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愛の余罪 〜同居する事になった毒舌な美少女女子高生に、雑魚と揶揄われて困っています〜  作者: ラストジェネレーション
第一章 

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第十七話 初恋

 東雲未来が血相を変えて病室に乗り込んできたのはその日の晩だった。部活後に異変を察知しすぐに駆け寄ったためか、着衣は乱れ呼吸も荒い。


「ねぇ..。星野これは一体どういう事なの?? なんで皆川くんがこんな状態になっているの!」


「ははは..。ちょっと頭のおかしい連中に絡まれたんだ。春先になると増えるでしょ..」


 僕の極力場を取り繕う為の嘘を静止し、渚沙は歩を進めていく。未来の目の前に構え、膝を折った。


「ごめんなさい。全部私のせいなんです。事情は私の口から説明します」


 そこから彼女は、淀みなく事のあらましを話していった。最初はこの状況を上手く理解出来ていなかった未来も、次第に呑み込めて来たらしい。


「なるほど、ね..。星野、あんたも頭殴られたんでしょ? 今の所意識に問題は無い?」


「え、えぇ..。でもどうして、私の事責めないの..?」


「別に。個人情報抜いたのだって、どうせ不良仲間に指示されてやっただけでしょ。あんたの意思じゃ無い。それに皆川も、少しはやり返してみたら?」


「それが出来たら苦労しねーよ。というか僕の心配もしろ」


 そう不満を漏らすと、未来はベエッと舌を突き出した。


「雑魚の心配なんてするわけないでしょ。どんだけ自意識過剰なの。本当に、気持ち悪いねぇ〜」


「....そりゃ悪かったな」


「えぇ。じゃ、私は家に帰るわ。星野がつきっきりで看病してくれるんだもん。本当に、ありがとう..」


 その後特にやり取りを交わす事もなく、彼女は出て行った。


「はは..。本当に来てくれただけみたいだな。案外落ち着いていたし、良かったよ」


「......。そうだね、未来、お化粧が上手だもんね。顔とか、すごく綺麗だし」


「あいつは何もしなくても美人だよ。というかそれ、今の話題と関係ある?」


「あるよ。女だから..、いや、私だから分かる。あの子今とても不安定だし、通話でも繋げてあげて、今日は三人でお喋りしながら寝よう」


「寝落ち通話って奴..? 別に良いよ。あまりおしゃべりに熱中し過ぎると、個室とは言え他の患者さんに迷惑かかるかも知れないし。それに、面と向かって話した方が楽しいよ」


「....。そう。じゃあいつでも私が相手になるよ。何について話す?」


「......」


「.......」


「ははは..。急にとなると、少し気まずいよね」


「うん..。でも、こんな夜もたまには悪くないよね。皆川、今日は月が綺麗だよ」


「本当だ。スーパームーンだっけ? いつもより大きく見えるね」


「えぇ、とっても綺麗。私さ、こんな事言うのも不謹慎だと思うけど、最低だった父と同じ苗字なのが本当に嫌だった。あんな奴の血が、自分の半分だって受け入れたくなかった」


 星野は静かに息を吸った。普段の冷静さを失い、動揺しているのが息遣いから分かった。


「不思議、だよね。どうしてクズな男に限って案外すぐに結婚して、真面目で優しい男の人は、ぞんざいに扱われるんだろう。後者はやっぱり、男としての魅力が無いからなのかな?」


「....」


 僕の顔を直視しながら、彼女の唇は震えていた。何か彼女の禁忌に触れるような事が起こりそうな気配があった。患者衣の結び目を解いていく。そこから広がった光景に、僕は言葉を失った。


「私は、男としての魅力も、女の本能なんてものも信じてない。馬鹿は馬鹿同士でくっついて、私みたいな社会のお荷物を産んで終わり。この傷は、そんな負の連鎖の終着点だよ....」


「星野....。お前、今まで誰かにそれを見せた事はないのか..?」


「ないよ....。同情されて憐れまれたり、忌避されるのが嫌で、怖かった」


 彼女の傷は具体的にはこうだ。


 まず腹部を中心とした身体の至る所に、刃物による切り傷、熱湯や薬品で爛れた跡が残っている。腕部は昔ひどい骨折でもしたのか歪んだまま固定されていて、青痣もそこかしこに広がっていた。


「醜い身体だよね。だから私、未来の綺麗な肌を見て嫉妬しちゃった。揶揄ってみたくなったの」


「誰にやられた..?」


「実の父親。私の身体を切ったり、火で炙ったりするのを好んでやる変態野郎だった。普段は会社でこき使われて、ストレスが溜まるとその発散に使われたの」


「もう、治らないの? その傷..」


「火傷はケロイドになってるからね。切り傷も深い奴は残るし、腕も変な治り方しちゃったから、もう元の形にはならないよ。痣はまぁ、そのうち消えるけど..」


「え..。じゃあその痣は最近できたって事?」


「ま、まぁね..。最近あんたと夜遅くまで話し込むようになったじゃない。家空けてたのがバレちゃったの。少し暴力を受けたくらいだから、あまり気にしないで」


「気にするよ。一応、自分のせいでもあるし」


「ふふ..。君は本当に優しいんだね。私なんか、どうなったって良いのに..」


 渚沙は下を向いて、涙を堪えていた。


「....。駄目だよ。渚沙がいなくなったら、僕が困る」


「本当..?」


「あぁ。渚沙は僕にとって、大切な人だから」


「........」


♢(星野視点)


 初めて言われた。大切な人ーー


 その言葉で、私のつまらなくて、退屈な人生が報われたような気がした。


 ずっと自分が生まれてきたのは間違いで、存在する価値なんて何一つない役立たずだと思って生きてきた。そんな私にも、確かに生きる意味があるのだと、思えた気がした。


 ドクン


 駄目だ。心臓が脈打って収まらない。皆川への想いが氾濫して止まらない。


「大丈夫? 急に泣き出したりなんかして」


 優しすぎるよ。私のせいで、とても痛い思いをして、それでもまだ私の事を気遣ってくれるなんて、どれだけお人好しなんだろう? こんな風に扱われた事なんて、今までで一度だってなかった。


「....」


 良いよね。私だって、少しくらい幸せな時があっても、良いよね。


 ごめん未来。私、貴方が大好きな人と、同じ人を好きになっちゃった。



 


 







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