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修理屋の悠々 ~辺境の村でスキルを活かしてのんびり転生スローライフ~ 【8/20、オーバーラップ様より第一巻発売!】  作者: 相有 枝緖
第四章

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第96話 「そっちは、噂の魔人だな」

明日、肉屋の仕込み部屋の修理ができると伝えるために、ヒルダに頼んで荷馬車に乗せてもらった。

アルノーは、大きな肉包丁を綺麗な布で拭きつつ笑顔で答えた。

「思ったより早いな。明日、仕込みが終わったら頼む。少しゆっくり来てくれればいいぞ」

「わかりました。明日中に終わらないようなら、また明後日もお願いします」


傷んだ板の取り換えと、漆喰の塗り直しだけのはずだが、実際に作業し始めないと魔力の消費量がわからない。

修理するのは仕込み部屋と地下室をつなぐ通気口だ。

建物の躯体とは別の構造になっているので、そこまで大きな修理になる可能性は少ない。

しかし、絶対とは言えない。


アルノーが快諾してくれたので、カイは準備のために家に帰ることにした。



通りを南へ向かおうとしたところで、ゼラフィーネがやってきた。

そういえば、この数日彼女を見かけた記憶がない。


「こんにちは、ゼラフィーネさん」

「あ!カイ。何日かぶり」

にかっと笑ったゼラフィーネは、手に籠を持っていた。

買い物に行くところらしい。


「今日は、セリスと一緒にツーレツト町に行ってきたんよ。例のエルフの魔道具を送る手続きをしにと、ついでにちょっと輸出入しとる店を見てきたんだわ」

「ツーレツト町には、郵送も請け負う商会がありますもんね。輸出入しているお店では、何か見つかりましたか?」

カイは行ったことがないが、普通に一般向けの販売もしていると聞いたことがある。


「ふっふっふ。なかなか有意義な話が聞けたし、約束も取り付けたんだわ。ほんで、それとは別に、セリスに頼んでここの領主様につないでもらっとるんよ。ちょっと面白いことになりそう」

にやり、と笑ったゼラフィーネは、背中の黒い羽をはたりと動かした。


「それは良かったです。なら、ゼラフィーネさんは当面滞在できる感じですか?」

「うん。特に期限もない依頼だもんで、休暇ついでにゆっくりしようと思っとるんよ。セリスもええって言ってくれたから、家賃も折半することになったし」

カイは思わず首をかしげた。


「期限がないって、『いつまでに』みたいな約束がなかったってことですか?」

「そういうこと。移動は片道一ヶ月くらいっていんのはわかっとるけど、その先の調査日程なんかは丸投げしてきたんよ。だもんで、あーしの好きにしてええってことね。ちゃあんと契約書にして、サインももらったし」

随分と適当な依頼だ。


冒険者ギルドに来る依頼には、内容によってきちんと期限が設けられている。

薬草採取のような、常時ある仕事の場合も、その紙の依頼はいつまで、と言った風にきちんと整えられているのだ。


「よくそれでごねませんでしたね」

依頼に慣れていないと、そういうことになるのだろうか。


「いや、あーしもわざと回りくどく『なるべく色々調べてまとめたら戻ってきて報告』みたいに書いたんよ。それ読んだあっちが勝手に、二ヶ月ちょっとで戻ってくると思っとるだけ。そんで、あーしも特に訂正せんかっただけ」

