18 夜と帰還とサヨナラ
コモリと別れた辺りから公園には人も増えていった。みんな思い思いに過ごしているみたいで、それを眺めて歩くだけでも楽しい。
遊歩道を一周まわり、チビのところへ戻る。
チビは丸まって日光浴の真っ最中だ。陽の光りを浴びてふわふわの大きな毛玉の塊の魅力に負けて、おれはくるまったチビのお腹に顔をうずめた。
「チビ〜、ただいま」
「ぷるぅ」
チビは小さく鳴いただけで、おれの好きにさせてくれた。チビって本当にやさしい。
夜の神殿の中庭の公園広場。人気はなく、静かだった。所々に光の玉のようなものが浮かんでいて、闇を照らしていた。
「おおーい、こっちだよー」
広場の真ん中に立つ人影がおれたちを呼んだ。トゥビット先生だ。
「行きましょう」
歩くブルーの後ろに続き、おれはリュウセイとユウの小さな手を握りながら歩いた。
「やあ」
ニコリと笑った先生の足元には模様が描かれた大きな丸い円があった。
「ーーこれって、魔法陣ってやつ?」
思わず呟いてしまう。ファンタジーものの話でみたことあるやつだ。
「召喚に使う魔法陣だよ」と先生。
「これを使って、2人は帰るの?」
ちょっと現実味がなくておれは思わず聞いた。
リュウセイとユウが、おれに身を寄せる。それを見たブルーは、膝をついて兄弟と視線を合わせた。
「そうです。大丈夫、もうすぐお家に帰れますからね」
ブルーが2人の肩にそっと手を置いた。
「リュウセイ! ユウ! また、会おうな」
今度はタングステンが二人を同時に抱き上げて言った。
「わ、わあ…!」ユウは歓声を上げた。
「ほ、ほんとに帰れるの?」
「もちろんだ」
タングステンは頷き、笑った。
タングステンの抱っこから降ろされた兄弟が、今度はおれに抱きつく。小さな手が精一杯の強さでしがみついてくる。
「リュウセイ、ユウ」
2人の顔を覗き込む。子供特有のキラキラした目。
「帰ったらまた一緒に遊ぼうな」
ユウが一生懸命、首をふって頷く中、リュウセイがポケットから何かを取り出した。それを見たユウがあわてて同じように何かを取り出す。
「アオバ兄ちゃんにこれ……」
2人の手の中には綺麗な緑色と青色の紙ひこうきがあった。
「ーーくれるの?」
「うん!」
ユウがにっこり笑う。
おれは純粋な行為に胸がいっぱいになって、紙ひこうきをもう一度見た。
……あれ、この紙ひこうき、紙自体に色が塗ってあるんだ。
「もしかして、色を塗ったの?」
リュウセイとユウが照れくさそうに笑った。
ユウはおれに紙ひこうきを差し出しながら言った。
「アオバにいちゃんとおんなじみどりー」
「はは……ほんとだな。ありがとう」
小さな手の中の緑の紙ひこうきは、おれには輝いて見えた。
「タングステンに紙を用意してもらってつくったやつ。これ、あげる」
リュウセイは青い紙ひこうきを差し出した。こちらはぴちりと折られた大人顔負けの完成度だ。
「すごいな。いつの間に作ったんだ……」
おれがチビと公園へ行った時に作ったのかな? だからしきりに部屋から追い出そうとしてたのか。
「ありがとう」
おれはしゃがみ込み、2人の顔を覗き込んで言った。
リュウセイはきゅっと口を一文字にして、ユウは屈託なく笑っていた。
「さて。準備も出来たのでそろそろ行きましょう」
ブルーが2人の手を引いて、魔法陣の上に立たせた。
「では、いまからお家に帰る魔法をかけるよ。ふたりとも、手をつないでいてね……って、もう繋いでいたね」
言われる前から手を繋いでいたふたりに、トゥビット先生は優しげな眼差しを向けた。
その時、あっ!とリュウセイが叫んだ。
「チビにバイバイしてない!」
「バイバイする」
リュウセイの言葉にハッとするユウ。
ブルーの後ろでおとなしくしていたチビが、答えるように2人のそばにかけ寄った。そのまま、大きな頭をスリスリと小さな兄弟にこすりつける。
「チビは2人のことが大好きなんだな」
ふたりと一匹が、笑い声をあげながらはしゃぐ様子が可愛くて思わず口からこぼれる。それを聞いていたブルーが言った。
「はい……。チビがこれほど小さな子が好きだったとは私も意外でした」
「そうなの?」
「チビが優しいのは分かっていましたが、予想以上にリュウセイくんたちをみていてくれていたのは、私も驚いています」
リュウセイとユウは、ぎゅっとチビに抱きついた。トゥビット先生が進み出る。
「さて、名残惜しいけど、そろそろね」
「チビ、戻っておいで」
ブルーがチビを呼ぶと、大きな猫は最後に2人の顔をペロリと舐めて元の場所へ戻った。
それから、先生はそのまま右手で円を描きながら何か、おれには聞き取れない言葉を発してからいった。
「ーーーー高いところへいくよ」
その瞬間、魔法陣を中心におれたちが立つ地面が上にと盛り上がった。地震の前兆のような、大きな揺れを一度感じたがすぐに消え、変わりに目の前に満天の星空が広がった。
思わずおれやリュウセイ、ユウは歓声をあげた。
「驚かせたかな。どうしても上にいかないと発動しない魔法でね」
先生がいった。
「ふたりとも、目をつぶってごらん」
先生のお願いに、兄弟は夜空の景色に名残惜しそうにしていたが瞳を閉じる。
「では。リュウセイくん、ユウくん。君たちはこれから地球にかえるんだ。ぼくが送るからね」
先生は再び聞きとれない言葉を呟き手をかざすと、魔法陣の光りが強くなる。
「ーーーーアオバにいちゃん! バイバイ!」
「ばいばい!」
2人の声が光の中から聞こえた。
「またなーーーーー……!」
魔法陣が青白く光り、だんだん眩しいほどの光になる。おれがたまらず目を閉じたと同時に、今までが嘘だったような暗闇が訪れた。
いった……?
兄弟が立っていたあとを見る。そこには、何もない地面。兄弟も魔法陣もない。さらに高く盛り上がった地面も平坦になっていた。
「ふたりは帰れた?」
恐る恐る聞く俺にブルーは笑みを浮かべた。
「帰れました。大丈夫ですよ」
っはーーーー……
「よかった……っ」
ホッとすると同時に、なんだか身体が重くなって……あれ?
「ーーーッアオバーーー」
記憶が途切れる瞬間、誰かに抱きとめられた感覚をかろうじて感じた。
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