第一章ー30
「貴人ーもう寝るよー」
「んー」
パジャマ姿の悠奈が貴人に告げる。
香達が優勝したその日の晩、貴人と悠奈は自宅に帰って寛いでいた。
制服からパジャマに着替え、リビングでゴロゴロしていた貴人が青色のクッションを抱えながらテレビを見ている。
五月祭は参加自由なので制服を着ていく必要は無かったのだが、制服を着ていくという学校の暗黙の了解があった。
貴人が部屋に行こうと立ち上がろうとしたその時、貴人のポケットが小刻みに震え出す。
「あ、電話だ」
そう言いながら貴人は自分の携帯を取り出した。
相手が誰かを確認し、電話に出る。
「もしもし、夢先輩ですか?」
『そうよ』
貴人の電話の向こうから聞こえて来たのは凛とした声、夢だった。
「どうしたんです?」
貴人が要件を尋ねる。
『一応確認と報告をしようと思って』
「確認と報告?」
『ええ、私は今日出場予定が無かったから少し見回りをしていたの。貴人も見回りしたんじゃない?』
「まあ、一応」
『ふふ、だと思ったよ。それで確認と報告』
「あぁ、そう言う事ですか」
夢の言葉の意味を理解した貴人。
(みんな爆弾魔を捕まえようとしてるんだな)
貴人はぼんやりと心の中で思う。
六王家のプライドがあるのだろう。
『ではまず確認。何か異常はあった?』
「いえ、特には。携帯とぬいぐるみを見つけただけです」
『そう……』
夢の声のトーンが落ちる。
『私の報告も同じ様なものよ。やはり五月祭に爆弾魔は現れないのかしら。ただ日本を観光したくて訪れただけとか』
「はは、だと良いんですけどね」
思っても無い事を言う二人。
貴人の隣で悠奈が「誰〜?」と言いながら貴人の近くに寄って来た。
それに対して貴人は「聖の先輩」とだけ小声で告げる。
『まあ明日も私は見回りをする予定だから何かあれば貴人に伝えるわ』
「お願いします。明日は俺出場するので」
『分かった。貴人の為に決勝戦は応援しに行ってあげる』
「はは、決勝に行けるかなんてまだ分からないですよ」
二人が話していると貴人の隣に悠奈が座った。
『謙遜しなくていいよ。未来があそこまで強くなっているという事は君がよっぽど強いという証明だよ』
「元々の素質ですよ。それに未来に主に指導したのは俺じゃないですよ」
『そうだったのか? それじゃあ貴人の友達?』
意外そうな声をあげる夢。
貴人は夢の問いに対し少し言葉を濁す。
「え、ええまあそんなところです」
『そう……夢ノ丘には優秀な学生が多いのね……。おっと……少し関係の無い話までしてしまったわ。悪いわね』
「いえいえ、それではお休みなさい先輩」
『お休み貴人』
通話を終え携帯を閉じると、隣から視線を感じた貴人。
その視線の主に話しかける。
「どうした……?」
「今の人って? 貴人に聖の女の先輩がいるなんて知らなかったなー」
隣から会話を聴いていた悠奈はジト目で貴人に問うてきた。
「あ、あれは未来の姉だ。 昨日知り合って業務連絡をしてただけだよ」
「ふーん、それにしても仲良さそうだったねー」
貴人は何も悪い事はして無いのに何故か焦ってしまう。
悠奈は何故か棒読みだ。
しばらくあわあわしていると、悠奈は満足したのかくすくす笑い出す。
「ど、どうした悠奈?」
「分かってるわよそんな事。ちょっと意地悪したくなっただけ」
「そ、そうなのか? 良かった〜」
冗談と分かり心から安堵する貴人。
「ありがとうね」
「何が?」
いきなり礼を言われ首を傾げる。
心当たりが貴人には無かった。
「私の事言わなかったでしょ?」
「あ、あぁそんな事か」
「そんな事でも嬉しいのー」
嬉しそうな顔をしながら悠奈が貴人の胸元に飛びついてきた。
いきなりの悠奈の行動に反応が送れそのまま二人はソファに倒れこむ。
そして悠奈が貴人の上から笑いながら告げた。
「明日優勝しようね」
そんな悠奈の頭を撫でながら貴人は言った。
「当たり前だ」
二人はソファで寄り添い合いながら夢の世界へ旅立って行った。




