第二章ー3
「散々な目にあった……」
「お疲れ様〜」
授業が終わってからも続いたクラスメイトの非難の嵐から逃れ、深々と溜息をつきながら貴人は悠奈と共に自分達の活動拠点へと向かっていた。
悠奈は「貴人の反応が面白いから」と全くフォローをしてくれなかった。
結局最後まで燈の事は言わずに有耶無耶にしてその場を終わらせてしまった。
(燈の事を話したらもっと面倒くさい事になるだろうしな……)
知った時の担任のなんとも言えない楽しそうな表情が目に浮かぶ。
なんて事を考えている内に我らが第三会議室に辿り着いた。
「おーす」
「遅くなってごめんね〜」
貴人は何の気なしにドアを開いて、既に中で談笑しているであろう後輩二人に自分達の到着を知らせる。
「あ、師匠と悠奈先輩」
「こ、こんにちは……」
すると、それぞれこの部室での定位置に腰を下ろしていた船佐津々良と水月未来がこちらに返答を寄越した。
ちなみに津々良と未来は向かい合う形でソファに座っている。
貴人は二人を確認して、自分の定位置である革製の豪華な社長椅子の方へ目を向けると、そこには既に先客がいることに気付いた。
「遅かったね〜。貴人君に悠奈ちゃん」
そう言いながら笑顔で椅子をクルクル回してこちらに顔を向けたのは元気一杯生徒会長こと九十九香だ。
香も前回の一件でこのANK部に入部している。
「会長もいたんですか、生徒会の仕事は?」
貴人が尋ねる。
香は生徒会長であり、その職務が終わる九月までは多忙の身であるためこちらには顔を出すことが出来ないと言っていたはずである。
そんな香がいることに貴人がはてなマークを浮かべていると
「貴人君覚えてないの? 今日空雅院さんからもう一度集まるように言われていたじゃない。だからここで集まって一緒に行くって約束したでしょ?」
「あ、そういえば!」
やれやれと言わんばかりの口調で香がそう教えてくれ、貴人は自分の失念に気付いた。
爆弾魔の一件が終わった数日後に世界警察から新たに呼ばれていたのだ。
前日までは覚えていたのだが燈の事ですっかり忘れていた貴人。
「まあ忘れてたとしても仕方ないと思うよ」
隣でそうフォローしてくる悠奈はその事を覚えていたらしい。
一夜に今回は悠奈も来てほしいと言われている。
「ははは、まあ色々ありまして」
そう貴人は言葉を濁すが
「師匠聞きましたよ! できちゃった騒動!」
「ち、違うよ津々良ちゃん……隠し子騒動だよ……」
「何故知っている!? 」
興味深々に身を乗り出して話し掛けてくる津々良と、顔を真っ赤にして俯きながら「破廉恥です!」と言いたげな未来。
なぜウチの学校はここまで噂が伝播するのが早いのか、なんて言い訳をしようか、そんな事を貴人は頭の中で算段を立てていると
「二人とも〜貴人君がそんな事するわけないでしょ〜」
「か、会長!」
香の言葉に思わず涙が流れそうになる貴人。
津々良と未来も「た、確かに……」と頷いている。
「そもそも貴人君はまだ悠奈ちゃんにも手をーー「あああああああ!!」」
貴人は全力で香の口を塞ぐ。
津々良と未来は貴人の行動に首を傾げた。
どうやら聞こえていないらしい。
(なななななななな何故それを!?)
香の口を封じていた手を解放して、小さく香に耳打ちする。
悠奈の方を見ると顔を赤くさせモジモジしている。
悠奈には聞こえていたようで、それが一層貴人を恥ずかしくさせる。
「二人の言動見てたら分かるよ。特に悠奈ちゃんの方」
香は当たり前の事のようにさらっと言う。
実はこの男ーー千凪貴人は悠奈に未だ手を出したことがない。
一緒に寝る事もあるが本当に一緒に寝るだけである。
貴人も男で、悠奈のような美少女と暮らしているので思うところはもちろんあるのだが、そこは絶対に自制している。
香は二人を察したようで「要するに」と続けた。
どうやら今度はまともなフォローをしてくれるらしいと感じて、貴人はホッと胸をなで下ろす。
「貴人君はどうーー「ていやあぁぁぁぁぁぁ!」」
結局この三人にもクラスメイト達と同じように言葉を濁して三人を納得させなければいけない貴人だった。
ーーーー
暗いでなく黒い、そう形容するのが最も相応しいこの空間で、啄木鳥は周りでディーヴァを纏いながら作業をしている数名の人間に声をかける。
「調子はどうだ?」
啄木鳥の質問に男の声が一つ、反応する。
「現時点で、五百回中複製が成功しているモノは5つです」
「成功率一パーセントか……」
男の報告を聞き、自らの顎に手を置く啄木鳥。
そんな啄木鳥に向かって男は続ける。
「正常に動作し続けるモノだけを成功と定義するのなら、成功率はさらに低くなると思われます。この成功例は一度しか試していない上に複製の複製ですから……」
「とはいえこれ以上効率をあげる事は不可能だしな……。あったとしても俺の頭じゃそれは出てこない」
「あの方に知恵を借りますか?」
「鴉の事かい?」
男の提案に啄木鳥は首を横に振る。
「あいつに頼んだら見返りがうるさいよ。それにあいつの役目はこいつを届けた時点で終わっているんだ。ここからはこちらがやりきる番だ」
「そうですか……分かりました。では作業を続けさせてもらいます」
男は大人しく引き下がり、自分の作業へと戻っていった。
「百個くらいあれば言うこと無いんだけどね」
啄木鳥はそう言いながら先程の男を含め五人の人間が持つ妖しく光る黒い指輪を見つめた。
少し遅めの投稿になりました。明日から三連休ですね。仕事の方も何処かへ行かれる方も健康には気をつけて下さいね。




