第一章ー35
「よぉお前等」
決勝戦が間も無く始まろうとする時、フィールドの入り口に待機していた貴人達に声が掛けられる。
余裕の笑みを浮かべた前司とその後ろで無表情のままの斗真だった。
「どうも」
短く貴人が返す。
「おいおい、それだけかぁ? もしかしてさっきの試合を見てビビってんのかぁ?」
貴人の態度が気に障ったらしく、前司は二人を煽り始める。
「まあ仕方ないな、あんなマギを使える俺様達を見たら臆病者のお前達は震え上がるのも理解できるぜ。だから別に降参してもいいんだぜ? それに今のうちに降参したらそこの女が恥ずかしい姿を見せなくて済むんだぜ? 野郎共は残念がるだろうがな!あははははははっ」
前司は高笑いしながら悠奈を煽りの標的にした。
悠奈は何も言い返すことなく静かに目をつむりながら佇んでいる。
反応してやるつもりは無いのだろう。
「なぁ、お前はどう考えてるんだ? 」
前司を無視して貴人は斗真に問う。
「どう、とは?」
いきなり質問された斗真は貴人に聞き返す。
前司は無視されたことに「ちっ」と舌打ちするも二人の会話を聴く。
「兄貴の意見に賛同かどうか、だ」
「そういう事ですか。正直、僕には兄さんのしている行動が理解出来ません」
「そうか」
貴人はその言葉を聴き、「なら何故兄の行動を止めないのか」と言おうとした時、斗真が
「だってーーーー」
と貴人より先に話し始めた。
その顔はさっきまでの無表情とは違い、貴人達を明らかに侮蔑している顔だった。
「下等な生き物に何を言っても無駄じゃないですか」
さらに
「だから兄さんが言葉が通じない相手に無駄な行動をしているようにしか見えないんです」
と言う。
それを聞いた前司がくすくす笑いだした。
「くく、こいつは俺より性質が悪いんだぜぇ。お前達の事を人間とも思ってないからなぁ」
「ふふ、兄さんが優しすぎるんですよ、蟻に話し掛けるなんて普通はしません」
二人はそう言いながら笑う。
「自分達以外は下等な生き物、か……」
貴人は斗真の言葉を反復する。
(兄弟そろってどうしようもないな。ていうかそのわりには夢先輩と空雅院一夜に二人ともびびってた気もするけど……)
心の中でそう呟きながら貴人は笑顔で悠奈に話し掛ける。
「なあ、悠奈」
「どうしたの?」
話し掛けられた悠奈もいつも通りの表情で対応する。
「賭けをしないか?」
「賭け?」
賭け、という言葉に前司達が反応したのが分かった。
その二人を無視して貴人は言い放った。
「ああ、俺が決勝戦でマギを発動せずに俺一人で二人を倒せるかどうか賭けをしようぜ。賭けに勝った方が今日の好きな晩飯を負けた方に作ってもらえるのでどうだ?」
「おいおいお前ふざけてんのか? お前達は俺に勝つことも出来ないくせにそれを一人でマギを使わないだと? ははっ、冗談はよせよ」
貴人が言っている事を本気で理解出来ない前司が口を挟む。
斗真もポカンと口を開けたままだ。
そこに悠奈が笑い出し、
「そうだよ貴人、こんなの賭けとして成立するわけないじゃない。だってーーーー」
と悠奈はさらに続ける。
「貴人が負けるわけないじゃない」
その言葉を聞き、前司が怒鳴った。
「ふざけんな!! 俺達がこいつ一人に負ける!? そんなわけあるか! 俺達にそんな事言って後悔するんじゃねえぞ!」
「兄さん落ち着いて下さい!」
大声で怒鳴りちらす前司を斗真が落ち着かせる。
そう言う斗真の顔にも怒りの表情が多分に含まれていた。
前司が更に何か言おうとしたのか、こちらを睨んだその時、入場のアナウンスがかかる。
それで少し落ち着きを取り戻したのか前司は「絶対ぶっ殺してやるからな!」と貴人達に言いながら斗真を連れさっさとフィールドに行ってしまった。
「あんな事言っちゃって本当に良かったの?」
二人が居なくなった後、悠奈が貴人に聞いた。
「なんだよー、本当は信用してくれて無かったのか?」
心外だと貴人。
「そうじゃなくて、一人でしかもマギを使わないで勝っちゃったら色んな人に知られちゃうんだよ? 」
「そういう事か」
貴人は悠奈の言いたい事を理解する。
「正直目立つのは嫌だけど、それ以上にあいつらが調子に乗り続ける方がずっと嫌だ」
「無茶はしないでね」
「無茶する必要もないさ」
「ふふ、そうだね」
貴人と悠奈はそう微笑みながら観客が見守るフィールドへと足を踏み入れた。
ーーーー
観客席にいた津々良達は入場して来た前司達を見て話し始める。
「ちょ……なんかあの二人超絶怒ってる気がするんですけど……」
先程のヘラヘラした態度とは打って変わり、辺りに威圧感を放ち続けている前司達。
他の観客はそれに気圧されて声を出せないでいた。
「どうせ千凪がいらん事言ったんだろう」
「でしょうね……」
寧々の言葉に愛斗も頷く。
(何をやってるんですか師匠……)
心の中で津々良は貴人を責める。
そして前司達の後ろから貴人達も顔を出した。
その瞬間、観客が沸き上がった。
そのボリュームは海が耳を塞ぐ程だった。
相当鬱憤が溜まっているのだろうと津々良は思った。
自分もそうだからだ。
(楽しみです師匠!)
目を輝かせながら津々良は貴人達を見た。
直後、一方的な試合が始まった。




