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修理屋の悠々 ~辺境の村でスキルを活かしてのんびり転生スローライフ~ 【8/20、オーバーラップ様より第一巻発売!】  作者: 相有 枝緖
第四章

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第86話 「そこらへんでテント張ってもええんかな?」

セリスがくすっと笑い、ヒルダがほんの少し残していた警戒を解いた。

彼女たちも、カイと似たようなことを感じ取ったらしい。


「事情はわかったけど、さっきはすごく嫌な感じだったわ。余裕のない感じっていうか、とにかく聞かせろっていう態度で」

ヒルダは、口を尖らせた。

警戒が解けたら、逆に文句を言う気になったようだ。


「あー、そんなに酷かった?ごめんね、久しぶりに家っちゅうか、父親とまともに話したもんでさ、ちょっとね。はよう終わらせたくて、焦っとったんだわ。カイだったっけ、あんたさんにも悪いことしてしまって、ごめんなさい」

ゼラフィーネは、ぺこりと頭を下げて謝った。

どうやら、エルフのセリスに驚いて思考が止まり、逆に落ち着いたらしい。


「いえ、僕は大して何も」

あえて言うなら、ヒルダや村の人たちに間接的に迷惑をかけてしまったくらいだ。


「ほんとにごめんなさい。あーしが断っても、多分もっとめんどくさい奴が来ることになるもんで。なら、あーしが来て、適当に誤魔化す方がええと思って。ほいで、調べたっていう体を整えるだけのつもりが、つい気になってまって」

肩をすくめたゼラフィーネは、片手で顔の半分を押さえた。


「来るなりあれだったもの、焦りすぎよ。まあ、わたしもそんなに気にしてないわ。それでどうするの?その感じだと、今日はまだ家を借りてないんでしょ?」

ヒルダはもう完全に切り替えたようで、尻尾も柔らかく動いている。


「家?いやいや、そんな長いこと滞在はせんと思うから。普通に、宿の部屋を――」

ゼラフィーネの言葉を、ヒルダは遠慮なくぶった切った。

「宿なんて、この村にないわよ」

言われたゼラフィーネは、ぱちくりと瞬きをした。


「我も家を借りておる。宿が良いなら、ツーレツト町まで行かねばならん」

そう言ったセリスを見て、ゼラフィーネは首をかしげた。


「この村には、宿はないん?え、どうしよ。今からでも家って借りられるもんなんかね?この時間に町まで歩いたら夜になってまうで、宿も空いとるかわからん。そこらへんでテント張ってもええんかな?」

