14 トゥビット先生と不思議な力
トゥビット先生という人の部屋は植物がたくさん置いてある、小さな頃父さんと行った植物園の温室のようなところだった。
ひんやりとしていた廊下とは違い、少し温かい。
「やあ」
部屋の奥から小柄な人物が現れた。
「お久しぶりです」
ブルーが背筋を伸ばしてあいさつをした。
「うん。元気そうだね、ブルー」
優しそうな声。
あの人がトゥビット先生なのかな。もっとおじいさんかと思ったけど全然違う。
ブルーやタングステンよりも若く見えた。
「先生、お時間をいただきありがとうございます」
「タングステン。いや、大丈夫。……それよりも大変だったね」
トゥビット先生はおれを見た。
「綺麗な緑だねぇ。これは……確かにクマが間違えるわけだ」
「えっと……」
おれは頭を下げた。
「ああ、ごめんよ。ボクはトゥビット。ブルーとタングステンの元先生だよ」
年齢不詳の元先生は微笑んだ。チビの後ろにいるリュウセイとユウに気づき声をかける。
「おや。もっと小さなお客さんもいるね。奥の部屋へおいで。ちょうどお菓子があるから、みんなで食べようか」
案内されたテーブルにはお菓子が乗っていた。ドライフルーツのような干した果実に、色とりどりの透明のゼリーみたいなブロック型のなにか。ほのかに甘い匂いが漂いリュウセイとユウは目を輝かせた。
「飲み物、いつものところですか?」
「うん。お願いできるかい?」
トゥビット先生のかわりにブルーが並べる。
「さて、リュウセイくんとユウくん、だよね? 好きにお食べ」
名前を言われてちょっと驚く2人。
「ふふ、タングステンから話は聞いているからね」
「お礼を言って、いただこうか」
おれは2人に言った。
「ありがとう」
早速ペコリと頭をさげながらリュウセイが言う。それを見ていたユウも小さな声で恥ずかしそうに「ありがと」と言った。
「どういたしまして」
「いただきます」と、2人はお菓子に手を伸ばした。
「よかったな」
「アオバくんもお食べ」
トゥビット先生がにこりとして言った。
「もちろん、君の話も聞いているよ。遠慮しないでね」
「あ、はい。ありがとうございます」
優しそうな人で良かったと、ホッとした
おれの横でブルーが再び背筋をのばした。
「トゥビット先生。召喚について、報告が遅くなり申し訳ございませんでした」
ほぼ直角に頭をさげるブルー。
「いや、いいよ。君だって予想外だったでしょう」
「せっかく、先生がわたしを推してくださったのに……それに……、谷の花が枯れてしまったんですよね?」
谷の花。その言葉を聞いた途端、トゥビット先生から表情が消えた。
『無』って感じだ。
「わたしが至らないばっかりに……」
小さくなるブルーの声。トゥビット先生が、再び動き出す。
「そんなことないよ。谷の件は、ボクの個人的なことだから気にしないでくれ」
落ち込むブルーの肩をタングステンが叩いた。
「ブルー。先生もこう言ってるんだ。落ちるのはやめておけ。ーー先生、本題にはいりましょう」
「おっと、そうだね」
先生がこちらを見た。
「まずは、話しを整理させてもらおうかな」
少しかしこまった空気を感じ、おれはお菓子に伸びかけていた腕を止めた。
それに気付いたトゥビット先生は「君たちは食べながら聞いていいからね」と微笑む。
「さて。アオバくん、リュウセイくん、ユウくんが『地球』という世界からオズに召喚された。ヘルクスと地球は別の世界だということは聞いたよね。ブルーが行った召喚の儀式は神子の選定が目的だから、本来ならこちらの神子候補の中から、神子となる者が選ばれて召喚ーーつまり喚び出される。本来の意味ではただの『選定』となるんだけどね」
「しかし、今回は……」
とブルーがいった。
「うん。今回はまるきり別の世界からアオバくん、リュウセイくん、ユウくんが喚ばれた。本当の意味での『召喚』になったわけだけど……。これは初めてのことなんだ」
「やはり、前例はないのですね」
ブルーが言った。
「うん。少なくとも記録に残っている500年余りにはそんなことは無かったよ」
「なぜ、このようなことが起こりえたのか。誰も何もわからない、というのとか」
タングステンが唸り、腕組みをする。
「今のところはそうだね」
トゥビット先生が軽く息を吐く。ブルーが真剣な面持ちで口を開いた。
