第一章ー46
「あれは……!?」
貴人達が地下の最奥部辺りに来た所で光が声を上げた。
走りながら通路を抜け、だだっ広い場所に出てきた貴人達の目には一人の男と術式が組み込まれている一本の真っ白な柱が映った。
「あれが爆弾魔……?」
夢がそう呟くと、男が口を開いた。
「ええ、いかにも。私が爆弾魔です」
微笑み、そして小さく礼をする男ーー爆弾魔の姿はまさしく紳士という言葉がふさわしい。
白いスーツに均整のとれた体、金髪で整った容姿がそれを助長していた。
爆弾魔が術式が組み込まれた柱に触りながら続ける。
「この術式装置は後三十分で自然に発動します。また私が設定した条件を満たしても発動するようになってます」
「条件?」
貴人の隣に居た悠奈が復唱した。
魔導機兵を用意していたのは時間稼ぎだったのだろう。
爆弾魔は少し笑みを深めて
「ええ、その条件は『私が死ぬ事』です」
貴人達を鋭く睨んだ。
爆弾魔から凄まじい気を感じる。
一夜のような存在感とはまた違う圧力ーー殺気がこの空間を支配している。
「それとこの術式が発動すると半径五キロは焼け野原になってしまいます」
「なっ!?」
全員が息を呑む。
光が声を荒げた。
貴人も爆弾魔の捨て身の行動に内心驚く。
爆弾魔はそんな事はお構いなしに再度微笑んだ。
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。ちゃんと解除出来るようにしてますから」
「取り引きを御所望かい?」
緊張の中、一夜がいつもの感じで爆弾魔に話し掛けた。
すると爆弾魔から放たれていた今までの静かな殺気が猛々しい殺気に変わり、その顔にも憎しみの表情が浮かんでいた。
「お前が皇帝か」
先程までの丁寧な口調からは考えられない程低い声を爆弾魔は発した。
それに気圧された様子もなく一夜が返す。
「おや? 僕の事を知っていてくれてるようで嬉しいよ」
「よくも私達の芸術家を……!」
爆弾魔が芸術家という言葉を口に出した途端、一夜と光の表情に変化が見られた。
一夜は少し険しい表情になり、光は驚きの表情をしていた。
「貴人、芸術家って……」
「ああ」
悠奈が小さく耳打ちしてくる。
貴人も芸術家という言葉には聞き覚えがあった。
ーーーー
今から数年前、フランスのとある場所に建てられたとある建築物の中で世界を驚愕させた惨劇が起きた。
その建築物の名はサンティマンーーフランス語で『感情』を意味する。
ハート型の外見で、収容可能世帯数はわずか八世帯、しかし家賃は無料で生活に必要な物や食べ物なども一切お金が不要で定期的に届けられるという楽園のような内容だった。
但しそこに住むことが出来るのはこの建築物の設計者が決めた人物のみ、という全てにおいて普通とは一線を画している事が噂になりサンティマンは世界的に有名になった。
また、そこに住むことを許可された人物に決まりはなかった。
資本家などの富裕層からスラム街の人物まで本当に様々な階級の人々が招き入れられた。
そこに住まう事になった者達は最高の栄誉を与えられたように感じしばらくは平和にサンティマンで生活していた。
そして惨劇が起こる。
サンティマンでの平和な暮らしが始まってから半年後、ここに住む資本家の友人が訪ねてきた時、入り口の扉に血文字でジュワーー日本語で『歓び』と書かれているのを見て急いで部屋に入ったところ、資本家は浴槽でユーロ札に埋れながら目立った外傷もなく死んでいたのだ。
しかしこれは惨劇の一部に過ぎなかった。
世界警察フランス支部が資本家についての事情を聴衆しようとその建築物の他の入居者を訪ねて驚愕した。
全員が芸術品のようになっていたからだ。
トリストーー日本語で『悲しみ』と扉に書かれた部屋には赤ん坊の死体を目の前に泣き叫んでいるような顔をして地面を涙で濡らしている女性の死体が、ヘインーー日本語で『憎しみ』と書かれた扉の中の部屋には一組の男女が手首をロープに吊るされ、全身を刃物で切り裂かれて死んでおり、その前には憎悪に満ちた顔をした女が一本のナイフを持って首から血を流して死んでいた。
他の入居者も同様に様々な『感情』を示しながら死んでいた。
犯人はすぐに判明したーーサンティマンの設計者である。
すぐに判明した理由は扉には作品の題名とともにその設計者の名前が書いてあったからだ。
その設計者の名前はトリスタン・ハウードーー世間では芸術家として名を馳せる人物だった。




