17 コモリと迷子の男の子
ーーあれ?
「あ、あんた」
「偶然だな」
「昨日の」
トゥビット先生の部屋へ行く前、迷子になった時に会った人だ。
「お。覚えてたか」
「もちろん。……えっと、何してんの?」
「……散歩。アンタは?」
「おれも同じ」
「フーン」
そのまま歩き出す黒づくめの男。
……あ、そうだ。おれは小走りで男に追いついて言った。
「あの時はありがとう」
「は?」
「道を教えてくれたろ。お礼、言えてなかったから」
「……」
男から返事はなかったけれど、進む方向は同じみたいだし、おれは何となく隣に並んで歩く。
この人、話す気はないみたいで黙ったままだ。無口な人なのかな。おれはそう思いながらも公園を眺めていたら、口が自然に開いた。
「あのさ。昨日、この公園で遊んでたんだ。ちっちゃい子たちと」
「……」
「いろんな子たちがいたけど、みんな神殿で働いてる人たちの子どもなんだって」
「……」
「えっと……おにいさんも小さいときはここで遊んでた、とか?」
「コモリ」
「え?」
「俺の名前」
「こもり……さん?」
「『さん』はいらない」
コモリはおれを一瞥して、にやっと笑った。
「あ、おれはアオバっていうんだ。草野青葉」
コモリは立ち止まっておれを見た。
「クサノアオバ……」
「うん」
フルネームを言われて、おれは背筋を伸ばして頷く。おれを見てそのまま、立ったまま動きのないコモリ。……どうしたんだろう。
「コモリ? どうしたの?」
なんかおかしい気もするけど、うーん、単に暇なのかな?
だったら……。
「時間あるなら一緒に散歩しない?」
コモリは我に返ったようにビクリとした。
「おれは、帰る……」
「え……そう?」
残念だけど、仕方ないか。そう思った時、横の小さな茂みから、何かが飛び出してきた。
「うわあぁあん」
小さな男の子! 男の子は一直線におれの方に走り寄り、足に抱きついた。
「どうした? ーーあれ、きみは昨日の」
男の子の腰辺りから伸びたワニのような尻尾を見て思い出す。この子、昨日この公園で一緒に遊んだ子だ。
おれは足に抱きつかれたまま頭を撫でる。
「カイマン君、だよね? おれ、昨日一緒に遊んだアオバだよ。覚えてる?」
「ぐすっ……うぅ、ア、アオバ?」
カイマン君は、泣きながらも顔を上げてくれた。
「うん。アオバだよ」
しゃがみ込んで、カイマン君と目線を合わせる。
どうしたんだろう。周りには他には誰もいないみたいだ。
「カイマン君はひとりでここにいたの?」
「……ぐすん……うん……」
「ひとりなんだね。この公園にほかのお友達はいる?」
「……いる。かくれんぼしてた。……でもぉっ……だ、だれもさが、さがしにこなくって…………うわあぁあん!」
ああああ……! そういうことか!
つまり、友達とかくれんぼして遊んでたけど、隠れ方がうますぎて、鬼に見つけられないまま時間がどんどん過ぎていったというやつ……。
これって、鬼がまだ探してるのか、そもそもかくれんぼ自体が終わったのか、分かんなくて困るんだよな……。
「大丈夫。カイマン君の隠れ方が上手すぎて、鬼の子も降参してるのかもしれないから、一緒に鬼の子を見つけよう」
「う、うん」
よかった。なんとか泣き止んでくれた。
おれはカイマン君と手を繋ぎ辺りを見渡す。
「かくれんぼしてる子、いるー? いったん終わりにするから出ておいでー」
大きな声で呼びかけたけど、誰も出てこない。うーん、この辺りにはいなそう。
ぎゅっとおれの手を握る力が好き強くなった。
不安そうな顔のカイマン君におれは笑いかける。
「この辺にはいないみたいだな。ちょっとあっちも探してみよう」
来た道をもどって、ひとまずチビの所へ行こうかな。
「おい」
コモリがおれを見た。
「あっ、コモリは……もう帰るんだったよな? じゃあ……」
「……いや、ちょっと待て。ーーおい」
おれを制して、コモリがカイマン君に言った。
「一緒に遊んでた友達ってのは、何人だ?」
黒ずくめの大きい人間に声をかけられて、カイマン君は返事ができずおれの後ろに隠れた。
「チっ」
コモリはしゃがみ込んでカイマン君の顔をのぞき込み、もう一度聞いた。
「……そのシッポ、カッコいいな」
ん? コモリ……もしかして気を使ってる?
