第11話 沈黙を破るもの
激痛でハルトは目を覚ました。
床は冷たい。右足を動かそうとした瞬間、足首から膝へ激痛が突き抜け、力が入らない。
ハルトは立ち上がるのを諦め、肘と手のひらで這いながら、ユキのいるテントへ向かった。
テントの前で、サワがハルトの持ち帰った箱の封を引き裂いていた。
中には、かつて運んだバッテリーから電源を取ったLEDランタンと小型ヒーターがある。白い光と温風が、狭いテント内を照らしていた。サワは資材を取り出し、中へ入る。
ハルトはテントの布に手をついた。
中からユキの荒い呼吸と、苦悶の声が漏れる。
「息を吐いて」
サワの指示が飛ぶ。
「処置をする。絶対に動かないで」
布の向こうで、資材が擦れ合う音が続く。消毒液の匂いが漂ってくる。
ユキが痛みに耐え、毛布を握り締めている気配が伝わってきた。
テントの外には、生存者たちが集まっていた。
煤まみれのタツヤ、バールを手にしたゲンゾウ、アキたち老人。誰も口を開かず、ただテントを見つめている。
ハルトは布を掴んだ。
「ユキ……ユキ……!」
その時、テントの中から鋭い悲鳴が上がった。
「あああああっ!」
「いきんで! もう一回!」
サワの声が重なり、ユキの呼吸が荒く乱れる。
「う、ぐ……あっ――」
叫び声が途切れた。
同時に、すべての音が消えた。
ヒーターの駆動音だけが残る。
ユキの声もしない。サワの声もない。
完全な沈黙。
ハルトは息を呑んだ。全身から血の気が引いていく。
背後の生存者たちも動かない。
その静寂を、甲高い破裂音が引き裂いた。
『オギャアアッ!』
息を吸う間があり、さらに大きく響く。
『オギャアアッ! オギャアアッ!』
テントのファスナーが開き、汗だくのサワが顔を出した。
床に這いつくばるハルトを見下ろし、言った。
「男の子よ。ユキも生きてる」
分厚い鉄製シャッターが音を遮断し、外のロストには届かない。
だが、モールの内部には、その産声がどこまでも反響した。
生存者たちの肩が震えた。
ある老人はその場に座り込んで顔を覆い、ある男は天井を見上げたまま涙を流した。
タツヤは顔を背け、袖で鼻をこすった。ゲンゾウは無言でバールを握り直し、息を吐き出した。
ハルトは腕の力でテントの中へ入った。
血で汚れたシーツの上で、ユキが横たわっている。
顔は青ざめていたが、ハルトを見るとわずかに目を開けた。
ハルトはユキの冷たい手を握った。
「ユキ……」
「……ハルト」
ユキが弱々しく指を握り返す。
サワが、白い布に包んだ塊をハルトの胸元へ差し出した。
ハルトは両腕でそれを受け止める。
確かな重みがあった。
小さな胸が激しく上下し、冷えた空気の中で強い熱を放っている。
ハルトの目から涙が零れ、赤ん坊の頬に落ちた。
暗闇の底で、繋いだ命が腕の中で息をしていた。




