第一章ー38
「そこで何してるのかしら?」
貴人達の決勝戦が始まった頃、夢は闘技場の外で路地裏に猫のキャラクターのぬいぐるみを持ってウロウロしていた一人の男に声をかけていた。
その男は夢をみると「ひっ!」と怯えた声を上げながら背を向けて逃げ出そうとする。
それを夢は「はぁ……」と呆れながらマギを発動させる。
夢の右手から人一人は入れそうな水の塊が現れる。
それを夢に背を向けている男に放つ。
するとその水の塊が男に纏わりつき始める。
「うわああああ!」
男は自分が水に呑み込まれていると気付いたのか悲鳴をあげた。
すぐに水の塊は男の体全体を呑み込んだ。
「やっぱりこういう時無詠唱はタイムロスが無くて便利ね」
夢は全身を水で拘束され、ブクブク溺れている男を見て呟く。
夢はマギを発動する時にマギの名称を言葉に出さなくても発動できる存在だ。
会得するのは難しかったが今では当たり前のように使いこなしている。
流石に全て無詠唱と言うわけではないのだが。
男が息をしようと必死にもがいているのを見て夢は首から上だけ外に出してやった。
「ぶはっ! はぁ、はぁ……!」
呼吸が出来るようになり男は勢いよくに空気を体内に取り入れる。
夢はその男に話し掛ける。
「危うく殺してしまう所だったわ。大事な情報源を」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は何もしてない!」
男が必死に無罪を訴えてくる。
しかし夢にその言葉は響かない。
「こんなぬいぐるみをあちこちで、それも人目につかない場所を選んで置いてるのに?」
男のぬいぐるみを取り上げながら言う。
寧々は今日、闘技場のあちこちを巡回した。
その成果は出店でのちょっとしたトラブルと迷子がそれぞれ一件ずつ。
そしてもう一つ、ぬいぐるみの落とし物を三つ拾った事だった。
一つ目は焼きそばを販売している屋台の隅に落ちていた。
二つ目は闘技場の近くにある大きな広場に植えられていた木の上に、そして三つ目はその広場の女子トイレの天井に貼り付けられていた。
一件目のぬいぐるみを見つけた時夢は貴人が昨日ぬいぐるみを拾った、という報告を思い出した。
夢は不審に思い、そのぬいぐるみを少し調べてみると中に何か硬いものが入っているのを発見した。
それを取り出して夢は驚いた。
「まさかぬいぐるみに爆弾を仕込んでいたなんてね」
夢はそう言いながら男から回収したぬいぐるみに手を突っ込み中から幾何学模様の入ったスーパーボールのような物を男に見せた。
それを見た男は呆然としていた。
すぐさま夢はその術式装置を爆発しても大丈夫なように水で覆っておく。
「どうやら知らなかったようね」
「あ、当たり前だろ!? 俺は通りすがりの男に言われたんだ! このぬいぐるみを人目につかない場所に隠してくれるなら金をやるって!」
「その男は日本人?」
「に、日本人だった! 日本語で話してきたしフードを被っていて顔はよく見えなかったが僅かに黒い髪が見えた!」
夢の言葉を聞いてハッと我に返った男は経緯を述べた。
(やっぱりバックアップしている存在がいるのね……。それよりもとりあえずこの術式装置の事ね)
そう考える夢。
実際、今まで見つかった術式装置は発動させていないため、これが本当に爆発するのかは分かっていないが、人は多いが人目につかないところに置かれていた事と、爆弾魔が日本にいるという二つの事柄から爆弾だろうと予測しただけだ。
今は世界警察に全てを報告して他のぬいぐるみに入っていた術式装置の調査と他のぬいぐるみを捜索してもらっている。
香にも同様の事をお願いしている。
タッグ戦に出場しているはずの貴人と清嗣にもメールはしておいた。
(決勝を見に行くっていう貴人の約束守れそうになさそうね)
そう思いながら少し残念な気持ちになる夢。
あの場に呼ばれるだけの実力を持つ貴人の試合を見てみたかった。
(何も起きなければいいんだけど……)
そんな事を思いながら夢は捜索を再開した。




