12 合流と神子候補
眩しさを感じて目を明けた。ぼやける視界に目をこする。
毛繕いをするピーを見て、ここがどこか思い出す。
そうだ。ブルーたちと神殿まできて、そしたら緑色のクマに攫われて。ヒノコに助けてもらって…それで……。
辺りを見回すがヒノコの姿がない。あいつ、具合悪かったよなーー、
「ヒノコ!?」
「よんだ?」
寝床に使っていた葉の下から、ひょっこりとヒノコが顔を出した。
「食い物とってきた」
戦利品の食べ物を見せてくるヒノコは紅色の頬だ。「おまえの分」と渡されたバナナもどきをお礼を伝えつつ受け取る。
「体調は?」
「ばっちりだぜ」
力こぶを作る仕草。
ーーよかった。
おれは安心して、笑顔になったと思う。ヒノコも嬉しそうだ。
「昨日、アオバが治してくれたおかげ。ありがとう!」
「おれが?」
「そーだよ。アオバが光って俺も光ってさ。あのあと、よくなったんだぜ」
「うーん」
昨日の夜のことは実はあんまり覚えてないし、よく分からない。光ったりしたことって、本当におれがやったのか?
しかし、笑顔のヒノコを見ているとどうでも良くなってきた。
「体調がよくなったなら、本当に良かったよ。えっと、飛べそう?」
「もちろん」
ヒノコは立ち上がり、果物や樹の実をピーにあげた。大きな鳥は嬉しそうに「ピー」と鳴いた。
「あ、ほんとにピーって鳴いた!」
「でしょ。なー、ピーもたまには鳴くもんな」
ねー、と話しかけられるがピーは一生懸命食べ続けている。
朝ごはんを食べ終わり、再びピーに乗って移動することになった。
「いこう」
と言うとおもむろに近づいてくるヒノコにあっという間に足を掬われて、抱き上げられた。
「おいっ」
これって何度目だ?! こいつの距離感おかしい!
「アオバ、もうちょっとで神殿につきそう」
ピーの背中にまたがり、ヒノコの腰にしがみついているおれを振り向いてヒノコが言った。
「よ、よかった……」
ピーの背中から見渡す景色はずっと森ばかりだったが、こいつが言うならそうなんだろう。
「おおーい」
急に、誰かの声が聞こえた。
「おおーい」
ん?
なんか聞いたことある声かも。
突然、ピーの目の前の空間にドアが現れる。そしてーーー
「アオバくん!!」
ドアが開かれるとそこから顔を出したのはブルー。
「よかったー! ……て、わああ」
ブルーは空中に現れたドアから落ちそうになるほど、体をせり出していた。
身体が傾きーー落ちる! と思ったところを、ピーが足で捕まえた。
「あっぶな」
ヒノコが呟いた。
「ブルー! 大丈夫?!」
下へ叫ぶと「だ、だ、だ、大丈夫ですー」と小さな声。
よ、よかった……!
「あ、ありがとうございます……」
ブルーはピーの足に掴まれながら言った。顔も上げられない状態でまるでUFOキャッチャーのクレーンにつかまった景品みたいだった。
「アオバくんは、無事ですか?」
ピーの足に掴まれている為、おれたちの下の方から声がしている。
「いや、おれの心配してる場合じゃないだろ」
思わず呟く。
ブルーが出てきたドアの奥は光りが強く何も見えないが、奥から「いたのか!」「にいちゃん!」と知った声が聞こえてくる。
「急に来たねー。範囲に入った?」
ヒノコは落ちそうなブルーを見て言った。
「あなたは……!」
いつもは穏やかなブルーの声が固くなった。
「どういうつもりですか?!」
もしかしなくても、勘違いしてる?!
