第一話 この俺が、政略結婚だァ……?
「ブラン、好いひとは居ないのかい」
……魔王様直々のお呼び出しがかかったと思ったら、セクハラ発言をかまされた。
いや俺魔王軍の二番隊隊長。アンタ、魔王軍の最高指揮官、魔王であるカイン=ヴァルキス様。上司から突然恋人の有無聞かれるの、さすがにどうかと思う。
「あー……まぁぼちぼち……ですねぇ」
魔王様には忠義も恩もある。が、脈絡なく恋愛の話をするような間柄でないことは確か。
「居るのか居ないのか聞いているのだが」
「居ないッスよ」
嫌な予感。表情には出さないようにしているが、視界に入ったグレーの尻尾は下がっていくし、耳も勝手に伏せられていく。
こういう時、俺の予感は大抵当たる。
「君ももう19だろう。もし決まった相手がいないのなら、私の従姉妹に婿入りして欲しいんだ」
「イトコ。ムコイリ。……はぁっ!?」
「……ま、驚くだろうね」
当たり前だろ、と内心悪態をつく。そもそも、魔王様の従姉妹って、存在しか知らねェよ。
「リズ様……でしたっけ。拷問官の」
同じく魔王軍で仕事をする身、もしかしたらすれ違ったりしているのかもしれないが、ぱっと顔を思い出せない。
「そう、リズ=クレアドール。クレアドール家の一人娘でね。私の1つ下で君とも同い年だし良いかと思って」
クレアドール公爵家。吸血鬼のリズ様が幼い頃に公爵夫人が亡くなってしまい、リズ様を次期当主とすると聞いた事がある。
「……で、俺が婿入りしてクレアドール家に後継を作ってやれと」
「言い方。間違ってはいないから申し訳ないのだけれどね……でも君にメリットもあるからこの話をしているんだ」
そんなもの分かっている。公爵家の苗字を名乗れということだ。
「隊長が孤児院出身はやっぱ締まらないッスもんね」
俺は、親が居ない。
白いオオカミは群れに不吉を呼び込むから。
白銀だった雷獣の俺は、捨てられた。
「違うよ、ブラン」
普段の魔王様の優しい声ではない。しまった、卑屈になりすぎたか。
「クレアドール家を名乗ることによって君には後ろ盾が出来る。もちろん君は隊員や国民からの信頼も厚いが、妬みを買うことだってあるだろう。でもクレアドールに喧嘩を売るものはそう居ない。」
魔王様の、仮面で半分を隠した顔がこちらを向く。薄い水色の瞳がこちらを射抜く。
「君を守る為でもあるんだ」
……まぁ、身を固めなければと思っていたところに縁談が入ってきた、それだけの話だ。そう思うことにするか。
「お話、お受けしますよ」
「本当かい?それなら早速段取りを決めようか。今からだと……2週間後が満月だね、式はその日にしよう」
忙しくなりそうだ。覚悟、決めるか。




