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修理屋の悠々 ~辺境の村でスキルを活かしてのんびり転生スローライフ~ 【8/20、オーバーラップ様より第一巻発売!】  作者: 相有 枝緖
第四章

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第92話 「修理屋さんだ! 一緒に勉強する?」

さて帰ろう、と商店を出てから、ふと思い出したカイは踵を返した。

ちょっと興味があったので、教会での教室の様子を見てみたいと思ったのだ。


司祭先生が来てくれるのは午前中だけなので、もうそろそろ終わるころだ。

たどり着いた教会の奥の部屋をそっと覗き見ると、子どもたちが机に向き合い、なにやら問題を解いているらしかった。


「どうしてもわからないなら、聞いてみてください。まずはどう考えればいいかを教えます。文字の場合は、本がありますからね」

優しく話す司祭先生だが、実のところ怒ると怖いらしい。

大声で怒鳴るようなことはしないが、何が良いか悪いかきちんと説明されるという。


勉強こそ面倒だが、子どもたちは司祭先生が好きらしい。

以前、こんな先生なんだよ、と口々に教えてくれたことがある。

きっと、みんなと真摯に向き合ってくれる大人なのだろう。


「せんせー、ここわかんない」

「はいはい。ああ、ここは上の桁から一借りてくるんですよ」


子どもたちの手元を見て回る司祭先生の顔の横で、垂れた犬耳が揺れる。

尻尾は司祭用の長着に隠れているが、アフガンハウンドのような長毛種らしい。

背は高いものの、優しい雰囲気と柔らかい物腰で慕われているおじいちゃんだ。


「おや、お客さんですか」

司祭先生がこちらに気づき、ふわりと目を細めた。


「こんにちは。どんなふうに勉強しているのか、少し見てみたくて」

カイがぺこりと頭を下げると、子どもたちが席を立って寄ってきた。


「修理屋さんだ! 一緒に勉強する?」

「計算が難しいんだよ」

「ううん、単語の方が難しいよ。ね、修理屋さん」

「単語なんて覚えればいいだけじゃん」

「大きい数の引き算ができないの」


小さい子どもたちはすっかり集中力を切らせてしまったので、顔を見せたのは失敗だったかもしれない。

もう少し大きな子たちは、こちらを見たものの席に座ったままだ。

「うん、簡単じゃないよね。ほら、まだ授業中だろ?席に戻ろう」


カイが子どもたちを促していると、司祭先生は少し不思議そうな表情で首をかしげた。

「修理屋さん、というのはとても素敵な呼び名ですが、職業名ですね。仕事は変わることもありますから、お名前で呼ぶ方がいいのではないですか?」

言われた子どもたちは、きょとんとしてからカイを見た。


「そうだね。仕事を変えるかどうかはわからないけど、名前なら変わらないから、カイって呼んでもらえると嬉しいかな」

カイとしてはどちらでも良かったが、せっかくなら司祭先生の気遣いを受けたい。


すると、子どもたちはお互いに顔を見合わせ、それからうなずいた。

「何で修理屋さんのまんまだったんだろ?」

「わかんなーい」

「じゃあ、ぼくはカイ兄さんにする」

「これからはカイって呼ぶね!」

「カイ兄ちゃんでもいい?」


口々に言った子どもたちの中から、オスカーがさらに近づいてカイの服を引いた。

「ねえ、カイ兄さんも、勉強しに来たの?」


すると、子どもたちは一斉に期待を込めた眼差しをこちらに向けた。

生徒仲間が増えるのは歓迎らしい。


「残念だけど、僕は基礎的な勉強は終わったからね。みんながどんな勉強をしているのか、ちょっと見てみたくなっただけだよ」

「そっか。ぼくはね、こういう計算をしてるよ」


オスカーが、机に戻って紙を持って来た。

どうやら、手作りの問題らしく、手書きの数字がたくさん並んでいる。

答えは拙い文字なので、司祭先生が作ってくれているのだろう。


「おぉ、三桁の掛け算か。すごいね」

カイが褒めると、オスカーは嬉しそうに笑った。


「おれは足し算!繰り上がりがむずかしいけど、やっと間違えなくなってきたんだ」

「あたしは引き算よ。いっつも十二引く八がわかんないの」

「僕はこの文字を反対に書いちゃう」


「みんなも頑張ってるね。ちょっと難しい問題は、何回も練習していればできるようになるよ」

それを聞いた子どもたちは、納得したり不満そうだったりいろいろである。


「おんなじのばっかりだと飽きるもん」

「計算めんどくさいよ」

「文字だと、飽きるくらいでちょうどいいんだけどね。思い出そうとしなくていいくらいに覚えたってことだから。計算も、基本の法則さえ理解すれば、たくさんの答えを覚える必要なんてないんだよ」

