第5話『再構築(リブート)の悪意』
※安らぎの街が、デバッグプログラムによって「消去」されます。
※アリスの冷却液が漏れ、ミスティの酒が切れました。
※このパーティー、詰んでない?
――逃げろ。修正パッチが、僕たちの存在を「削除」しに来る。
第5話『再構築の悪意』、開幕。
時計塔の崩壊後、僕たちは始まりの街の路地裏へと身を隠した。
だが、アリスの表情は曇ったままだ。彼女は震える指先で虚空を操作し、絶えず流れる赤いコードを睨みつけている。
「マスター。……マザーAIが、このエリアの物理演算を『強制更新』し始めました」
「更新? どういうことだ」
「私やミスティの能力が、システム側から『バグ』として特定されました。これからは塔の外でも、私たちの干渉が検知されるたびに環境自体が即座に修正を当ててきます」
アリスがそう言った瞬間、空がノイズを帯びて明滅した。
通行人たちが不自然な動きで立ち止まり、一斉にこちらを振り返る。彼らの瞳は、感情のない電子の光に染まっていた。
「うぅ……なんか、空気が重いよぉ……。お酒、お酒どこぉ?」
ミスティが不安げに魔導書を抱え、ふらふらと歩き出す。彼女の酔いが醒めるにつれ、制御も不安定になり、周囲の石畳がミシミシと波打つ。
「ミスティ! 今は飲むな! 街全体が敵になるぞ!」
衛兵たちが集まってきた。マザーAIの「掃除用プログラム」と化した人形だ。
「……マスター。私が演算で周囲の時間を僅かに『ラグ』らせます」
アリスが地面を叩くと、世界の描画がガタガタと崩れ始めた。突進してくる衛兵たちの残像が空中に固定され、バグった動画のように同じ動作を高速で繰り返す。その不自然な静止画の隙間を、僕たちは駆け抜けた。
だが、その代償は大きかった。アリスの黒いドレスが火花を散らして焦げ付き、口元からは血の代わりに銀色の冷却液が漏れ出している。
「アリス! 冷却機能が……!」
「私が倒れたら、マスターを守れるのはこの『酒臭い鉄板』だけですよ。……計算上、私が停止する確率は89%。早く!」
「あぁもう、めんどくさいなぁ!!」
ミスティが投げやりにスキットルを放り投げ、最後の一滴まで飲み干す。
彼女の周囲に禍々しい赤い魔法陣が展開されるのと同時に、街の景色が変貌した。
空から無数の赤いレーザーが降り注ぎ、街の構造そのものをリセットしようと地面が消失を始める。足元のレンガが、テクスチャを失った無機質な白い立方体へと変わり、次々と虚空へ吸い込まれていった。
昨日まで笑い合っていたプレイヤーたちが、悲鳴を上げる暇もなく四角いポリゴンの塵となって消えていく。
「あぁ……私の、行きつけの酒場がぁぁ!」
ミスティの絶叫を背に、僕たちは崩れゆく現実から逃げ出した。
世界から拒絶されても、壊れた三人が揃えば、システムのエラーだって生き延びられる。
(第5話・了)
第5話、お読みいただきありがとうございます!
始まった街がポリゴンの塵となって消えていく……そんな絶望的な状況からの逃走劇でした。
満身創痍で「演算確率89%」と呟くアリスと、酒が切れて理性を失ったミスティ。
このポンコツ化した(?)最強の二人を連れて、マスターがどうやってこのデスゲームを生き延びるのか……!
物語はついに、始まりの街を離れ「未定義領域」という未知の領域へ。
世界の外側には、一体何が待っているのでしょうか。
歪な三人の生存戦略、続きが気になった方はぜひ【ブックマーク】と【評価(星評価)】をお願いします!皆さんの応援が、マスターの生存確率を底上げします!
それでは、次回・第6話でお会いしましょう!




