11 ふたり旅と不思議な光
鳥の背中に乗っての移動はめちゃくちゃ揺れるのかと思い、戦慄していたが意外にも杞憂だった。
「気持ちいいだろ?」
ヒノコが振り返りおれを見た。自慢げな顔。
「うん。気分いいな」
しばらく森の上を飛んでいたが、鳥は大きな木の枝に止まった。
「腹減ったから、ご飯にしよう」
言われてから、おなかが、ぐううとなった。確かに腹が減ってる。
食べ物なんか都合よくあるわけ無いと思ったが、いや。さっきクマからもらったバナナモドキがあるじゃん。
「クマにもらったやつあるけど、コレって食べれる?」
ヒノコに見せた。
「おー、そーいやもらってたな。これは食べれるぜ!」
よかった。ひとまず、食べれるものがあって一安心。
「でも少ないか」
「心配すんな。おれも持ってるから、一緒に食おう」
どう見ても手ぶらに見えるヒノコだったが、ポケットに手を入れてなにかを探していた。
「…………あった!」
目的のものを見つけたみたいで、ポケットから手をだすと、そこにはオレンジ色のくだものが出てくる。
「す、すごい」
「いいでしょ? このポケット。博士に着けてもらったんだ」
「博士?」
「うん」
何者なんだ、その博士って……。
「食べようぜ」
ヒノコは『博士』の話などするつもりはないらしい。……。まあいいか。
正直なところ、この世界に来てから、気になることが多過ぎて、逆に何も気にならなくなってきたくらいだった。
簡単な食事を終えたあと。
くだものの皮を「これ好きなんだよね」と鳥にあげていたヒノコに、めちゃくちゃ基本的なことを聞いた。
「そういやさ、帰り道ってわかる?」
「わかる。神殿の位置はわかるから」
「良かった。……でも、よくわかるな?」
「うん? そりゃあわかるよ。おれ神子だもん」
「え?」
神子……って……聞いたことあるぞ。
「あー、まだ神子じゃないか。神子候補」
ヒノコはペロリと舌を出した。
「神子候補?」
「だから神殿の位置はわかる」
「そ、そういうもんなの?」
おれやリュウセイ、ユウは確か『神子様』として喚び出されたんだよな。
ヒノコの言う神子って、同じ『神子』か?
「うん」
ヒノコに神子のことを聞いてみようかと思ったけど、「もう少ししたら飛ぶよ」という言葉にはやめた。
「神殿に着くのは明日になるかなー」
ブルーたちの顔が浮かぶ。明日には会えるのかな。
「クマに連れてこられた時って一瞬だったから、神殿からそんなに離れてないと思ってた」
「クマってすっごく速いんだ」
ヒノコの眉間にシワがよる。
「あのでかい図体でスピードは妖精の中でもピカイチでけっこう厄介」
「へー、意外」
緑のクマのフワフワした巨体を思い出す。
「だよねー」
ヒノコはでかい鳥を指差す。
「コイツも速い方だけど、クマには負けちゃうわけ」
「ふーん」
じゃあ、仕方ないよな。そもそも帰れるだけでもありがたいし。
食事休憩後、予定通りおれたちはまた飛んだ。広大な森の上空をとにかく進むだけなわけだが、ヒノコがいなかったらと思うとゾッとする。
おれ1人だったら、戻ることは出来なかっただろう。
空が暗くなり、夜が来た。
ヒノコが鳥の首をさすると、鳥はスピードを落としゆっくり旋回する。
「今日はここで寝ようぜ」
ヒノコが下を指さしていった。
「ここ?」
「うん。ここなら安心だから」
大きな木の折重なった葉っぱの上。先ほど休憩したときと同じような雰囲気のところ。
「やっぱ高いとこが安心?」
「そりゃあね」
話している間に鳥は音もなく着地した。鳥はヒノコの言う事をきちんと守っているようだ。すごいな。
「この鳥ってヒノコの相棒……とか?」
ブルーとチビを思い出す。あいつらも相棒みたいなもんかな。
「うーん」
鳥を見るヒノコ。鳥もチラっと彼をみる。
「名前は?」
「ピー」
「え、もしかして……ピーピーな鳴くからとか?」
思わず聞く。
「そう! もっと小さかった時はよくピーピー鳴いててさ。それで、ピーにした」
「な、ピー!」と首の所をトントンされる大きな鳥。
「……」
「いまは滅多に鳴かないけど」
ピーは撫でられながら気持ちよさそうに目を細めている。
「ま、とにかく。ピーが大丈夫だって教えてくれた場所だからここで休んで問題なし」
言って、ヒノコはポケットから笑顔で食べ物を取り出した。
簡単な食事をすませたおれたちは早めに眠ることにした。ピーはすでに体を丸めて寝る体勢だ。
おれたちもピーの横に寝転がる準備をする。
「ヒノコ、今日はありがとうな」
「うん……」
話しかけてもぼんやりした眼差しだ。
なんだろう、この違和感。会ったばかりだけどヒノコの様子がおかしく感じる。食事中から口数が少なくなってたことは勘違いじゃなさそうだった。
もしかしなくても、体調崩してる……?