カイが諭すと、不満そうな子どもたちも文句を言いつつ机に戻った。


世界共通かどうかはわからないが、この国には九九に似た掛け算表がある。

十二かける十二までなのは少し面食らったが、それこそ慣れだ。

基本的に十進法なので、それ以外は特に大きな違いを感じなかった。


あと少し、と手を動かす子どもたちの中で、オスカーの手の速さが目についた。

筆算をするでもなく、問題を見ては答えをサクサクと書いていく。

「しさいせんせい、終わったよ!」


オスカーが紙を持って手を挙げると、司祭先生はにこりと微笑んだ。

「さすがオスカー、速いですね。ただ、どうしましょうか。今日作ってきた問題はこれで終わりなんですよ」


時間的には、あと十五分ほどあるだろうか。

用紙を受け取って困ったように言う司祭先生を見て、カイはふと口を開いた。


「よければ、僕が少し問題を作りましょうか。ちょっとした計算問題ですが」

気になったのは、計算がひたすら数字のものだけだということだった。


カイがいた孤児院でもそうだったが、基礎学問では文章問題など出されない。

そして、官僚試験などで突然文章問題が出てくるのである。

王都には、官僚試験対策専門の学校まであると聞いた。

前世では、わりと初めのうちから文章の問題に触れていたと思う。


「おや、それは面白そうですね。お願いしましょうか」

司祭先生は、快く許可をくれた。

それを聞いたオスカーが、嬉しそうに笑った。

「新しい問題?楽しみ!」


「ありがとうございます、司祭先生。じゃあ、この紙の裏側を使うね。少し待ってて」

カイは、使われていない机を借り、いつも持ち歩いている鞄からペンを取り出して問題を書き始めた。


まずは簡単な文章問題からだ。

『オスカーの家には、焼いたドゥンが三枚ありました。晩御飯のために、お母さんが新しくドゥンを六枚焼きました。家にあるドゥンは全部で何枚になったでしょう?計算式まで書いてください。』


その紙を渡すと、問題を見たオスカーは目を見開き、それからうきうきとペンを手に取った。

多分、すぐに解けると思うので、カイは次の問題を作る。

足し算、引き算、二桁のもの、それから掛け算の問題まで作り、オスカーに渡した。


キラキラの笑顔で問題を爆速で解くオスカーを見て、何とか問題を終わらせた子どもたちが集まってきた。

「なにこれ?」

「単語の問題?じゃないの?」

「ドゥンが八枚あって、三枚食べたら残りは……五枚!あ、引き算だ」

「ねえねえ、オスカーが出てくる問題面白いよ」


「おやおや」

子どもたちの解答用紙を集めていた司祭先生が、興味深そうにオスカーが答えを書いた紙を手に取った。


「簡単ですが、文章の問題ですね。なるほど。官僚試験ほど複雑ではないですが、文章と計算の両方とも必要。素晴らしいですね」

べた褒めされてしまい、カイは思わず頬を掻いた。


「いえ、僕が教わったことをそのまま使っただけですよ。それに、すごいのはオスカーです。初めて見た文章問題なのに、さらさら解いていますから」

すでに、オスカーは答えを書き終えている。

全部は見ていないが、ここまでは計算式も答えも、すべて合っていた。

まだ、解き方を教えてもいないのに。


なるほど、オスカーはとても頭が良い。

まずツーレツト町の学校、できるならその先へ進ませてあげたい。

ほんの少しオスカーの才能を知っただけのカイがそう思うのだから、村の人たちはもっと強く思ったのだろう。


司祭先生に、「これはどう考えたのか」と聞かれたオスカーは、とても楽しそうに答えていた。

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◆◇ 書籍化情報 ◇◆
公式ページ
修理屋の悠々1

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― 新着の感想 ―
司祭先生も司祭は職業名じゃないんだろうか…
こう言う頭の良い子には 一から百までを全部足し算させてみたいねw
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