腕を組んで真剣に悩み始めたゼラフィーネには、ここにいる誰かに頼るという考えはないらしい。

カイもどちらかというとそういう考えだったからよくわかる。


まだ夕方なので、デニスに頼めば宿用の空き家を使わせてくれるだろう。

カイが口を開こうとしたときに、先に声が割り込んできた。


「なら、我の家に来るといい。寝室は空きがあるし、まだ魔道具も家にある。ヴェルクシュタト町が今どうなのかも聞きたいしな」

うむうむ、とうなずいたのはセリスである。


「デニスさんに頼めば、今からでも空き家を使えると思いますよ。使っていないのでどこか故障してるかもしれませんが、すぐ直せますし」

カイが言うと、今度はヒルダが席を立った。

「ツーレツト町が良いなら、馬車で送ってってもいいわよ。多少は顔が利くから、探せばどこかの宿が空いてるでしょ」


次々と畳みかけられたゼラフィーネは、赤から紫に変わる不思議な瞳を見開いた。

「え?いやでも、そんな、あーしなんかのために手を煩わせるわけには。どこかの庭先でも貸してもらえたら助かるなぁくらいで」

ふるふる、と顔を横に振ると、ウエーブを描く赤い髪が揺れた。


カイが思わずヒルダを見ると、ヒルダもこちらを見た。


やっぱり、悪い人ではないようだ。

むしろ、自己評価が低すぎて少し心配になる。

ただ、彼女自身がきちんと自立した大人なので、無理に親切を押し付けるのもはばかられる。


どの案が一番彼女の負担にならないかと考えていると、セリスがゼラフィーネを手招いた。

「良い良い、我の家にや。それなら、今から誰も動く必要がないぞ」


ゼラフィーネは、少し逡巡してから納得したようにうなずいた。

「確かに、セリスさんのとこにお邪魔するんが一番マシな気がします。なんだったら庭先を貸してもらえればええもんで、お願いしてもええですか?」


「うむ、良いぞ。我はあまり調理はせんでな、少し手伝ってもらえると助かる」

「料理なら任せてください!あーしも、そんな得意ってほどじゃないですけど、一応一人で暮らしてきたもんでね。ドゥン焼いて、ちょっと工夫するくらいなら大丈夫です」

にぱっと笑ったゼラフィーネの口元からは、尖った犬歯がのぞいていた。


ゼラフィーネはセリスの借りている家に泊まることになり、セリスたちはそのまま買い物、カイは自宅へ帰ることになった。




次の日の朝、カイは収穫を来月に控えた小麦畑に向かっていた。

脱穀機を本格的に使う前に、念のため確認しておくことになったのだ。


村の中を通ると、セリスが借りている家が見えた。

ちらりと見えただけだが、前庭にも後ろにもテントは立っていなかったので、ゼラフィーネは普通に寝室を使ったのだろう。

なんとなく、カイはほっとした。


そのまま通り過ぎようと歩いていると、ガタン、と窓の開く音が聞こえた。

「カイ!おはよう。昨日はありがとうね。そんで、ちょっと頼みがあるんだけど、今日の予定ってどうなん?」


窓から顔を覗かせたのは、ゼラフィーネであった。

朝日の中で見るゼラフィーネの髪は、頭の赤いつのよりもほんの少しオレンジがかって見えた。


「おはようございます。今日は午前中に小麦畑に行くだけで、昼からはあいていますよ」

「わかった!ほんなら、お昼一緒に食べよ。それでええ?」

ゼラフィーネは、最後は室内に向かって聞いた。


返事を受けたらしいゼラフィーネが、また窓から顔を出した。

「セリスはええって言っとるし、仕事終わったらこの家に来てくれん?」

窓の奥には、ちらりとプラチナ色の髪が見えた。

どうやら、セリスもカイに何か用があるらしい。


「ありがとうございます。では、お昼くらいにお邪魔しますね」

カイがうなずくと、ゼラフィーネはにっかりと笑った。


「ほんならね!仕事頑張ってきてちょう」

ひらひらと手を振るゼラフィーネに、カイも手を振り返した。




小麦畑の小屋を訪れると、リーヌスが待っていた。

「おはようございます、リーヌスさん」

「ああ、おはよう。カイ、昨日は大変だったらしいな。魔人族の奴が来たって?」


この夏の間にしっかりと日焼けしたリーヌスが、苦笑しながら言った。

どうやら、ゼラフィーネの噂はもう村に広がっているらしい。

「僕は特に大変ではなかったですよ。ゼラフィーネさんは焦っていただけのようですし、魔道具の商人として確認に来た感じですね」


リーヌスは、腕を組んでうなずいた。

「カイが、バンガードの斧使いのゴーレム部位を修理したって話は聞いていたが、実は魔人族が直々に来るほどのことだったんだな。確か、領主様にも話がいったんだろう?」


「はい。セリスさんの故郷の村と取引が始まる薬草事業の人たちと、僕の名前を確認する手紙が来たとデニスさんから聞きました」

だからカイとしては、エルフと関わることが大変なことだとばかり思っていたのだが、普通の魔道具でも実は大したことだったらしい。


「俺たちは、魔道具のことはよくわからないからな。面倒なことにならなけりゃいいんだが。カイ、何か困ったら遠慮なく相談しろよ。俺じゃなくとも、デニスでも誰でもいいから」

眉じりを下げたリーヌスは、ぱたりと尻尾をゆらした。


「ありがとうございます」

心配してくれていることがわかったカイは、頬を緩めてうなずいた。

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修理屋の悠々1

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