第88話 「『魔道具鑑定』」
大きな一口分のドゥン巻きを飲み込んだゼラフィーネが、おずおずと聞いた。
「うーん。あーしの用事だから図々しいんだけど、セリスさんから領主様に連絡とってもらうんって、頼めたりする……?」
「ふむ。ゼラフィーネの用ということは、ヴェルクシュタトとのやりとりに関わってもらおうというわけか」
セリスは、片手にほぼ野菜のドゥン巻きを持ったまま軽く首をかしげた。
「それも関わっとるんだけど、ツーレツト町で向こうの大陸とやり取りしとるでしょう?たまに、魔道具も持ち込まれるって聞いたんよ」
言ってから、ゼラフィーネは大きなドゥン巻きにかじりついた。
「色々と輸出入しているみたいですね。だから、このあたりにも向こうの文化が伝わってきていて、香辛料も比較的流通が多いと思います」
カイは、こちらに住んでからほかの領地との違いを実感した。
ハーブは割と一般的だが、胡椒などの香辛料は輸入が多いらしく、辺境伯領以外ではほとんど見なかった。
「ああ、向こうの大陸は辛みをつけた料理が多いからな」
あちらの大陸へ行ったことのあるセリスが、こくりとうなずいた。
咀嚼しながら、ゼラフィーネもうなずいた。
「結構違うらしいね。ほんで、魔道具も機構がかなり別物らしいんよ。ただ、ヴェルクシュタト町の職人はよう思っとらんくて、『遠いから』とかなんとか言って、査定も引き受けん。で、結局価値がわからんで、取引できんって」
「あー。自分たち以外の職人が作ったものなんて、っていう感じですか」
感情として分からないでもないが、商品を選ぶのは使う側であって、作る側ではない。
そんな風に競合を締め出すと、だいたいろくなことにならないのだが。
眉根を寄せたゼラフィーネは、何度もうなずいた。
「それそれ。プライドが高いんは悪じゃないんだけどさ、それでライバルを排除しようっていうんは、どうなんかねって思う。普通に、技術を磨けばええだけなのに」
「変化を怖がって相手を攻撃するのは、まあよくあることではあるがな。守り方が間違っておる」
セリスは肩をすくめた。
「ほんとに。でも、表立っては言っとらんだけで、別の技術に興味を持っとる工房もあるわけ。ほんで、これでもあーしは魔道具専門の商人だし、ちょっと噛めんかなって思っとったんよ」
口の横についたソースを指で拭って、ゼラフィーネはにやりと笑った。
「なるほど、それで辺境伯にと。ふむ。良いぞ。そろそろ当主に挨拶せねばならん時期だしな」
セリスは、軽くうなずいた。
「ほんとに?!ありがとね。まあ、あーしもこっち方面に来るのは初めてだし、ヴェルクシュタトじゃその話題は黙殺されとるもんで、魔道具がほんとに持ち込まれとるかどうかは、はっきりせんけど」
嬉しそうに言ったゼラフィーネは、大きなドゥンを口に押し込んだ。
「良い、良い。ついでに、ヴェルクシュタトを新しい技術で殴ろうっていうんだろう。そういうのは嫌いじゃない」
ゆったりと微笑んだセリスは、協力することにしたらしい。
ドゥンで頬を膨らませたままのゼラフィーネは、両手を顔の前で握って軽く頭を下げた。
辺境伯への連絡についてはまた後日、ということになり、食後の片づけを済ませた三人はリビングへ移動した。
そこには、先日カイが修理した四角い箱があった。
「我慢できんくて、昨日のうちにスキルで確認させてもらったんよ。ほんで、一応見えたんだわ。でも、それが合っとるか知りたくて、カイに来てもらったん」
腕を組んだゼラフィーネは、背中の小さな羽をぱたりと動かした。
「え、ゼラフィーネさん、鑑定できたんですか?」
驚いたカイは、彼女を見た。
確か、魔道具ではないから鑑定できないという話ではなかっただろうか。
「いやぁ、エルフの魔道具なんてまず出んからね。あーしは初めて見たんだわ。ほんなら、普通の魔道具とは違うけども、鑑定できたんよ」
ゼラフィーネが、不思議そうに自動耕運機を見下ろした。
「なるほど。スキルは、使いこなすと対象の幅とかが広がるみたいなので、そういう意味で成長したのかもしれないですね」
