13 神殿と黒尽くめの男
「彼……ヒノコさんは神子候補のひとりなんです。以前からの知り合いで、危険な子ではないと分かってはいたのですが」
ここは神殿の中の一室。
ブルー、おれ、リュウセイとユウのためにと、通された部屋でおれたちはそこに座りヒノコについて話していた。
「実はな、アオバ」
タングステンが改まった顔でいった。
「二日前の深夜、ブルーの屋敷で眠っていたお前は攫われたんだ」
『だっておれ、この前の晩にアオバのこと攫ったから』
おれはヒノコの言葉を思い出す。
「ヒノコが……言ってたことだよな」
「ああ。幸いすぐにアオバが取り返せたことで、大事にはしなかった。だが、先程本人が話していた通り、犯人はヒノコだったものでな。ブルーが警戒した理由はそのためだ」
「……ヒノコがおれを攫ったってこと、タングステンたちは知ってたんだな?」
ブルーは申し訳なさそうにこちらを見た。
「アオバくんを不安にさせたくなくて、黙っていました。申し訳ありません……」
しょんぼりした顔のブルーにおれは何も言えなくなる。
そういえば、帰る予定だったタングステンが残って泊まっていたっけ。
……それって、おれを心配して……?
「まあ……もういいや。結局ヒノコには助けられたし、そんな悪そうには思えなかったし」
「ヒノコは気分屋だしな。ヤツの行動をいちいち勘ぐっても疲れるだけだ」
タングステンがフンと鼻で笑う。
「でも、アオバくんが無事に戻ってきてくれて本当によかったです」
「そうだよ、びっくりしたんだから! 急にいなくなっちゃって」
「そうだよー」
おれの両サイドにくっついて座るリュウセイとユウは、身体を寄せてくる。
「うなん」
ふいにおれの後頭部を柔らかい塊がぐっと押した。
「チビ!」
振り返ると、ふわふわな頭をグリグリと押し付けている巨大な猫。
「チビ〜…!」
もふもふに顔を埋めると、リュウセイとユウも同じようにチビに抱きついた。
「チビもにいちゃんのこと心配してたよ」
リュウセイが言った。
「チ、チビ……」
チビに好かれているかも……? という事実に浮き足だったが、はたと本来の目的を思い出した。
ブルーとタングステンに視線を戻すと、微笑ましそうな顔をしている二人と目が合った。なんか恥ずかしいんだが……。
気を取り直して二人に聞く。
「神殿でなにか話は聞けた?」
そう。そもそも、ここに来た目的があった。おれたちが、この世界に召喚されたことに対しての情報を聞きに神殿にやってきたのだ。
「まだです。実はアオバくんを探すことを優先したので、ほぼ話は聞けていないんです」
ブルーは続けた。
「それでアオバくんさえよければなんですが……このあと、話を聞きにいくことになっているんです。戻ってきて早々になり申し訳ないのですが、一緒にどうでしょう?」
「もちろん大丈夫」
おれがさわれたばっかりに待たせちゃったってことだよな。
「そうですか」とブルーはホッとした表情。
「では、トゥビット先生のところに行こうか」
タングステンが立ち上がる。
「話はつけているから、すぐに会えるぞ」
「トゥビット先生?」
「はい。私やタングステンの恩師なのですが、神殿の相談役をしている方なんです」
「そうだんやくってなに?」
リュウセイが聞いた。おれもわからないから是非知りたい。
「困ったときに、助けてくれる人ですよ」
ブルーがリュウセイとユウにいう。教えてもらった2人は「じゃあ、いい人なんだ」と笑い合う。
「はい、いい人です」
と、ブルーも嬉しそうにしているのを見ると、信頼できそうな人物らしい。
「いくぞ!」
気付くと、タングステンはすでに廊下に出ていた。はやっ。
「私たちも行きましょう」
「チビはー?」
ユウがチビを撫でながら聞く。
「もちろん一緒です」と答えるブルーに兄弟は喜んだ。
「迷った」
なにやってんだ、おれ!
