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鮮血の華が舞い散る頃に  作者: 残雪
2/3

第弌章 金木犀が舞い散る頃に

前に投稿したやつのリメイクです。

シリーズ的にしたいんでまあ気長に舞ってください。

____________

「哀れ哀れ。人の死とは儚い物だね。それと、少し君の細胞をもらっていくよ?」

「それと、この異変は大学だけと思わない方がいい。」

「都内、地方、やがては日本を侵略する。君はその生贄第一号だ。誇りに思えよ、愚図。」

その言葉を最後に⬛︎⬛︎⬛︎はフッと姿を消した。


____________

これは2018年の秋。


彼岸と此岸が近づき、生と死が曖昧になる。

その少し前に起きた惨劇の話だ

____________

 僕の名前は橘悠輝、17歳だ。

世間一般の17歳と言えば青春真っ盛りといった感じだろうか、だが僕は違う。学校に行けば暴言や陰湿に行われる暴力。遥と仲良くするといつも矛先が僕に向く。


また今日もか。その時、遥が駆け寄ってきた。

「なにしてんだお前ら!悠輝から離れろ!」

周りの騒がしさが少し引いた。


「チッ、こんなクズ助けてヒーロー気取りかよ」


吐き捨てるように小声でそう言い残すと、

奴らは去っていった。

「なぁ、悠輝。いい加減、先生に相談しようぜ?」

……そんな会話から数日が経ち、二学期が始まった。町はいつもと変わらない日常が過ぎている。だけどなんとなく、空気が重かった。

テレビで見た帝大の大量変死事件のせいだろうか、

脳に焼き付いたあの光景は非常に恐ろしかった。


まあ、地方であんなことが起こるわけないか。

杞憂に感じ僕は‘それ’を考えるのをやめたのだった。


 1週間後の下校中の事だ。


夏の4時過ぎにも関わらず空は黒に近い紫で、空気は淀み、町全体が暗澹としていた。普段なら耳を包む蝉の合唱は、今日は一匹も鳴かず、静寂だけが重く響く。

代わりに、カラスのけたたましい鳴き声が不規則に響き渡り、胸の奥をざわつかせた。見上げた黒く紫がかった空に漂う影は、どこか異様に見えた。


 モヤモヤとした感情のまま家に着いた。

「母さん、ただいま。」

返事はない。シーンとした廊下の奥から微かに異音が聞こえる。

「母さん?」

不思議に思いリビングの扉を開けると、そこには指を噛み切り、流れた血で「呪」「死」など不吉な文字をぶつぶつと呟きながら書く母がいた。扉を開けた音に気付いたのだろう、母がこちらを振り向いた。髪は乱れ、目は血走っていた。数刻の間、静寂が流れた。暫くすると母は幽鬼の様にフラフラと立ち上がり僕の方へ迫ってくる。その形相は恐ろしく、僕は後退りしながら逃げ出した。


 玄関から飛び出した僕はあまりに異質な光景に腰を抜かしそうになる。何故なら、眼前の光景は先程よりも黒洞々とした曇天に線香、あるいは抹香か塗香を混ぜ込めたような匂いが立ち込める。人影を見つけて安堵したのも束の間、それは皮膚が爛れ腐臭を放つゾンビだった。最悪なことにそいつらは、人を襲い、貪っていた。周囲には崩れた塀に埋もれ息も絶え絶えの女性、高木の枝に突き刺さり内臓と血が滴る老人、その足元には孫だろうか、体の中心から真二つに裂けた子供、引き千切られた自らの首を探し、ヨタヨタと歩く中年男性など、この世のものとは思えない風景が広がっていたのだ。ここが日本かどうかも怪しい、後ろを振り向くと首を掻きむしり、血涙を流している母がいる。母が叫び声を上げる。その瞬間死人どもがこちらに視線を向ける。標的は、もちろん僕だ。ー直感でそうわかったのだ。逃げなければという思考の前に、身体はもう動き出していた。

 足元のアスファルトは泥と血で湿っており、靴底を地につけるたび絡みつく。まるで「お前だけ逃げれると思っているのか」と言わんばかりだ。遠くで母の奇声と死人どもの呻き声が木霊し、逃げる僕を追い続ける。走ることは苦痛だ。息が切れ、胸が痛む。

「止まれば死ぬ。」その思いで腕を振り、走り続ける。角を曲がると自転車や散乱したゴミが行手を阻む。僕は咄嗟に飛び越える。

痛みが走り、呻く声が漏れる。自転車に足をぶつけたみたいだ。痛みに悶え、その場に蹲る。勘付かれぬよう、息を殺す。そのおかげだろうか、母と死人どもは僕が消えた事に戸惑った様子だったが、すぐに見当違いな方向へ走り出した。撒けたことに少し緊張がほぐれ、安堵する。

