第一章ー26
五月祭当日
貴人、悠奈、津々良、寧々の四人は熾烈な戦いが繰り広げられる場所、日本第一闘技場へ向かっていた。
収容人数は約八万人の日本で最大の闘技場である。
未来や生徒会メンバーはチーム戦に出場するため先に出発している。
「貴人! 焼きそばがあるよ! あ、あっちにはたこ焼きも! ねー何か食べようよー」
闘技場の近くに行くに連れて出店の数もどんどん増していく中、悠奈は周りをキョロキョロしながら貴人に食べ物をせがんでいた。
「そうだなー。適当に買って食べるか」
「ところで師匠」
ここで津々良が口を開いた。
「昨日呼び出されたのは何だったんです?」
「あー」
貴人は前日の事を思い出す。
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「用件とは何ですか?」
静まり返った部屋で香が真っ先に一夜に質問した。
その問いに一夜が少し前置く。
「実はある件で五月祭が終わった後に呼び出そうと思ってたんだけど、もう一つやっかいな事があってね。そちらの方はいつ動くのか分からないんだ。だからこうしてある程度実力を持っていると分かっている君達を先に呼び出させてもらった」
一度言葉を区切り、また話しだす一夜。
「今回はもう一つの用件だけ話そうと思っているんだ。爆弾魔は知ってるよね?そいつが今日本に潜伏している」
「なっ!?」
この言葉に赤髪の目つきの悪い男が驚きの声をあげる。
貴人達にも緊張がはしる。
「だから君達にお願いしたい用件の一つは、五月祭の間の監視だ。とは言っても観戦中とかに何か異常があれば教えてくれればいいだけだ。ウチの人間を闘技場の周りやそれ以外の至る所にまで配置しておくから」
「この事を知っているのは世界警察と我々だけなのか?」
茶髪の大きな男が低い声で返す。
「日本平和協会や君達数人の両親には伝えているんだけどその人達は他の場所を監視しているんだ。だから闘技場には世界警察と君達しか事情を知る者はいない。むやみやたらに周りに言い過ぎても混乱を呼ぶだけだからね」
「それなら俺が信頼する人にはこの事を話して協力してもらってもいいですか?」
貴人が尋ねる。
出来る事なら悠奈達にも協力を仰ぎたいと考えている。
「いいよ、だけど数人にしてくれ」
「分かりました」
「まあそんなに気負わなくて大丈夫だよ。世界警察の人間がたくさんいるから。念には念を、ってやつだ」
「もし爆弾魔、並びにその内通者らしき人物と遭遇した場合はどうすれば?」
夢が問う。
「逃げて僕達に知らせることだね。いくら水精霊の君でも危険が大きい。学生にそんな目にあわせるわけにはいかない」
「分かりました」
おとなしく夢は引き下がる。
「まあこの一件ではこれだけしてくれたら助かる。みんなの協力を頼りにしてるよ」
「来てくれてありがとう。今日はこれで解散です」
それだけ言い残して一夜と光が部屋から出て行く。
それに続き赤髪の男達も出て行く。
貴人達も外に出ようとした時、茶髪の男が呼び止めた。
「千凪だったな、俺は雲海高校の三年、土門清嗣だ。よろしくな」
「よろしくお願いします。こちらは九十九香です」
「そうか、お前達と当たる事を楽しみにしているぞ」
それでは、と言いながら清嗣は外へ出て行った。
すると次は夢が貴人達に話しかけて来た。
「貴人、連絡先教えてくれる? 貴方のも教えてくれるかしら、えーと」
「九十九香だよー、夢ちゃん」
「香ね」
夢に連絡先を教える二人。
未来と違って社交的なようだ。
「ありがとう。何かあれば連絡するわね。それじゃあ」
そう言いながら夢も外へ出て行った。
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「ってな感じだ。未来達には会長が伝えてくれてるはずだ」
簡単に津々良達に貴人が説明してやると
「私たち信頼されてたんですね!」
「らしいな」
と津々良がどこか嬉しそうな顔をする。
寧々も満更ではなさそうだ。
「だから何かあれば俺か近くにいる世界警察の人に頼んで欲しいんだ。もし爆弾魔みたいな奴を見かけてもすぐにその場を離れるんだぞ」
「分かりました!」
「それじゃあ二人にお礼として焼きそばを奢るぞ」
そう言いながら貴人は悠奈と焼きそばを買いに行った。
その時、津々良が慌てた様子で後ろを振り返った。
「どうした?」
「いえ、気のせいです」
寧々に大丈夫と答える津々良。
その光景を空から一羽の鴉が見つめていた。