きっと、ゼラフィーネはたくさんの魔道具を鑑定してきたのだろう。
カイが感心したように言うと、ゼラフィーネは首をかしげた。
「なんそれ?スキルはスキルでしょ。成長とかするん?」
「あぁ……」
ゼラフィーネは疑問に思ったようだが、セリスは思い当たることがあったようだ。
「なになに、セリスさんは知っとるん?」
ゼラフィーネに問われて、セリスはうなずいた。
「イーリスだな。『針の名匠』で、針子として働いていたらしい。それで、今は常に入れ食いの釣り人だ」
セリスは、たまにイーリスと話しているのを見かける。
どうやら二人は気が合うらしい。
「んん?えっと、待って。『名匠』?が、針子は、まあすごいけど、なくはないこともないかもしらん。ええわ、一回置いとこ。その人が、釣り人?いつも入れ食いの?……なんで?」
ゼラフィーネは一度首をかしげ、さらに深く倒した。
「推測にはなるんですが、釣り針も『針』のうちだからだろうと。針の扱いが名匠級なので、釣り針の扱いもすごいみたいです」
カイが説明すると、ゼラフィーネは目を瞬いた。
「『針』を使うからってことか。なるほどねぇ。ほんで、あーしの『魔道具鑑定士』っていうんも、普通の魔道具だけじゃなくて、エルフの魔道具も見えるようになったってこと?」
「多分。ゼラフィーネさんが、魔道具系のスキルで作ったもの以外も魔道具だと認識したから成長したのか、もともと見えていたのかはわかりませんが」
どちらかはわからないが、とにかくゼラフィーネはエルフの魔道具も弾かれずに鑑定できるということだ。
「そんなこともあるんね。もしかすると、工房の人ん中にもエルフの魔道具を扱える人がおるんかも。ほんなら、ちゃんと見えとるか知りたいし、カイも見てくれる?あーしも鑑定するで」
うなずいたゼラフィーネは、自動耕運機を手で示した。
「わかりました。じゃあ、見てみますね。『故障品再生』」
カイがうなずいてスキルを発動させ、ゼラフィーネも一つ息を吐いてから口を開いた。
「『魔道具鑑定』」
ゼラフィーネがスキルを使い始めると、ゼラフィーネを囲むように青い光の輪がいくつか出現し、くるくると回り始めた。
なかなかに派手だ。
「僕には、中の部品がすべて見えています。核の宝石もいくつか見えていますが、そこに込められた魔法の詳細はわかりません」
「部品が見えとるなら、真似して作れそうだね。あーしより、手抜きもはっきり見えそう」
光の輪を浮かせたまま、ゼラフィーネは感心したように言った。
「僕は不器用なので、見たところで複雑なものは作れませんよ」
カイは首を横に振った。
ソファやテーブルならなんとかなったが、あれよりも細かいものはうまく組み立てられる気がしない。
「まあ、作るんは別の技能だもんね」
「あ、核の魔法ですが、水を撒く機能と、耕す機能と、収穫する機能があることだけはわかります」
カイが見えているものをさらに説明すると、ゼラフィーネがうなずいた。
「あーしに見えとるんは、『魔道具(エルフ専用の耕運機)』と、『青色のボタンで水を撒く』『茶色のボタンで耕す』『緑色のボタンで収穫』っていう機能が正常に動くこと、内部部品を取り換えて修理済みってこと、あとは一般販売価格くらいかな」
どうやら、ゼラフィーネは見えている情報を読んでいるらしい。
横で見ていたセリスが、興味深そうに聞いた。
「ほう。これはどれくらいの価格になるのだ?」
「『無価』だって。多分、エルフ以外の人には売れんもんで、値段がつかんのだと思う」
「それはそうだな」
値段がつかないと聞いたセリスは、すぐに納得していた。
さらりと説明しているが、ゼラフィーネのスキルはかなり高性能だ。
彼女にとっては普通のことなのだろうが、修理歴や価格までわかるなら、鑑定というよりは査定している部分もあるのだろう。
カイは自分のスキルには満足しているが、ほんの少しだけ、ゼラフィーネに見えている世界を見てみたいと思った。