「アオバくんたちは何も知らない状況で召喚されました。ご家族も地球に残したままです。こちらの都合で、この子たちを巻き込んでしまいました。私はなんとか彼らを家に帰したいのです。あらためて、先生。ご協力をお願いできますか……」
「……もちろんだよ」
先生は頷いた。
おれは、ブルーの真剣な様子に居心地が悪くなるような気持ちになった。
いや、ただしくはあまりの真剣さにびっくりしたのかも。出会ったばかりの得体の知れないだろうおれたちのことをそこまで考えてくれていたなんて。
「では早速やろうか」
トゥビット先生は左手の手袋を外しながら言った。
「アオバくん、リュウセイくん、ユウくん。ぼくには不思議な力があってね。この手で握手すると……」
トゥビット先生が左手をヒラヒラと動かして、にこりとした。
「握手した子のことがちょっとわかるんだよ」
「えー?」と声をあげるユウ。分かっていない様子だったが、おれもよく分かっていないので聞いてみる。
「どういうことですか?」
「うん。例えばね……そうだな。今、食べたいものとか、好きなことがわかるんだ。ちょっと試してみるかい?」
リュウセイやユウもキョトンとしている。
「リュウセイくん。おいで」
呼ばれてリュウセイは先生のもとへ。ユウもその後ろを着いていく。
「なに?」
「僕と握手してみようか」
差し出されたトゥビット先生の左手を握るリュウセイ。先生は「ありがとう」と微笑んでからいった。
「……リュウセイくんの好きな遊びは、たたかいごっこかな?」
リュウセイはびっくりした表情。
「……そう!」
「そうか。いいね」
先生はニヤと笑った。
「最近、野菜を食べれるようになったみたいだね?」
「うん」
「すばらしい」
褒められて嬉しそうにするリュウセイ。当たってるみたいだ。
そんな様子を兄の後ろから見ていたユウが声を上げた。
「ユウも!」
「ユウくんもだね。どうぞ」
今度はユウと握手するトゥビット先生。握手をするだけだが、ユウはくすぐったそうに笑った。
「うん。ユウくんは、靴をひとりで履けるようになったんだね」
ユウの顔がパッと明るくなった。
「ひとりでできる」
「かっこいいね」
ユウは照れたのか、トゥビット先生の手を離して兄の後ろに隠れる。
「アオバくん」
次はおれ。すっと差し出された先生の左手を握り返す。思ったよりも大きくごつごつした手。ぐっと力が込められる感覚があったが、それ以外は何もない。
何かを調べているんだろうか? ただ、手を握るだけで?
近くにある先生の顔を見ると長いまつ毛が目に入る。髪の毛は茶色いけどまつ毛は黒っぽい。どうでもいいことが頭に浮かんだ所で、先生と目が合ってどきりとした。
「……お父さんは料理を作るのが上手なんだね?」
ーー父さん。
そうだ。父さんの作るご飯は何でも美味しくて、おれはそれが自慢で……この人、なんでそれがわかるんだ?
「そ、そうです」
「ぼくも食べてみたいなあ」
トゥビット先生はニッコリして、おれの手を離した。
「はい、おしまい。どうだったかな?」
手袋をはめ直す先生のもとにワッと兄弟が駆け寄って「なんでわかったの?!「すごーい」と口々に言った。
「ふふ、ぼくの生まれきの特技なんだよ」
とトゥビット先生。
「魔法の手……みたいですね」
思わず呟くと、先生はおれを見て「魔法の手か。いいね」と笑った。
ブルーが口を開く。
「先生、上に行きますか?」
「うん、いこうか。アオバくん、リュウセイくん、ユウくん。ここにあるものは好きに食べていいからね」
タングステンが立ち上がりブルーに向けて言った。
「おれが先生と行こう」
「分かった。よろしく」
頷くブルー。
先生とタングステンは部屋を出て行った。
読んでくださり誠にありがとうございます!
面白かった。続きが気になるかも。また読みたい。
と思っていただけましたら、
下にある☆☆☆☆☆マークのところから、物語への応援お願いできればと思います。
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもしていただけると、本当にうれしいです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




