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誰にも言えないLv1の恋〜課金だけが取り柄だった私、担当のプロゲーマーに溺愛される〜  作者: 希羽


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第4話 毎晩二十二時の約束

「――よ、避けました!」

「まだです。敵の攻撃モーションが終わるまで待ってから、左手前のボタン。通常攻撃じゃなくてスキル『シールドバッシュ』」

「えっ、どれ!? これですか!? えいっ!」


 ドガァン!


 画面の中で、アキが構えた神話級の大盾が、突進してきた猪モンスターの顔面にクリーンヒットした。モンスターがピヨピヨと気絶エフェクトを出してよろめく。


「できた!!!!!!!!!!」


 思わず、キーボードの「!」を連打してチャットに流してしまう。会社での私なら「感嘆符はビジネス文書において軽薄な印象を与えるため一通につき一つまで」と部下に指導しているところだが、今の私にはそんな理性を保つ余裕はない。


 回避からのカウンター。指先が覚えたタイミングで敵の攻撃をいなし、初めて自分の手でスキルを叩き込めた快感。


ソラ:落ち着いてください。

アキ:すみません! 嬉しすぎて手が滑りました!

ソラ:でも、今のタイミングは完璧でしたよ。次は追撃入れて倒しきってください


 画面の向こうのソラから、珍しく褒め言葉が飛んできた。

 たったそれだけの一言なのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 あれから二週間。私とソラは、毎晩二十二時にログインして一緒に冒険に出かけるのが日課になっていた。


 最初は歩くことすらおぼつかなかった私に、ソラは驚くほど根気強く基礎を教えてくれた。敵の予備動作の見極め方、スキルのクールタイムの管理、無駄な被弾を減らすポジショニング――。彼の教え方はいつも冷静で、的確で、そして異様に丁寧だった。


『クエスト完了:森の暴れ猪を討伐せよ!』

『報酬:銅貨50枚、乾燥した薬草×3、古びた布切れ×1』


 画面にファンファーレが鳴り響く。手に入ったのは、課金ショップで買える最高級アイテムに比べればゴミ同然の、しょぼい初心者用素材ばかり。


 なのに。


「……ふふ、やったぁ……」


 ベッドの上で、思わず声が漏れてしまう。

 十万円以上の課金をして神装備を一瞬で揃えた時よりも、何倍も、何十倍も嬉しい。お金で買ったデータではなく、誰かと一緒に時間をかけて手に入れた成果だからだ。


 ◇


 翌朝。オフィスに出社した私は、いつものように仕事をこなしていた。けれど、何かがいつもと違っていた。


「篠宮マネージャー、午後のクライアント向け提案資料、修正が完了しました……!」


 おずおずとタブレットを差し出してくる後輩社員。


「うん、数字の根拠が明確になってすごく分かりやすくなりましたね。二ページ目のキャッチコピーも、ターゲットの感情に寄り添っていて素敵です。この調子で進めてください」

「えっ……あ、ありがとうございます!」


 パッと顔を明るくして戻っていく後輩。その背中を見送っていると、オフィスでたまたま隣の席になっていた営業部長の高梨さんが、コーヒーカップ片手に不思議そうな顔でこちらを覗き込んできた。


「篠宮、なんか今日、雰囲気柔らかくない? いつもなら『フォントが0.5ポイント小さいです』って眉間にシワ寄せてるところなのに」

「えっ!? そ、そんなことありません! いつも通りフィードバックしただけです!」

「いやいや、顔が優しいって。なんかいいことでもあった? まさか彼氏?」

「ち、違います!!」


 慌てて否定しながら、手元の資料で顔を隠す。違う。彼氏なんていない。ただ――『今夜二十二時までに絶対に仕事を終わらせてログインする』という強固な意志のもと、無駄な残業を極限まで削るために集中力が高まっているだけだ。


 有能さの平和利用。以前は「どうせ帰っても一人だし」とダラダラ残業していた仕事を、秒単位で捌いて退勤する技術だけが、ここ最近でメキメキと上達していた。


 ◇


 その夜、二十二時ジャスト。いつものようにアストラル・オンラインにログインする。


 画面の中には、すでに軽鎧姿のソラが待っていた。


ソラ:こんばんは。今日も時間ぴったりですね

アキ:こんばんは! ソラさんも早いですね!

ソラ:少し余裕があったので


 チャットの文字を見つめながら、ふと考える。


 ソラさんは、現実では一体どんな人なんだろう。こんなにゲームが上手くて、言葉遣いは少しぶっきらぼうだけど面倒見がよくて、毎日決まった時間に現れてくれる人。


(学生かな……? それとも、シフト制の仕事なのかな? もしかしてすごく年上だったりして……)


 けれど、私はすぐにその思考を頭から振り払った。現実の年齢や職業なんて、知ってしまえばこの心地いい関係が壊れてしまうかもしれない。私は会社で「氷のマネージャー」と恐れられている二十六歳だし、相手にとっても私はただの「手のかかるポンコツ初心者」でしかないのだから。


ソラ:今日は少し足を伸ばして、地下洞窟のダンジョンに行ってみませんか

アキ:はい! ぜひお願いします!


 そうして二人でダンジョンの入り口へと向かった、その道中だった。


「た、たすけてくれぇぇぇぇ!!」


 前方から、三人のプレイヤーがモンスターの大群を引き連れて、悲鳴のようなチャットを上げながらこちらへ猛ダッシュしてきた。


 先頭を走るのは、ファンタジー世界に似つかわしくない『ちくわ』という名前の神官アバター。その後ろを走るのは、黒髪ポニーテールの口が悪そうな女魔術師『レイナ』。そして最後尾で転びそうになっている、のほほんとした顔の弓使い『ぽてと』。


レイナ:ちくわさん! だから言ったでしょ、あっちの部屋は罠だって!

ちくわ:すまないねぇ! 宝箱の光に目が眩んでしまって!

ぽてと:わ〜、後ろからいっぱい来てる〜。死ぬ〜


 ドタバタと逃げてくる三人組。ソラがため息をつくように剣を抜き、私の前に一歩出た。


「……アキさん、下がっててください。すぐ片付けます」

「あ、私も盾で援護します!」


 二人の連携でモンスターの群れを一網打尽にした直後、息を切らした三人組の神官――ちくわが、深々と頭を下げてきた。


ちくわ:いやぁ、助かりました! 見事な連携ですねぇ!

レイナ:助かった。……あんたたち、二人だけで固定パ組んでんの?

ぽてと:二人とも強いね〜。あ、でも盾の子はちょっと動きが初々しい〜?

ちくわ:もしよければ、お二人さん。うちの零細ギルド【すいみん不足】に入りませんか?


 突然のギルド勧誘。私とソラは、同時に動きを止めた。


【本日の課金額:¥8,400(アキの見た目スキンだけ我慢できなくて買った)】

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