何をどう間違えたのか、長い廊下をみんなで歩いていたはずが、おれだけはぐれてしまった……。もう、心配かけるわけにはいかないのに。
動かないで待った方がいいのか? いやでも……。
立ちすくんでいたおれは思い切り誰かとぶつかり衝撃を受けた。鼻が相手の肩にヒットする。
「いてっ……」
後ろに倒れそうになった時、手首を捕まれて引っ張られた。勢いで何かにぶつかる。これ、男の胸ーー?
「っ! 悪ぃーー……」
謝る声におれは視線を上げると、目の前に知らない男の顔。
あまりの近さに身体がのけぞる。
ーーこの人、前髪が長くて目が見えてないし、フードも被ってるうえ、全身黒尽くめの服着てるしで……な、なんか怪しい! で、でも神殿にいるわけだし、神殿の関係者の人だよな?
「こっちこそ前見てなくてごめん」
改めておれも謝るが、黒尽くめの人はピクリとも動かない。……あ、今、前髪の隙間から目がちょっと見えた! ……いやいや、そんなことはどうでもよくて。どうしたんだろう。……あ。
「……もしかしておれの顔になんかついてる?」
「いや、何もついてない」
あ、返事してくれた。
「……アンタは何してんの?」
そうだ。ちょっと恥ずかしいけど、ここは本当のことを言おう。
「ま、迷ってます」
「…………。案内いる?」
「あ……、すみません! 案内というか、教えてほしいんですけど。ブルーって知ってますか? タングステンでもいいんだけど」
「ちょっと待て」
その人は少し黙ってから、右の廊下奥の角を指差して言った。
「あっちに行ってみ」
指差した方へ目をやる。あの廊下を行けば、ブルー達と合流できるってことかな。
「あ、ありがーー」
お礼を言おうと顔を戻したが、すでに男の姿は消えていた。
「お礼、言えなかったな」
仕方なく教えられた廊下の先に向かうと、角を曲がった所で息を切らせたブルーが現れた。
「いた! アオバくん!」
ホッとした表情のブルーにおれは謝った。
「ごめん、見失っちゃって」
「いえ、この辺りは入り組んでますから。無事でよかった」
安堵のためか気の抜けた笑みを浮かべるブルーを見て、デジャヴ。さっき再会したばっかなのにまた心配をかけてしまった。
「ホントにごめん」
「いえ……。私こそ、すぐに気付かずにすみません」
「にしても、よくおれの居場所がわかったな?」
「範囲内ならアオバくんの場所はわかるので」
「範囲内?」
「『自己の証明』……沼地の屋敷でアオバくんにかけた魔法、覚えてますか?」
「ああ! GPS!」
井戸でブルーにかけてもらった魔法を思い出す。迷子防止のGPSみたいだと思ったやつ。
「ジーピーエス?」
「はは……いや、気にしないで。その魔法があれば、居場所がわかるっていってたな」
「はい。範囲は限られますが、同じ建物内なら問題なく作動しています」
「へぇ」
緑のクマに攫われたときは範囲外だったってことかな?
「つくづく、魔法って便利だな」
「はは。万能というわけではないんですけどね。でも今回はすぐに合流できて良かったです」
「うん。そういえば、神殿の人に道を教えてもらったんだよね」
「……そうだったんですね」
それから、問題なくみんなの所に合流できた。
神殿内の長い廊下。ブルーは先頭を歩くタングステンに声をかけた。
「そろそろじゃない?」
「ああ……ここだ」
タングステンが立ち止まると、その前には大きな黄色い扉が現れた。
「さ、さっきまでなかったよな?!」
突然現れた扉に思わず声を上げると、ブルーが何でもないように言った。
「神殿はちょっと普通とは違う造りになってるんです。約束の時間と場所を決めて、先生の部屋へ繋ぐようにしています」
「な、なにそれ」
部屋が移動してるってこと?
正直、訳がわからないが、この世界はそういうものだと納得するしかないようだ。まだ全然慣れないけど……。
「不思議!」
「すごーい」
リュウセイとユウは無邪気に喜んでいた。
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