にひひ、と笑ったゼラフィーネは、確信犯だった。


多分、文句を言われても契約書を出して黙らせるのだろう。

商人には商人のルールがある。

そして商人ギルドは、契約書を何より重視すると聞く。


商人ギルドは大陸規模の組織なので、たとえ老舗の工房だろうと文句をつけることなどできはしない。

ゼラフィーネは、権力の威をうまく借りてくる予定らしい。


そこへ、見知った人たちがやってきた。

「お、カイじゃないか。そっちは、噂の魔人だな」

ひょい、と手を挙げて声をかけてきたのはライナーだ。


「こんにちは。こちらは、魔道具商人のゼラフィーネさんです。ゼラフィーネさん、彼らが上級冒険者パーティの『バンガード』の皆さんです」

きっとまだ彼らは直接会話していないのだろうと思ったカイは、間に立って紹介した。


「こっちも噂は聞いとるよ。王都周辺で活躍しとった凄腕パーティが辺境伯領に移ったって。村に永住するみたいな話も聞いとるけど?」

にこっと笑ったゼラフィーネは、バンガードの五人を順番に見た。

いつものメンバーに加えて、ライナーの妻であるグレータが一緒だ。


「永住はわからへんけど、ここはええとこやね。半日くらいなら子ども預かるくらい大丈夫って言うてくれるし、うちの子も楽しそうやし」

グレータがニコニコの笑顔で答えた。


「グレータ、はっちゃけてたもんねぇ。ウチ、邪魔になりそうだから一回も魔法使えなかったし」

「うふふ、久しぶり過ぎて加減がわからへんかってん」

グレータとフィーネが語り合う後ろで、エーミールとアウレリアは苦笑していた。

どうやら、グレータはかなり大暴れしたらしい。


カイがバンガードの五人の名前も伝えようかと口を開きかけたところで、ゼラフィーネが大声をあげた。

「あっ!それ、ゴーレム部位だね。ちょっと古い型だけど、技術力がしっかりしとる工房の作だわ。ちょっと見てもええ?」

そして、あっという間にアウレリアの前まで移動した。


「あ、ああ。別に構わない」

背の高いアウレリアの前に立つと、ゼラフィーネが小柄なのがよく分かる。

ゼラフィーネは魔人だが、大型犬に小型犬が寄って行っているように見えてきた。


「ほな、あたしはエトガー迎えに行くわ。またね、ゼラちゃん」

「おれも一緒に行く。また顔を忘れられたらたまらないからな」

ライナーは、久々にあった愛息子に忘れられて大泣きされたらしかった。


その言葉を聞いて、エーミールとフィーネもうなずいた。

「俺は夕飯担当だから帰る」

「ウチも帰るね」


「ああ、また後で」

「はーい」

アウレリアが軽く手を挙げると、四人はそれぞれに解散していった。


「お手数かけてごめんなさいね。でも気になって気になって。それ、もう二十年は前のでしょう?なのに、現役で、それも上級冒険者のゴーレム部位として動いとるなんて」

「王都の工房では、さすがにそろそろ買い替えを考えろと言われているな」

アウレリアは、左腕をゼラフィーネの方に差し出していた。


「ちょっとスキルで見せてもらってもええ?」

「もちろん、どうぞ」

快諾したアウレリアに、ゼラフィーネは嬉しそうな笑顔を向けた。


「『魔道具鑑定』……。あ、やっぱりあの工房のだね。ん?あれ、このパーツは新品?」

ゼラフィーネは、中空を見ながら眉根を寄せた。

多分、スキルで映像か何かが見えているのだろう。


「この部品って単品で直せるんだっけ。すごっ。あーしの知っとる工房じゃ、ここまでできんよ。次もこの工房で直してもらえるなら、あと十年は快適に使えると思うよ」

それを聞いたカイは、思わず目を丸くした。


「そんなにか?あと二、三年が良いところだと思っていた」

感心したようにうなずいたアウレリアは、ちらりとカイを見て微笑んだ。


「いやほんとに。すっごいわ。あ、でも足の方は、もう少ししたら内部のパーツがだめになりそうだね。頼めるんなら、同じ工房で修理してもらった方がええと思う。っていうか、どこの工房か教えてもらったりできる……?」

上目遣いに見上げるゼラフィーネに、アウレリアはにっこりと笑った。


「ああ、カイだ」

「え゛ぇっ?!」

あまりに甲高いゼラフィーネの声に、カイは思わず両目をぎゅっと瞑った。

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修理屋の悠々1

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