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誰にも言えないLv1の恋〜課金だけが取り柄だった私、担当のプロゲーマーに溺愛される〜  作者: 希羽


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第3話 ソラの事情

 百人以上を収容する大学の大講義室。プロジェクターの明かりだけが揺れる薄暗い最後列で、俺はパーカーのフードを目深に被り、机に突っ伏していた。


 教授の抑揚のない声が遠くで響いている。斜め前の席に座る女子学生が、講義ノートを取るフリをしながら、スマホのカメラをさりげなくこちらへ向けているのに気づく。カシャ、とカメラのわずかな振動と音。


 ――またか。


 顔を背けて、ため息を呑み込む。どうせあと数十分もすれば、SNSに「うちの大学のプロゲーマー寝てる」「生ソウマくん顔ちっちゃい」といった文言と一緒に俺の寝顔が流れるのだろう。


 如月蒼真きさらぎ そうま、二十歳。プロeスポーツチームに所属する現役選手で、配信のフォロワー数は五十万を超えている。けれど、この大学の教室に、俺の名前を気安く呼んでくれる友人は一人もいない。


 高校一年のときにプロ入りしてから、周囲の目は一変した。クラスメイトは友達ではなく「観客」になり、話しかけてくる理由はサインか、ゲームの自慢か、知名度の利用だけ。高校時代、女子から告白された回数は二十回を超えていたらしいが、全部「ゲームがあるので」と断った。強がりでもなんでもない。ただ本当に、ゲーム以外のことに興味が湧かなかったのだ。


 ◇


 夕方。講義を抜け出し、チームのゲーミングハウスへと向かう。


「蒼真、昨日の練習試合(スクリム)のスタッツ出たぞ。キルレは申し分ないが、チームとしてのスポンサー露出秒数が足りてないって運営から言われてる」

「……はい」


 モニターがずらりと並ぶ練習室で、マネージャーから渡されたタブレットを眺める。並ぶのは数字とスポンサー名、そして勝率のパーセンテージばかり。


 いつからだろう。画面に向かっていて「楽しいか」と誰からも聞かれなくなったのは。


 かつて、高校時代から一緒にプロの頂点を目指してきた元相棒のRENのことを思い出す。大会の賞金分配やチーム運営の方針で意見が割れ、彼はライバルチームへと移籍していった。『勝つだけの機械と組んでても、つまんねえんだよ』去り際にRENが吐き捨てた言葉が、今でも耳の奥にこびりついて離れない。


 今のチームはビジネスとして完璧だ。誰も揉めないし、誰も感情的にならない。

 ただ、ゲームで勝つことだけを求められる場所。


 ◇


 夜の二十一時四十五分。

 自宅に戻り、プロ仕様のPCではなく、サブ機のノートPCを立ち上げる。


 起動したのは『アストラル・オンライン』。公式大会で使っているアカウントではなく、誰にも教えていないサブアカウント――【ソラ】。肩書きも、フォロワー数も、プロのプレッシャーもない。ただのプレイヤーとして息ができる場所。


「……約束、二十二時だったよな」


 ログイン画面を見つめながら呟く。

 まだ十五分も早い。

 我ながら、普段の練習時間には見せない几帳面さに少し苦笑した。


 昨日の夜、星降りの峡谷で出会った、あの全身七色に光り輝いていた初心者の少女――【アキ】。


 最高峰の課金装備を全身に纏いながら、敵の足元で転がり続け、死ぬのが怖くて何万円分もの回復薬をガブ飲みしていた変な人。チャットの文章はやたらと堅苦しく、絵文字は不自然で、「w」の使い方すら知らなかった。


『あんなに華麗に敵を倒していたのに普通なんですか!? 私からしたら神業に見えました!』


 プロになってから、「すごい」「さすがプロ」なんて言葉は何万回も聞き飽きていた。でも、彼女のあの言葉には、何の打算も、有名人への媚びも混ざっていなかった。ただ純粋に、助けてもらったことに対する無防備な感謝だけがあった。


 ピロン♪


 フレンドリストの最上段、【アキ】のステータスが「オフライン」から「オンライン」へと切り替わる。

 時計の針は二十一時五十分。

 ――あっちも、約束より十分早い。


 画面の端で、始まりの街の噴水前に、あの派手すぎるフルプレートアーマーを着たアキのアバターがスポーンしたのが見えた。

 こちらを見つけると、ぎこちない操作で右往左往しながら、一直線に駆け寄ってくる。


『ソラさん! こんばんは! 今日もよろしくお願いします!』


 チャット欄に表示される、丁寧すぎる挨拶。

 無意識のうちに、俺の口元がわずかに緩んでいた。


「……人にゲーム教えるのなんて、初めてなんだけどな」


 キーボードに指を乗せる。誰かのためにコントローラーを握るのが、こんなにも待ち遠しいなんて、いつ以来だろうか。


【本日の練習時間:11時間】

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