第二章ー2
「アームズの中でも他と一線を画した奴を伝説級と言う事は知ってるな? この伝説級と呼ばれるアームズの殆どにそのアームズを使用していたホルダーのプライベートアビリティを用いた術式が組み込まれている。つまり伝説級のアームズを持っているとそいつはホルダーと変わらないということだ。ではここから有名な伝説級のアームズをいくつか紹介する。一つ目はーー」
教壇に立った楓が教師らしく生徒に教鞭を振るっている。
しかし、貴人の耳にその説明は全く届かなかった。
今朝の出来事で頭がいっぱいいっぱいなのである。
(これからどうすればいいんだ……)
貴人は一人頭を抱えながら愛人宣言をしてきたあの金髪美少女との今朝の出来事を思い出す。
ーーーー
「あ、あいじん……? 」
貴人は自分のベッドで少しだけ身を起こした少女の言葉を復唱する。
最初は焦っていて気が付かなかったが、その少女の服装は貴人の白いシャツを一枚だけ着ているだけという、何とも男のロマンをくすぐる格好だった。
「え、えーと……。私は氷上悠奈、こっちは千凪貴人。あなたの名前を教えてくれないかしら?」
落ち着きを取り戻した様子の悠奈がその少女の名前を聞いた。
するとその少女は少し首を傾げながら
「なまえ……?」
「言葉が通じてないのかな……。えーと」
悠奈がなにやら思案していると、少女がおもむろに自分の手をシャツの中に入れ始めた。
貴人がその光景を瞬きもせずに観察していると、少女がそこから手紙のようなものを取り出して、それを二人に渡してきた。
悠奈が受け取って手紙を読んでいき、貴人にその手紙を渡した。
「えーと……。って貴人のおばさんとおじさんからだよ」
「まあ、薄々感じてはいたけどな……」
悠奈が言うおばさん、おじさんとは貴人の両親の事である。
実際は血は繋がっていないのだが。
悠奈から受け取ったその手紙にはこんな内容の事が書かれていた。
『一緒に暮らしてあげてほしい』
『その子には家族も頼れる人もいない』
『記憶があやふやな所がある』
『年齢は恐らく貴人達の一つ下』
『明るい性格で、物分かりも良いのですぐに慣れるてくれるだろう』
『とりあえず貴人に愛人宣言をさせるように伝えておいた』
(最後の内容が意味不明すぎるわ!)
内心でそうぼやきながらも貴人は未だぼーっとしている少女に向き直る。
「とりあえずよろしく。俺の事は貴人って呼んでくれ」
そう言いながら手を差し出すとその少女は嬉しそうに顔をほころばせて
「たかと!」
と言いながら抱きついてきた。
その笑顔はまるで太陽のように暖かかった。
「うおっ!」
いきなりの衝撃に貴人は尻餅をついてしまう。
少女は犬のようにこちらにギュッと抱きついている。
胸の感触が貴人の頬を弛緩させる。
そこに悠奈も手を差し出して
「私の事も悠奈って呼んでね」
「ゆな!」
「きゃっ!」
貴人に抱きついていた少女が今度は悠奈の方へ抱きついた。
悠奈も貴人同様体勢を崩した。
(が、眼福です……!)
じゃれあう二人の美少女を貴人は脳内でたっぷり録画した後、鼻血を拭き取って、貴人は少女をベッドの上に座らせて真面目な話を切り出す。
「やっぱり名前は必要だよな」
「そうだね……」
悠奈も同意見だったので貴人は既に決めていたこの少女に相応しい名前を悠奈に伝えた。
それを聞いた悠奈も笑いながら「私もそれがいいと思う」と賛同してくれた。
そして、貴人はその少女に向き、告げる。
「今日から君の名前は燈だ」
先程の誰もを安心させるような笑顔をみて貴人は咄嗟にこの単語が浮かんだのだ。
「あ、か、り……」
燈と名付けられた少女はしばらくこちらを見つめて、少しして貴人が考えた名前を復唱した。
「嫌か……?」
あまりの反応の薄さに貴人は思わずそう聞いてしまう。
しかし燈は首を横に振って
「あかり、名前、嬉しい 」
と満面の笑みでそう答えた。
「そうか……よかった」
それにつられて貴人も何故か笑ってしまう。
しかし燈はまだ続けた。
「せんなぎあかり、これで、たかとのあいじん!」
「あれ?」
貴人の戸惑いをよそに、悠奈は面白そうにこちらを見ていた。
ーーーー
(あそこからまた燈が抱きついてきたかと思えば学校に行こうとしたら全力で妨害されるし……)
それは別に構わないのだが、これからウチで過ごすならそれなりに生活必需品などを買い足す必要があるだろう。
貴人はメモ用紙を取り出して、必要な物を書き出していく。
(服はもちろん、洗面用具、それから食器も必要だな……)
「貴人……!」
貴人がそれらを書いていると、隣の席の悠奈が小声で呼んでいた。
何事かと横を向くが、そこに悠奈の姿は見えずにスーツが目に入った。
そして貴人は悟る、終わった、と。
「千凪、私の有難い授業を聞かずに何を書いてるんだ?」
そう言いながらスーツを着た鬼、楓がメモ用紙に目を通して
「この内容からすると子供でも出来たのか? 千凪?」
「「はっ!?」」
楓の爆弾発言にクラス中が凍りついた。
そんな事を全く気にせずに楓が続ける。
「しかし、氷上はそんな気配は全く見せなかった……という事は、浮気か?」
この一言がクラスメイトに火を点けた。
「見損なったぞ貴人!」
「氷上さんが可哀想だ!」
「ちょっとかっこいいからってそれは最低だよ千凪君……」
貴人は前途多難とはこの事だな、と頭を抱えるのだった。