「……パパとお揃いなんだよ」
カイマン君は嬉しかったのか、少し笑みをこぼした。
「へえ、いいな。お揃いか」
「へへ」
褒められて、カイマン君の緊張は少しとれたみたいだった。
……コモリ、やるじゃん。
「かくれんぼ一緒にやってた友達って何人だったかわかるか?」
「……えっと……いち、にい、さ、さん? ……あともうひとり」
カイマン君は指折り数え、4人と遊んでいたことを教えてくれた。
「子供4人か。……よし」
コモリはカイマン君の頭を撫で、立ち上がる。
「アオバ、カイマン。自分の耳を塞いでおいてもらえるか?」
こんな感じで、とコモリが自分の手で両耳を塞ぐ。
「え? 急になんだ?」
「いーから、言う通りにしとけ。カイマンの友達、探してやるから」
早くしろ、と急かしてくるコモリ。疑問は残るものの、何か考えがあるのかな、と思い、言う通りに耳を手で塞ぐおれ。カイマン君も不思議そうな顔をしながらもおれの真似をして耳を塞いだ。
「ーーーー」
満足そうなコモリがおれたちに何か言ったが、内容がわからなかった。なんなんだ、一体。
コモリは少しおれたちと距離をとった。
「ーーーーーーーーーッ!」
そして、多分ーー叫んだ?
キィィィィン。
塞いでいても耳の奥に何か響く。振動……!?
そして、静かに立ったままに見えたコモリがくるりとこちらに寄ってきた。
耳を抑えていた手を、軽くたたかれる。
塞ぐのはいらないってことかな?
おれはそっと手を戻す。
「もうわかった」
「え?」
「カイマンの友達の居場所」
「そ、そうなの?」
よく分からないけど、とにかくカイマン君にも、もう耳は塞がなくていいことを伝える。
「カイマン君の友達の居場所が分かったって」
「ほんと!?」
みるみる笑顔になるカイマン君。
「カイマン。お前の友達、あっちにいる」
と、コモリが指差したのは、おれが行こうとしていたチビの待つベンチとは反対の方向だった。
「行くぞ。移動されたら困るからな」
コモリを先頭にして、しばらく歩きだした。
……それにしてもさっき、コモリは何したのかな?
「なあ、さっきカイマン君の友達の居場所わかったって言ったけどさ、何してたんだ? 音? 出してたよな?」
「ああ………………まあ、簡単にいうと人の位置が分かる魔法ってとこ」
「ま、魔法!? 凄い……コモリも魔法使えるんだな?」
「そんなもん」
コモリはつまらなそうに返事をする。
……あんまり聞かれたくないのかな?
ふいに遠くから子供たちの声が聞こえてきた。
「みんなだ!」
カイマン君が走り出す。
「カイマンー」
「いたー!」
4人の子供たちが転がるように駆け寄ってくる。カイマンと合流して皆、大騒ぎになっていた。
「よかった……。カイマン君、みんな。次にまたかくれんぼをするなら、鬼が見えるところまでとか、決めてやろうな」
元気よく返事を返す子供たち。
「コモリも、付き合ってくれてありがーー」
コモリの方を向くと、黒尽くめの男は背を向けて歩き出していた。
「コモリ!」
あわてて追いかける。
「黒いおにいちゃん! ありがとー!」
後ろからカイマン君の声が聞こえる。
見るとカイマン君と子供たちが手を振っていた。
「じゃあなー!」
おれも手を振り返したけど、コモリは止まらずに歩いていた。
その時、ゴオッと強い風がふいた。コモリの被っていたフードがめくれる。
「げ!」
げ?
「まぶっ…」
コモリは慌てた様子でしゃがみ込んだ。顔を大きな手で覆い、ブツブツと何かを言っているけど……な、まじでなに?
「ど、どした?」
しゃがみ込み、コモリの肩に手を置くと、ビクリとなる黒いかたまり。
「……ひ、光が」
光? 太陽の光のこと?
光が苦手、なのかな?
背後から軽い足音がいくつか聞こえてくる。
「どしたー?」
「どっかいたいー?」
子供たちも心配したのか、集まってきた。
「大丈夫か?」
聞くと、コモリの震えていた身体がピタリと止まる。サッとフードを深く被り、何事もなかったように立ち上がる。
「……なにも問題ねえし!」
コモリはボソッと呟き、もと来た方向へすたすたと去っていった。
「行っちゃった」
なんだったんだ、アイツ。
ーーでも、なんだかんだ、子どもたちのこと助けてくれたな……。
おれは黒い背中を見送った。
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