 ここまでの状況を整理すると、ここは柚子湯町。僕の家がある八朔町から5キロ程離れている、昔ながらの住宅が並ぶ静かな町だ。その一角に、遥の家族が経営する古い銭湯がある。この場所からも、甍の波の間を縫って聳え立つ銭湯の煙突が見える。かつて、町の象徴だった煙突は、今も毒々しい紫色の煙を吐いていた。空の曇天や死人化は、もしかするとこの煙が原因かもしれない。遥と家族の安否が心配だ。幸い銭湯はここから15分程。


「よし、行こう。」


僕は決心する。

ここ数年、周りに流されてばかりだった。

だから今度は、自分で決めて動く。


 銭湯までは徒歩で15分ほどだ。

人の気配はなく、家々は固く口を閉ざしている。

ただ一軒、閉め切られた窓のカーテン越しに、

金木犀のような透き通った橙の淡い光が滲んでいた。

それがかえって、この町の異常さを際立たせていた。


 息を殺し、僕は進む。

さっきまでの喧騒が嘘のように、足音だけがやけに大きく響く。相変わらず、死体が転がっている。

腐った匂いが、息を吸うたび肺に染み込んでくる。

足元の死体の瞳孔が、ほんの僅かに揺れた気がした。

……いや、そんなはずはない。

そう思おうとするほど、足が重くなる。


重い足を引きずり僕は煙突下に辿り着く。

胸の奥に、ほんの僅かな安堵感が滲む。

だが同時に思う。


この世界は、もう引き返せる場所ではない、と。


 銭湯の入り口の青い暖簾は破れ、紅黑く染まっていた。風も吹いてないのに、不自然に揺れている。


「………遥?」

呼びかけても返事はない。

僕は息を整え、暖簾を押し分け中へ踏み入った。


銭湯の中は酷い有様だった。

温泉特有の硫黄の香りに生乾きの服の匂い。それに微かに腐臭が混じっていた。どこからか水が漏れているのだろう、タイルが湿っていた。

静かな銭湯の中に水が滴る音が響く。

遥は生きているのだろうか。それとも…もう、、

僕はそれ以上考えるのをやめた。怖かったんだ。


 脱衣所に入ると微かに甘い香りが漂った。

僕はその匂いを嗅いで懐かしく感じた。

昔庭に植っていた、金木犀の香りだった。


その時コインロッカーの端で影が微かに動いた。

誰だ、いや言うまでもない。遥だ。

正確には、遥だったモノ。もうそこに、遥は

いなかったんだ。


彼の口元には血が滴り、足元には両親の遺骸が転がっていた。喰らったのだろう、自らの親を。


遥の姿は人の形を保っていなかった。

髪はボサボサに伸び、爪は異様なほどに長く鋭利に、そして所々血管が浮き、気味悪く脈動していた。その中でも、もっとも異質だったのは、

彼の目から根を生やし、身体を今もなお侵食する


金木犀だった。


本来の鮮やかな橙とは打って変わり、血が滲んだような気味が悪い色をしていたことだ。

入った時に感じた甘い香りは、彼が原因だったのだ。

彼を栄養にした金木犀は満開で、腐臭の中に彩を添えていた。


 先に動いたのは遥だった。

僕は何もできなかった。


片目は潰れ、僕の身体は首から腰下まで引き裂かれた。身体から鮮血が舞い、金木犀を飾る。

力なく体が崩れる。薄れゆく意識の中で、

記憶が蘇る。これが走馬灯というものだろうか。


虐め、虐め、虐め、遥、虐め、遥、母。


なんだ、殆ど虐められてる記憶じゃないか、

僕は呆れて己に嘲笑する。


そんな中輝くものが二つあった。遥と母だ。


僕と喋る時、遥はいつも笑顔だった。

遥は僕の太陽だった。

いじめられても守ってくれた。


母はにこやかに微笑みながら僕に手を振っていた。

走る僕の姿は、まだ幼稚園児程に小さかった。

かなり昔の記憶なのだろう。



 いつからこうなってしまったのだろう。

嫌だ、まだ死にたくない。

残された片目から熱いものが溢れ、零れ落ちる。


僕が走馬灯に意識を向ける中、遥は僕の前でしゃがみ、引き裂かれたところから血を啜り,肉を喰らっていた。数刻の時が流れた頃、僕の身体は原型をなくしていた。意識が消える寸前だった。


遥は手を止め立ち上がった。

声にならない声。よくわからない言語で叫びを上げた遥は僕を踏み潰し、脱衣所から出ていった。







「なぁんだ、こんなものか。つまんないの」

浴室から幼いが、中性的な声が響く。


「まあ君はいいサンプルになったよ。」


そんなことを言った彼はフッと姿を消した。




いつの間にか曇天は消えて、

雲ひとつない青空が戻っていた。


その日は快晴。誰のものかも分からない、

血で染まった金木犀が舞っていた。





「ザザッ、速報です。本日未明、○○県八朔町並びに柚子湯町で集団失踪事件が起きました。死亡者は3名。警察はこの事件について詳しくしらべていk……………………ツーーーープツッ」

読んでくれてあざした。

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