「大丈夫か!?」
「……」
「おい!」
「え?」
肩を揺するとようやく反応した。赤い目は潤んでいる。
「横になって」
ベッドなんてものはないが、とにかく休まないと。
ヒノコの肩を抱いて、ゆっくり体を倒してやる。意外にもされるがままだ。
「……わりい」
ヒノコはおれをみあげて呟いた。
「ぜんぜん。長く飛んだから疲れるよな」
車だって長い距離を運転すると疲れるらしいし。
「おれ、たまに……こうなるんだ」
ヒノコの額に汗がにじむ。
「とにかくゆっくり休んでくれ」
おれは罪悪感でいっぱいになった。
それで思わず、ごめんという言葉がこぼれた。
「……なんでアオバがあやまんの?」
「だって」
「いつものことだから」
ヒノコは目をつぶり、続けた。
「寝ればよくなる……」
フゥフゥと短い息を吐きながら静かになった。
もう寝た?
ヒノコの青白い顔を見てから、不安になってピーの様子も伺うが、特に心配する様子もなく静かだった。
大丈夫なのか……?
おれがしっかりしなくちゃ。ヒノコは寝ているし、おれ自身も休まなければいけない。自分に言い聞かせるように強く思った。
そして、横たわり目を閉じた。
「ママ、ママ」と母親を呼んで泣く子どもの声。
オレンジ色の空がだんだんと暗くなっていくなか、ぽつんと立ち尽くす小さな影が誰かに抱きしめられる。
「ごめんな、青葉」
あたたかい。
「ごめん……」
とうさん……?
隣から聞こえる苦しげな声に目を覚ました。
「……。ーーっー」
見ると、ヒノコの額には大粒の汗が滲み、元から白い顔が真っ青になっていた。
寝れば治ると言ってたけど、ほんとうに……?
ヒノコの細く白い手を触るとひんやりとしていた。想像よりも筋張った感触の手をぐっと両手で握る。
「大丈夫、大丈夫……」
目をつむり、よくなれと願いを込めた。
どれくらい経っただろうか。ヒノコの手が温かくなっていく感覚。
よくなる、よくなる……大丈夫……。
「アオバ」
ヒノコの声がおれを呼んだ。
「あ……?」
おれ、寝てた?
どのくらいたったのだろう。
目を開けると、ヒノコの顔。奴の青白かった顔は赤みが戻っているように見えた。
……いや、なんか……。
「おまえ、光ってない?」
ヒノコが妙なことを言う。
「おれ?」
何をわけわからんことを……いやむしろ、
「ヒノコが光ってる!」
「あ? いや、おまえが光ってるって」
「いや、おまえが……」
薄暗い中、ヒノコの全身を光の膜が包んでいるような神秘的な光景。
でも、なんかおれの真下から眩しさを感じて、チラリと自分の体を見た。
「ほんとだ! おれも光ってる!?」
なにこれ。2人して光ってるってこと?
しばらくすると光はスゥーッと小さくなり、ヒノコの体から光が去った。
じぃっと赤い目がおれを見た。
「アオバの光りがうつったんだ」
「そんなわけないだろ」
「だって」
ヒノコの視線を追って自分の身体を見るとーー、ほんとだ。光っていたのはおれで、最後は俺の胸の真ん中あたりでパッと消えた。
「な、なんだったんだろ」
「さあ」
2人して顔を見合わせる。……そういえば、ヒノコの顔色。
「体調どう?」
「あ! あーなんか、よくなってる!!」
「おお」
あれぇ?とヒノコは、首を捻るばかり。
「いつもは何日かかかるのになあ」とぶつぶつ。
「なんか、すっきりした!」
すっくと立ち上がり、飛び跳ねるヤツにおれは胸を撫で下ろした。
「よかった」
「なんだろ? アオバが光ったことに関係あるのかな?」
「さあな。わからんけど……あふ」
正直まだ眠い。辺りは暗いし、夜はまだ続いていた。
「寝ようぜ」
キョトンとするヒノコ。
「なんか、元気がありあまって寝れないかも」
目がランランと輝いている。おいおい、とは言っても明日も長いしさ。
「……おれは寝る」
たまらず横になり、目をつむる。
真上からおれを呼ぶ声を聞きながら眠りに落ちていった。
読んでくださり誠にありがとうございます!
面白かった。続きが気になるかも。また読みたい。
と思っていただけましたら、
下にある☆☆☆☆☆マークのところから、物語への応援お願いできればと思います。
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもしていただけると、本当にうれしいです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




