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誰にも言えないLv1の恋〜課金だけが取り柄だった私、担当のプロゲーマーに溺愛される〜  作者: 希羽


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第13話 エースの観察眼

 都内ホテルの高層階にある個室レストラン。

 夜景が一望できる円卓を囲むのは、リーグ運営の幹部、メインスポンサー関係者の私、そして各チームの代表選手たちだった。


「篠宮さん、グラス空いてますね。白ワインのおかわり、頼みましょうか?」


 私の右隣の席をスマートに確保したRENが、心地よい距離感で微笑みかけてくる。料理の取り分けも、グラスの減り具合への配慮も完璧。二十三歳とは思えない手慣れたエスコートに、同席している運営の役員たちも「さすがRENくんは気が利くねぇ」と上機嫌だ。


「ありがとうございます、REN選手。でも、まだ仕事中ですのでお水で大丈夫ですよ」

「『REN』でいいですよ。篠宮さん、今日のお洋服もすごく素敵です」


 サラリとした褒め言葉。大人の男としての条件をすべて満たしたような振る舞い。


 一方――円卓の対角線上の席。


「ソウマくん、ほら。ここの特製パフェ、頼んでおいたよ〜!」

「……ん」


 ミアが当然のような顔で注文した特大のチョコレートパフェを、如月蒼真が無言でスプーンですくっていた。周りの大人たちがお酒を飲んでいる中、一人だけ真顔で甘いものを頬張る姿は、どこか浮世離れしている。


「ソウマくん昔から本当に甘党なんだから! 高校のときなんて、私が知ってるだけでも十四人以上の女の子から告白されたんですけど、ある子なんて告白の途中で『あ、購買にチョコパン買いに行きたいんで』って言い残して去っていったんですよ〜!」


 ミアがケラケラと笑いながら、周囲に暴露話を披露する。『私は昔から彼のすべてを知っている』という、無邪気なマウント。


(十四人……)


 事前にリサーチした彼の配信のアーカイブを思い出す。同時接続数万人、コメント欄には「ソウマきゅん結婚して!」「今日も顔が良い」という黄色い歓声が滝のように流れていた。


 その事実が、なぜか胸の奥をチクリと締め付けた。


 ◇


 会食が終わり、明日のプロモーション用スチール撮影の立ち位置確認のため、スタジオ前のホールへと移動した。


「あ、篠宮さん。ちょっといいですか?」


 廊下の隅で、RENが私の元へ歩み寄ってきた。ふと視線を感じて振り返ると、ミアと並んで歩いていたはずの如月蒼真が、遠くからじっとこちらを見つめている。


「はい、REN選手。明日の撮影順についてでしょうか」

「いえ、そうじゃなくて」


 RENは一歩距離を縮め、悪戯っぽく口元を歪めた。


「篠宮さんって……もしかして『アストラル・オンライン』、プレイしてます?」


 ――ッ!?


 心臓が跳ね上がり、呼吸が止まりそうになった。ポーカーフェイスを保とうとするが、わずかに揺れた私の瞳を、RENの鋭い観察眼は見逃さなかった。


「あはは、やっぱり! さっきの打ち合わせの時、ゲーム用語の略称に全部完璧に反応してましたもんね」

「そ、それは……担当としての事前勉強で……」

「へぇ。……なるほどね。あいつが最近妙にソワソワしてた理由、分かっちゃったかも」


 確信に満ちたRENの笑み。彼が私の肩にポンと手を置こうと、指先を伸ばした――その瞬間。


 ――サッ。


 音もなく横から割り込んできた黒い影が、RENの手と私の肩の間に、自身の体を滑り込ませた。


「っ……あ?」


 RENが目を見張る。私の目の前に立ちはだかったのは、如月蒼真だった。


「……如月、選手……?」


 蒼真はRENと私に背を向けたまま、低い声でぼそりと呟いた。


「…………邪魔だったので」

「ははっ、邪魔ねぇ」


 RENが可笑しそうに吹き出す。蒼真は眉間にシワを寄せ、自分の胸元を片手でギュッと押さえていた。


 ◇


 解散後、ホテルの車寄せ。タクシーを待つ蒼真の隣に、RENが歩み寄って悪戯っぽく耳元で囁いた。


「いいじゃん、あの担当さん。……お前が動かないなら、俺、本気で誘うけど」


 その瞬間。普段は何を言われても聞き流す蒼真が、ピクリと足を止め、冷たい眼差しでRENを真正面から睨みつけた。


「……やめろ」


 低く、一切の冗談を許さないトーン。いつも無気力な男が見せた明らかな敵意に、RENは満足そうに口角を吊り上げたのだった。


 ◇


 その夜、二十二時半。自室に戻った私は、疲れた体を引きずって『アストラル・オンライン』にログインした。


 ギルドハウスには誰もおらず、暖炉の前にソラのアバターだけが静かに立っていた。


アキ:こんばんは、ソラさん。遅くなってすみません


 いつも通りに挨拶を送る。すると、画面の向こうから、ぽつりとメッセージが返ってきた。


ソラ:こんばんは

ソラ:今日、楽しかったですか?


 ――今日、楽しかったですか?


 あの会食のことだ。けれど、ミアとの仲を見せつけられて混乱していた私の指は、無難な建前の返信を打ってしまっていた。


アキ:はい、お店の夜景も綺麗で、お料理もとても美味しかったです!


 送信ボタンを押す。……それから、三分間。


 ソラからの返信は、ピタリと途絶えたままだった。


【本日の課金額:¥0(会食は全額経費)】

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