20 暗闇と不思議な会話
目の前の男が破顔した。
「アオバくん、あなたはまだ病み上がりですから念の為、今日は休みましょうね」
「あーいや、おれ、いま体調万全だし、大丈夫…」
「だめです」
有無を言わさぬ笑顔。
「わ、わかった……」
「分かってくれて安心しました。もうそろそろ夜ですし、今日はそのまま眠りましょう」
「ハイ」
「ただ、アオバくんが食べられそうなものはあとで持ってきます。なにか、リクエストはありますか?」
言われて、なにも食べていないことに気がつく。しかし、不思議なことに腹は減っていないようだった。
「うーん、なんか、いまは腹減ってないんだよね。でも……。飲み物とか頼める?」
「もちろんです。なにか栄養のあるものを用意しますね。水でしたら、そこにもあるのでご自由に飲んでください」
ベッド脇の棚の上にある水の入った瓶を指さしてブルーは言った。
「ありがとう」
「では、また来ます。チビはアオバくんと一緒にいてくださいね」
「にゃお」
チビはブルーにひと鳴きして、ベッドの横で丸まる。それを見届けてブルーは部屋を出て行った。
※ ※ ※
暗闇の中で言葉を交わす人影がいた。
「小さいこども2人は帰ったぜ」
「ふうん」
コウモリの言葉にフォッシルウッドはつまらなそうに返事をした。
「残りは1人。アオバってやつ」
「……。ねえ、もしかしたらアオバのことかも……」
「は? あれが?」
コウモリは何度か話した時のアオバの様子を思い出す。
みどりの髪は印象的だったが、これといった特徴もない平凡そうなこどもだったけれどーー。
「だって。やっぱり……気になるの」
フォッシルウッドはどこか焦れたように呟く。
コウモリが口を開こうとした時、空間が歪んだ。
「これはこれは。何か深刻な話でもしていたのかな? そんな時に申し訳ないが失礼するよ」
そこに出現したのはヒョロリとした白いスーツの男だった。
「げ、なんで」
フォッシルウッドがあからさまに顔をしかめた。
「久しぶりだね、フォッシルウッド。貴女のカマードが来たよ」
「はあ? 気持ち悪いこと言わないで」
フォッシルウッドの冷たい視線にも動じずにカマードは口角をあげた。
「なにしに来たのよ?」
フォッシルウッドの問いかけにカマードは笑顔のまま何も答えなかった。痺れを切らしたフォッシルウッドは「そう言えば」と思い口を開く。
「アンタのとこのお人形がアオバを攫ったでしょ」
「はて?」
不思議そうにするカマードの態度に、フォッシルウッドはカチンとしてさらに言葉を重ねようとした。
その時、カマードが大きな声を上げた。
「そんなことより! 貴女、毎日寝れてる?」
笑みを顔に貼り付けた白いスーツの男が、フォッシルウッドを覗き込む。
「なっ、によ……」
「気分は?」
「ほんと急になに? 怖いんだけど」
フォッシルウッドは身体を引いてカマードと距離をとった。
しかし睨みつけながら、内心驚く。
ずっと前から少しずつ体が動かなくなっていることを、なぜコイツは知っているのだろう……。
じっと探るようなカマードの目に、居心地の悪さを感じていると、小さな呟きが耳に入る。
「ヒノコでいけると思ったんだがーー」
「…なに?」
「いや、こちらの話」
「おい。錬金術師サマは暇なのか? 何の様できた?」
今まで黙り込んでいたコウモリがいった。
「これはこれは。黒づくめ君。相変わらず黒いねぇ!」
コウモリが鼻を鳴らすと、カマードが笑う。
「ただの幼なじみへの挨拶だ。また来るよ、フォッシルウッド」
カマードの背後の空間が歪んだと同時に、男の姿も消えた。
「なんなのよ。相変わらず勝手なやつ」
呟くフォッシルウッドを、コウモリは心配げに見つめていた。
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