、あるよな、コイツ。
とにかく、ブルーは休憩室に入り、改めてヒノコに向き合った。
「ヒノコさんは神殿に何か用事でしょうか?」
「神殿に用はないよ。アオバに会いに来ただけ」
「アオバくんに?」
「そう。もう会えたからおれの目的は達成」
ヒノコは満足げにいった。
本当におれに会うためだけに来たのかよ。
「そ、そうですか」
ブルーは黙り込んだ。
「えっと、ブルーはお風呂に入んないの?」
「……いえ、その前にアオバくんに話がありまして」
チラリとブルーがヒノコを見た。
「おれのことは気にせず話してよ」
ヒノコは爛々とした目でおれとブルーを見ている。
ブルーは諦めたように少し笑ってから言った。
「タングステンと連絡がとれました。今は水の国に帰っているようです」
「水の国?」
「はい。タングステンの家があるんです。少し遠くになりますが、会いに行きますか?」
「行きたい!」
お礼を言えるチャンスだ。
「あっ、でも。ブルーは予定とか大丈夫なのか?」
「実は今、ちょうど長期休暇中なんです。問題はないですし、むしろ休み中がチャンスなので、今のうちに行く方が助かります」
「じゃあ…お願いします」
おれは頭を下げた。と、突然ヒノコが言った。
「おれもいく!」
「えっ」
な、なんで?
「水の国なら帰る方向いっしょだし、ちょうどよかったー」
「ヒ、ヒノコさん、一緒にくるんですか?」
「うん。良かったな、アオバ!」
ヒノコはおれの肩をポンとたたく。
何が良かったのか分かんないんだけど。
「いや、急になんだよ?」
「だから、帰り道だしなんだって」
「帰り道って」
「それに、まだアオバと一緒にいたい」
「!?」
い、今、恥ずかしいセリフを聞いた気がするんだけど……!
恐る恐るヒノコを見るが奴は顔色ひとつ変えてないし、いつもと同じ様子だった。
なにを言っても無駄な雰囲気はブルーも察したのか、ヒノコに構わず話はじめた。
「⋯⋯水の国は通常の移動方法ですと時間がかかり過ぎるので、途中にある転送地点まで向かいます」
おれも気を取り直してブルーに聞いた。
「転送地点?」
「昔、タングステンの家に行った時に作ったものがありまして、それがまだ使えるんです」
「沼地の家から町へ移動した時みたいなもの?」
「そのとおりです。転送地点はラネムという街のはずれにあるんですけど、そこまで行けたら一瞬で水の国へ飛べます」
「へえ。やっぱり便利だな」
「問題はラネムまでの移動方法ですね」
「鳥便とかは?」
「残念ですが……このタイミングだと鳥便の予約はもう取れないんです。前は緊急だったのでなんとか出来たんですけど」
「そうなんだ…」
「ピーに乗ってけばいいじゃん」
ヒノコが横から言った。
「ピーに?」
「うん。あっという間に着くぜ」
得意気な顔のヒノコに、おれはピーの姿を思い浮かべた。
「確かにピーは早かったけど。さすがに3人⋯いや、チビも入れたら3人と一匹は乗せられないだろ?」
「アオバだけ乗るでいいじゃん」
「いやだめだろ」とおれはツッコんだ。ヒノコはきょとんとした表情でまた言った。
「ブルーはチビに乗って飛べば?」
「猫は飛べないの!」
「チビは飛べません!」
ほぼ同時におれとブルーが言った。
「あの〜」
ふいに知らない声が聞こえた。
声が聞こえる方を向くとそこには男の人。茶色い濡れた髪の毛からお風呂上がりだと分かるけど……。
「知ってる人?」
思わず、ブルーに耳打ちする。
「いえ…」
小さな声でブルーが答えた。
「はじめまして〜。ボク、旅の神官をしているライっていいます。良かったら、一緒にラネムまで行きませんか〜?」
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