第一章ー39
「ぬいぐるみは全て回収されましたか」
『ああ、すまないな。想像より早く気付かれてしまったようだ』
鴉が軽く謝罪してくる。
別に爆弾魔は最初からぬいぐるみに期待などしていなかった。
急遽思い付いてやってみただけだ。
とは言っても三十体程用意していたのが今日で全て見つかるのは少々予想外だ。
(本当なら明日までぬいぐるみに世界警察の目を向けておきたかったんが……。さて、どうするか……)
『あれはどんな術式装置だったんだ?』
爆弾魔が今後の行動を考えていると不意に鴉が質問してくる。
爆弾魔は思考を一時中断し、質問に答えることにする。
「私の設定した時刻になると爆発して半径三十メートル位に被害を与えてくれるものです」
『ようは時限爆弾か』
「まあそんなもんです」
軽く説明してやると鴉が電話越しに『ふむ』と納得したような声を漏らす。
もちろん話したのは要点だけだ。
設定した時刻を後で変更する事は出来ない事、自分がその術式装置から一定距離離れてしまうと発動しなくなる事は言う必要が無いと判断した。
そこまで教えてやる義理など無い。
(どうせ今頃無効化されているだろうしな……)
爆弾魔は心の中でそう付け加える。
無効化する手段なんて幾らでもある。
しかし今はそんな事を考える必要はない。
「今後の事なんですが……」
『何だ?』
「もう今日中に全てを終わらせたいと思います」
『そうか』
「焦らないということはもうそちらの作業は全て終了したということですね」
『何のことやらさっぱり分からんな』
爆弾魔の皮肉に白々しくとぼける鴉。
鴉が自分を囮にして裏で色々している事など知っている。
それでも別に構わないのだが。
「まあ、それはいいです。ただ一つ問題が……」
『魔導機兵は既に用意してあるぞ』
そんな爆弾魔の懸念を鴉がすぐに取り払ってくれた。
こういう所は好ましいのだが、そう爆弾魔は思わずにはいられない。
魔導機兵とはその名の通り、ディーヴァを動力源とした機械兵器である。
人型、虫型、動物型など様々な型があり、一つの命令を動力源のディーヴァが尽きるまで果たそうとし続けるのだ。
人間よりも丈夫で多少の損傷など関係なく作動するため戦争では重宝されている。
それを爆弾魔は鴉に用意させていた。
『人型が五体、動物型が十体、虫型が二十体、そして特別な奴一体の計二十六体で合っているだろう?』
鴉の言葉に満足する爆弾魔。
「ええ、ありがとうございます。調達するのはさぞ困難だったでしょう?」
『まあな』
再度爆弾魔は鴉を皮肉るが鴉の反応は薄い。
(つくづく癇に障る……)
爆弾魔は毒づきたくなるが堪える。
やはり鴉とは気が合いそうに無い。
「それで最後の要求ですが、その魔導機兵を全て起動させてもらえませんか?一人でやると些か時間がかかります」
『構わない』
爆弾魔の最後の要求を鴉が承諾する。
自身の目的を果たし終えたらしい鴉はもう自分の事は用済みになったため断るのかと思っていたのだがそれなりに律儀な奴らしい。
「ありがとうございます。それでは三十分後に一斉に起動させてください」
『了解した』
「あと闘技場の地下には魔導機兵を配置する必要はありません。アレ《・・》が攻撃されてしまいますからね」
そう言いながら爆弾魔は目の前にある一本の柱のような幾何学模様が描かれたオブジェクトに触れる。
今、爆弾魔は闘技場の地下の最奥部にいる。
本来はなにか行おうと思っていたのか地下はとても広かった。
そんな地下の最奥部にあたるだだっ広いだけの何も無い空間で真ん中にポツリとそのオブジェクトが鎮座している。
五月祭が始まる数日前に爆弾魔が入念に下見をしてこの地下にこのオブジェクトを置くことを決定したのだった。
人が入ってこず、出来るだけ被害が多く出る場所という条件を満たしたのがここである。
そしてそのオブジェクトを人目を盗んで何とかここまで運んできた。
鴉達にやらせても良かったのだが、これは自分がしようと最初から決めていたのだ。
『了解した。それで魔導機兵への指令はどうするか決まってるのか?』
「もちろん決まってますよ。指令はーー」
鴉への回答は既に決まっている。
爆弾魔は口角を上げて告げた。
「『ウィザードを殲滅せよ』、で」




