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入婿白狼と吸血花嫁  作者: 雉豆 さら


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第二話 満月の祝福を

それから2週間は予想以上に忙しかった。

軍への報告に孤児院への報告。婚姻にあたっての書類の数々。

合間を縫ってリズ様にお会いしておきたかったが、生憎お互い都合がつかずに義父となるクレアドール公爵としか会うことは叶わなかった。

クレアドール公爵は朗らかなひとで、緊張する俺に


『そんなに固くならなくても良いよ、君はこれからうちの息子になるのだから』


とお言葉をかけてくださった。

荷物をクレアドール家に移動させるのも快諾してくださり、少しずつ引越しはしていたのだが結局リズ様とはひと目会うことも出来ず、今日この式に至る。

満月が祝福するには少し早いが、魔王城の庭には人が集まり始めていた。

きっと今頃、どこかの部屋でリズ様も漆黒のウェディングドレスに着替えているに違いない。

ふと、軍のデータベースで見つけたリズ様の情報を思い出す。


「『小さく残虐な拷問官』、ね……」


そこに掲載されていたのは、腰ほどもある金髪の長いツインテールを靡かせ恍惚の表情で炎の鞭を振るっている写真。

曰く、10歳の平均身長であるわずか1.4ラタの身体で、炎で出来た鞭を振り回すのだと。満面の笑みで。俺が1.85ラタだから、並べば胸の辺りか。

しかも、吸血鬼族なのにも関わらず、噛むことをせずにわざわざ鞭でいたぶって、滴り落ちた血だけを好む、んだと。

吸血鬼族の唾液には一種の麻酔のような効果があると言う。それを使わず相手を痛めつけて血を飲むのか。データベースを見た時は、背筋が僅かに冷たくなり、尻尾の毛が逆立つ感触がしたのを覚えている。

俺もきっと、炎の鞭で好き勝手されてしまうのだ。だが、逃げ道はねェ。とは言え魔王様が言うように後ろ盾があった方が良いのも事実、断るという選択肢は無かった。


「やぁ、ブラン。緊張しているかい?」

「魔王様」


ノックと共に表れた魔王は、いつもの白地に金と群青をあしらった魔王装束ではなく、祝いの黒に全身を包まれていた。


「今日ばかりは君の方が黒いなぁ、ブラン」

「このままじゃ、(ブラン)じゃなくて(シュヴァルツ)ッスわ」


何者にも染まらない、誓いの漆黒のタキシードで肩を竦めて見せると魔王様は笑う。


「君がクレアドール家に入ってくれるのなら安心だ。君の事も、リズの事もね。……あの子を頼むよ」

「御意に、指揮官殿」


コンコンコン、とノックが響く。

魔王城のメイドが恭しく頭を下げた。


「ブラン様、そろそろ会場へ参りましょう」

「だってさ。僕もすぐに行くよ」


すっかり日は沈みきって、祝福の満月が魔王城の庭を照らし出していた。

メイドに案内されながら庭に出て、バラのアーチをくぐって中に入ると拍手に混ざって部下達の声が聞こえて来る。


「隊長!おめでとうございます!」

「あの隊長がまさか結婚とは」

「俺達も安心です!」


わいわいと盛り上がる可愛い部下達の声を背にバージンロードを進み、庭の中心の噴水の前で会ったこともない花嫁を待つ。

普段は開けているシャツのボタンを全て閉めているせいか、緊張のせいか、春先の夜にしては少し熱い気がした。


ヴァイオリンの曲が変わり、皆一斉に口を噤む。視線が俺からバラのアーチへ一気に移動した。

クレアドール公爵と腕を組んだ小さな身体に拍手が湧き上がる。ヴェールで顔は見えない。

1歩、また1歩とこちらに近付いてくる。

ごくり、と生唾を飲み込む。

薄紫の花束を抱える小さな手は、いつもは拷問によって血塗られているのだろう。

クレアドール公爵の腕からそっと手を離し、俺の元に1歩近づくリズ様。クレアドール公爵はリズ様と俺を優しい目で見つめた後、用意された席に腰掛けた。

妖狐族の神官が俺に問いかける。


「汝、花嫁の色に生涯染まることを誓うか」

「はい、誓います」


この儀式、何かお芝居みたいで笑っちまいそうになるなァ。

同じ質問をされるリズ様を横目に、ふと関係ない事を考えた。


「では、満月の祝福を」


リズ様のヴェールを手に取る。少し身体を屈めて破らないよう慎重に薄い生地を避けると、魔王様と同じ金髪が月光に照らされた。

紅色の瞳が俺を捉えた後、そっと閉じられた。

更に身体を屈めて、軽く唇を重ねる。

……震えてんじゃねェか。

考えてもみれば、彼女も会ったことの無ェ奴と初対面で結婚するのは同じって訳だ。

唇を離せば、またこちらを見つめる紅色が2つ。

割れんばかりの感動の拍手の中で、きっと俺達だけが冷静だった。

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