「ブルー、違う違う! こいつ、助けてくれて……!」
「えっ?」
「詳しい話はあとで話すよ。……とにかく、皆のところへ戻るから。ヒノコ頼む」
「はいよ」
ヒノコがピーの首をトンと叩くと、大鷲は大きく羽根を羽ばたかせて空中の扉を飛び越えた。
「にいちゃん!!」
「わーん!」
地面に降りたと同時に、すっ飛んできておれにすがりついたのはリュウセイとユウ。
「……心配かけてごめんな」
受け止めたあと、しゃがみ込み彼らの目を見て言った。
2人の泣きそうな顔は笑顔になり、おれはホッとする。
「無事でなによりだ!」
その後ろではタングステンがやさしい眼差しでこちらを見ていた。
皆にはかなり心配をかけてしまったようだ。
「急にいなくなった時は本当に……本当に心配しました」
ピーの腹から這い出たブルーがおれの前までくる。
「良かった……」
言いながら、おれは抱きしめられた。中学生にもなってーーと、恥ずかしくなったが、ブルーの真剣さに気圧され、されるがままでいた。
「心配かけてごめん」
小さいが精一杯の声でいうと、腕の力が弱くなる。身体を離されて両腕を掴まれた。灰色の目がのぞき込んでくる。
「怪我、ないですか?」
「うん」
ブルーの強張っていた顔が崩れる。
「本当に良かったです……」
そして、おれとの距離が近いことに気が付いたようで、あわてた様子で「すいません」と身体を離した。
「へー、アオバってけっこう好かれてんじゃん」
ヒノコがおれの後ろからひょっこりと顔を出して呑気そうに言った。
「そうだ、ブルー、こいつはヒノコっていうんだけどーー……」
ブルーに紹介しようと口を開いたと同時に、おれはこの魔法使いに引き寄せられた。一瞬でブルーはおれの前に立ち、ヒノコを見下ろしたのだ。
え、どーゆー状況。
「ヒノコさん、どういうことかですか?」
「ブルー……こわい顔だなあ」
「ーー2人って知り合い?」
驚いた。……にしても、ちょっと険悪な雰囲気? もしかしてブルーは、ヒノコがおれを連れ出したとか勘違いしてるのかな。
これは、よくない。
「待って、ブルー。ヒノコはおれを助けてくれたんだ。おれ、神殿の入り口の前で急に緑のクマにさらわれたみたいで」
「え?」
ブルーは振り向いておれを見た。
一歩下がっておれたちの様子を見ていたタングステンがちょっと意外な感じで言った。
「緑のクマが? 珍しいな」
「クマの巣まで連れていかれたんだけど、そこにヒノコが来て助けてくれて……」
ヒノコがおれの髪の毛をつつく。
「おれ、緑色の髪だろ? クマがおれのことを仲間だと勘違いしたみたい。ヒノコがクマに説明してくれてさ。そしたら、クマは帰してくれたんだ」
「緑のクマは本来なら無害な存在だ。仲間に間違えられたのなら、納得いくな」
「クマの仲間意識がそんなに強いとは知りませんでした。そうですか……」
ブルーはヒノコを見た。
「アオバくんを助けてくれたんですね。その……ありがとうございました」
そして頭を下げた。
「勘違いをしてしまい、大変失礼しました」
ヒノコはそんなブルーを見て目を丸くして、「うん」と返事をしたあと、少し気まずそうに言った。
「……ブルーがおれを疑った気持ちわかるよ。だっておれ、この前の晩にアオバのこと攫ったから」
「え?」
おれ?
ヒノコが続けた。
「すぐに奪い返されちゃったけど……でも、今回は偶然だよ。アオバが巣に連れて行かれるのを見て追ったんだ」
「ヒノコさん……」
ブルーは驚いた様子だ。いや。おれだって驚いてる。
「おれを攫った……だって? そんなの、知らなかった」
「うん、記憶が残らないようにしたから」
何いって……? おれはだんだんムカついてきた。
「なんで、そんなことした?」
「だって」
おれをからかってんの?
「異世界からきた神子に興味があったから」
と、ヒノコはあっけらかんと言った。
おれは思わず「おれは神子じゃない」と口にしていた。だが、悪びれる様子も無いヒノコを前にブルーはため息をつく。
「そんなに気になったなら、訪ねてくれれば良かったんですよ」
「うーん、なんか悔しかったし」
「……神子候補としてか?」
タングステンが言った。
「まー、そうかな?」
そういえば、ヒノコは神子候補だったって、話してたっけ。
そうか。この世界に住む住人なら、ましてや神子候補だったのなら、外からの人間が突然現れて割り込んできたようなものだから、いい気分はしないだろう。
……いや、でも。
「おまえ、おれのこと知ってたんだな」
なんで隠してたんだよ、とちょっと恨めしい顔になっていたと思う。ヒノコは「へへ」と笑った。
「言いづらくて。でもアオバには、また会いたかったから、うれしかった」
はにかむような笑顔を向けられておれは黙り込んだ。
「アオバにいちゃん、顔赤い」
余計なこと言うな、リュウセイ。
リュウセイを睨むと、いたずらっ子の様な顔で笑っている。そんな兄の隣でおとなしくしていたユウが無邪気に言った。
「このおねえちゃん、だれぇ?」
「兄ちゃんだかんね!」
訂正するヒノコに、兄弟は不思議そうだ。
いや、わかるぞ、2人とも。
正直おれも初めて見た時は女の子かと思った。白い服から伸びた細腕はこいつを中性的に見せていたから。
「まっ、いーや。またね、アオバ!」
言うと、ヒノコはくるりと大鷲の背中に飛び乗った。ピーは音もなく飛び立ち、青い空に溶けるように消えた。
読んでくださり誠にありがとうございます!
面白かった。続きが気になるかも。また読みたい。
と思っていただけましたら、
下にある☆☆☆☆☆マークのところから、物語への応援お願いできればと思います。
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもしていただけると、本当にうれしいです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




