24 温泉と勘違い
トロッコで神殿に着いた時はもう夜になっていた。おれたちは食堂で夕食をとっていた。
「う、うまい…」
長時間、乗り物にのったためか、おれは疲れ切っていた。温かいご飯が美味しすぎる。
おれとブルーは具沢山のスープとパンを食べていた。
「美味しいですよね。トロッコの揺れと長時間戦った体には美味しいご飯が染みます」
「うん」
ちょっと呆けたあと、顔を見合わせて笑った。
「でも先生と話せて良かった。チビはひとまず、安心かな?」
「はい。先生は信頼できる人ですから、大丈夫です。ひとまずは様子をみましょう」
言ってブルーは隣に座るチビの頭を撫ぜた。気持ちよさそうに目を細めるチビ。
「しかし、食堂があって本当に助かったよ。おなかペコペコだったし」
「ですよね。私もここはよくお世話になっています」
神殿にはありがたいことに、24時間空いている食堂があった。吹き抜けの広いフロアがあり、空いた空間に丸机が並べられていて、皆好きな場所に座って食べれるところだ。
食事を作る料理人たちが真ん中の区画されたスペースにいて、黒板に記されたメニューを窓口から提供する。……これはどう見ても食堂である。おれは学校の学食を思い出した。
「託児所もそうだけど……ヘルクスって、地球に似てるなあ」
魔法があるから、違うんだけど。
「そうですね、前にも少し話しましたが平行世界ですから、所々つながってるんです。地球飛行士になれば、地球へ行くこともできるんですよ」
「地球飛行士?」
宇宙飛行士みたいだな。
「はい。ヘルクスの中で地球へ行くことができる人のことです。選ばれた人しかなれない職業で、地球の研究をしています」
「研究って?」
「例えば、優れた制度や建物などは参考にしていたり……ですかね」
「へえ」
「あ、そうそう。温泉もありますよ」
「温泉!?」
思わず大声で言ってしまった。椅子もガタッと音を立てる。
「食べたら行ってみます? 疲れもとれるでしょうし」
「いくいく!」
やったー! まさか、湯船につかれるなんて嬉しすぎる。
思わずはしゃいでしまったおれを微笑ましい表情で見るブルー。
や、やめろ……。
「私は明日の準備がありますので、アオバくんはチビと一緒に先にいってください。チビが案内します」
ブルーはチビに「たのみますね」と言った。
「悪いな、チビ。……て、チビって風呂に入れるんだ?」
チビは、いにゃと鳴いた。
ん? 否定?
「はは、いえ。チビはお風呂嫌いですので外で待ちますよ」
そっか……猫だもんな。
「では、あとで合流しましょう」
「ああ、またあとで」
ブルーも別れ、おれはチビに案内されながら温泉に向かった。
チビのあとを追いながらやってきたそこは、本当に温泉だった!
入り口には男、女と看板がたっているし、コーヒー牛乳や、いちご牛乳みたいな飲み物が用意されている。
こ、これは……最高かも!
おれは感動に打ちひしがれていると、所謂番頭さんみたいな受付の人が話しかけてきた。
「こんばんわ。ブルーから聞いてるよ。地球からきた子だろ?」
年配の女の人が、にっこりと笑う。
「あ、はい。アオバっていいます」
「ご丁寧にどうもね。オバチャン、ここの受付係りだからね。なんでも聞いて」
感じの良さそうな人だ。
「ありがとう。えっと、入ってもいい?」
「もちろんさ」
「チビ……こっちの子だけど、お風呂には入らないんです。待つ場所とかってありますか?」
おれの横にいるチビを見ていった。
「もちろんあるよ。入り口の横に休憩室があるだろ? そこで待つといいよ」
オバチャンが指差す先に靴を脱いで、くつろげるスペースがあった。
「よかった。チビ、あそこで待っててな」
「なう」
チビが小さく返事をして休憩室に向かった。おれはオバチャンにお礼を言い、男湯の方へ入った。
「はあ……」
き、気持ちいい……! やっぱりお風呂さいこー……
広い露天風呂の一角で俺は湯船に肩までつかりながら幸せをかみしめていた。
あれからチビと別れてお風呂に来たが、細部は違えど日本の温泉施設と変わらない様子に驚きの連発だった。
貸しタオルも置いてあるし、給水所まであった。
……地球飛行士だったっけ?
絶対、日本の温泉のこと、気に入って作ったよな……。
とにかく、思った以上に最高である。まさか異世界でお風呂に入れるなんてーー。
「生きててよかったーーー」
思わず大きな独り言を呟いてしまい、焦って辺りを見回した。
誰もいない。
そう思いこんでいたおれは人影に気が付いて心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
だって……湯気が風に揺れて消えていくにつれて人影の輪郭がはっきりしていく。金髪の長い髪を結い上げた華奢な後ろ姿。
あ、お、女の子!?
バクバクする胸を抑え、汗とは違う冷や汗が滲みでた。
や、やばい。おれ、女湯に入っちゃった? いや、そんなことは……オバチャンに案内されたし。でも洗い場にも誰もいなかったから分からなかったけど、マジで女湯!? と、とにかく、どうにかバレないように出なくては……!
決意をして、隠れるように湯に肩まで浸かり、正面を向いたまま静かに後ろへ出口方面へと移動しはじめる。お、音を立ててはだめだ!
バシャン!
ーーおれのばか!
気負い過ぎて滑って音を立ててしまった。
「え?」
金髪の子が振り向いた。
終わった……
「ご、ごめん! すぐにでるから!!」
おれは、顔が湯にかかる勢いで頭を下げその場を立ち去ろうとした……が、ぐいと手をつかまれた。
「なっ!?」
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