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暦君には壁が居る  作者: 二核


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32/36

意地のマリーシア

 相手チームに追いつかれ、勢いをもっていかれた上葉高校。

 結末が分からなくなった観客は、ジャイアントキリングを期待するように、敵チームを応援し始めている。

 勝利が義務付けられたこのチームにとって、流れとしては最悪な時間帯だ。

 しかし、そんな修羅場はとっくに経験済みだと言わんばかりに、ピッチに立つ2年と3年は顔を上げて気持ちを切り替えている。

 そして、唯一一年である暦もキャプテンに励まされたおかげで、プレーの質を落とすことなく、高いインテンシティを維持することができた。

 しかし、それでも肝心のゴールを決めることができない。

 上葉高校がボールを持つと、相手はペナルティエリアに6人の選手を配置し、パスを出しても呆気なくカットされてしまう。

 上から攻めても屈強なディフェンダーたちが空中戦を制して、何度もはじき返され、前線に残っていた1人にカウンターを許し、危うく逆転ゴールになってしまうシーンも散見された。

 勢いに任せて逆転しにいくかと思いきや、彼らは油断せず兜の緒を固く締めつけているのだ。

 ……ピッ、ピッ、ピー!!!

 そして、お互いに点を取れないまま時間が過ぎ、結果はドローに終わった。

 決着がつかなかったこの試合は前半と後半ともに15分ずつの延長戦までもつれ込んだ。

 会場の空気は依然として善戦している敵チームに傾いている。

 試合の流れも会場の雰囲気も覆せない苦しい状況に、流石の先輩たちも肩を落としてすっかり静まり返っていた。

「おいおい、どうしたんだお前ら。これくらいでへこたれるようじゃ、上葉高校の名が泣くぜ」

 しかし、そんな中でもキャプテンは一人、チームの中心に立って皆を鼓舞し続けていた。

「でも、あんなに引いて守られちゃ、どう打開すればいいんだよ」

 センターフォワードを務める2年の丸手朗太まるて ろうたが、青ざめた顔で弱音を吐く。

 ストライカーに位置するポジションにいながら、この大会で未だにノーゴールなのだ。

 焦るのも無理はない。

「落ち着け朗太。今俺たちに必要なのは、名門校としての理想的な勝利じゃない。形にこだわらない勝利へのハングリー精神だ!」

 キャプテンの熱がこもった演説に、うなだれていた選手たちの顔が自然と上がる。

 すると、キャプテンは不敵な笑み浮かべて、仲間たちにこう言い放った。

「……俺たち、今からクソ野郎になるぞ」



 短いハーフタイムが終了し、延長戦の前半が始まろうとしていた。

 ピッチに入る上葉高校の選手たちは、皆同様に不敵な笑みを浮かべている。

「……どうしたんだ、あいつら」

 最前線にいた敵チームの大熊が戸惑っていると、開始の笛が吹かれ、上葉高校のキックオフから試合が始まる。

 試合は相変わらず上葉高校が一方的に攻め立てていたが、ここにきてチームの一つの狙いが炸裂する。

 チームの心臓ともいえる役割を務めていたボランチ(真ん中のポジション)のキャプテンが、右サイドにできたスペースめがけてパスを送る。

 それに反応した朗太が追走すると、同じく近くにいた敵の1人と並走するような格好になった。

 身体能力で劣る上葉高校はスピードもフィジカルでも勝てないことは、これまで何度も目にしてきた光景だ。

 しかし、それでも朗太は負けじと、敵の真横に食らいついた。

 そして、並走中に敵選手の大きな肩が、朗太の顔面に強く当たった。

「あーーーーーっ!!」

 すると、朗太は大きな悲鳴を上げながら自分の顔を抑え、ピッチに転がった。

 ピー――ッ!

 審判は迷わず笛を吹いてプレーを止め、朗太を倒した敵選手に近づいてイエローカードを掲げる。

「はぁ!? おかしいだろ!?」

 敵の選手は納得できないと、両手を広げて審判に抗議をする。

 そして、敵のチームメイトもその抗議に加わり、キャプテンはヒートアップした仲間をなんとか鎮めようと仲裁した。

 相手が怒るのも当然。

 あの一瞬は正確に言えば、朗太からわざと当たりに行ったのだから。

 朗太は未だに顔を抑えて倒れ込んでいるが、おそらく軽傷だろう。

「よくやった朗太」

 そう、これを提案したのは、他でもないキャプテンだ。

 それは、ハーフタイム中に、仲間同士円陣を組んでいた時のこと――。

『あいつらはフィジカル任せで、脳みそは獣以下みたいなやつらだ。当たり前だが、サッカーはそれだけじゃ頂点には立てない。あいつらと少しでも接触したら、思いっきり転べ』

『えっ、そんなことしていいんですか?』

『俺たちがこれまで勝てたのは、勝つための手段をその場で、この頭で見出してきたからだ。周りからずる賢いと言われても構わない。人を傷つけないやり方なら、俺はなんだってする覚悟だ』

 クールな優等生な表面を持つ彼だが、心の奥は勝利に飢えた狡猾な戦士なのだ。

 そして、その作戦が上手くハマり、上葉高校はフリーキックを得ることができた。

 ペナルティエリアの近くに設置されたボールの前には、左利きの暦と右利きのキャプテンが立っている。

 そして、その前には高身長を誇る敵チームの壁が4枚並び、4人の後ろに1人の選手が寝そべっていた。

 ゴールから右に寄った位置に置かれているので、直接ゴールを決めやすいのは左利きである暦だが、それは相手も分かっていること。

 なので、敢えてキャプテンが蹴って、ゴール前にいる味方に合わせる選択肢もある。

 暦とキャプテンはお互いに口元を隠して、どちらが蹴るかを相談し合った。

 そして、笛が吹かれると助走を取っていたキャプテンが先にキックモーションに入る。

 しかし、キャプテンはボールをスルーすると、騙された4枚の壁は一斉に高くジャンプしてしまった。

 そして、キャプテンに遅れてキックモーションに入っていた暦が、ボールを高く蹴り上げて着地した4枚の壁を軽く超えてみせる。

 ゴールキーパーは必死に手を伸ばすが、高く上がったボールはゴールの右上隅に吸い込まれていった。

「「「「「うおーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」

 鮮やかに入ったゴールに、観客は同点弾以上の歓声を上げて、ゴールを決めた暦は真っ先にベンチに向かって走った。

「ツヨッ!」

 そして、一番の親友である折節に飛び乗って、喜びを爆発させた。

 延長戦半5分――。

 暦の直接フリーキックは炸裂し、スコアは2―1で上葉高校が再びリードする展開となった。

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