第一章ー29
「会長達が言ってた『とっておき』ってこれかよ……」
阿澄、愛斗、海の三人も呆然と立ち尽くす。
阿澄達はこの事を教えられていなかった。
「龍の両腕!」
最初に未来がマギを発動させる。
二つの術式から現れたのは水で出来た龍の腕。
五メートル程の大きな腕の先には一度に数人を叩き潰せそうな程大きい手、さらにその先端には液体出来ているとは思えない程、鋭く尖った爪がついていた。
「っ……大きさではこちらが勝っている! ゴーレム! あの両腕をぶっ潰せ!」
一瞬気圧された様子の男達が巨人に指示を与える。
巨人が未来達に近づく。
「行けっ」
怯むことなく未来がそう言うと、龍の右腕が未来達に向けて放たれた巨人の拳とぶつかり合う。
するとーー
ジュッ!!!!!!
という音がして巨人の拳が龍の右手に呑み込まれ巨人がバランスを崩し倒れる。
そこへ今度は龍の左腕が上から下に巨人を叩き潰すように振り下ろしーー
巨人が完全に消滅した。
「なっ!」
男達が驚愕の声を上げる。
「相性的にも、ディーヴァの質的にも全てにおいて完全にこちらが有利だったわね」
阿澄がこの光景を見ながら冷静に言った。
「会長!」
未来は香に向かって叫ぶとマギを解除する。
香にトドメを刺してもらうつもりなのだ。
そして香が詠唱する。
「我が求むるに応えて出でよ!」
すると三つの術式から、貴人と戦った時とは大分異なった水の蛇が出現した。
ーーーー
「前回はあんな詠唱じゃなかったよな? 明らかに威力も増してるし」
香の変化に気づいた寧々が貴人に問う。
「ええ、詠唱型は応用が効きますからね。ただ時間が無かったので今回はあれだけですが」
「詠唱型?」
聞きなれない単語だったのか津々良が疑問を述べるとそれに悠奈が答えた。
「普通はマギを発動する時にマギの名称を言うよね? それは一般型。一番オーソドックスな方法ね。で、今さっきの会長が行ったのが詠唱型。マギの名称じゃなかったでしょ? それと今は関係無いけどそれ以外の方法は特異型になるの」
「何か詠唱型の利点はあるんですか?」
さらに悠奈が答える。
「詠唱型は一般型と違ってより具体的なイメージが必要で、徐々に術式を上書きして改良していかないといけないから完成するまでにとても時間が必要になるの。あのマギもまだ未完成だね。でもその分複雑なマギを発動する事が出来るっていう利点があるわ。もちろん一般型でも複雑なマギは発動出来るんだけどね」
「なるほど……という事は前回とは数だけじゃなく一体一体も強くもなってるという事ですね……」
津々良が水の蛇を見て呟く。
そこに
「そうなるな」
と津々良に自信たっぷりに言ってやる。
それを聞いて津々良が同情が混じった様な視線を相手に向けた。
「相手が可哀想です……」
香が出した水の蛇は以前とは様子が異なっていた。
以前は蛇のような形をしていただけで、なんとか蛇と認識出来る水の塊だったが、今出現しているのは水で出来た鱗、頭の部分には大きな目、口から見える鋭い牙とチロチロ動く舌があった。
「そんな……俺達のゴーレムが……」
「何だよあの蛇は……」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
分家の男達が騒ぎ出す。
今までのような余裕の笑みは一切無く、ただただ顔を真っ青にしている。
「行け!」
香がそう叫ぶと三体の蛇が一斉に完全に逃げ腰になっている男達に襲いかかる。
「がっ……!」
蛇の突進の衝撃により男達は苦悶の表情を浮かべながら意識を失った。
「あ、あとちょっとでも威力を抑えて無かったら内蔵が破裂してた気がするぞ……」
「下手したら粉々になってたかもね……」
「は、はは……」
愛斗、阿澄、海の三人は顔が引き攣っている。
「「お……うおおおおおおおおおすげええええええ!!!!!!」」
しばらくしてようやく状況が呑み込めたのか観客が一斉に歓声を上げる。
香達はその歓声に手を振りながら応えている。
「海ー! よくやったー!」
「未来ちゃん凄かったよー!」
「みんなお疲れー!」
寧々、津々良、悠奈の三人も大きな声で称賛を贈った。
貴人も五人に拍手をしていると香が貴人に気づいて笑いながら大きなVサインを見せてきた。




