第一章ー24
「失礼します」
そう言いながら光が部屋へ入る。
その部屋には大きな椅子に腰掛ける人物が一人。
一夜だ。
「なにかあったのかい?」
椅子に座っていた一夜は光の方へ向く。
その顔はいつも通りどこか楽しそうだ。
「あの少年の事を調べようとしたんですが……」
光は言いづらそうな態度を示す。
「詳しい事が何も分からなくて……恐らく六王家が彼の情報を隠匿しているのかと……」
光の言葉を聞いて僅かに反応した様子の一夜。
「ふうん、どこまで分かってるの?」
「はい……名前は千凪貴人、夢ノ丘高校二年で属性は雷、両親は海外出張中で家には彼ともう一人で暮らしている。これ以上は……」
一夜は少し目を見開く。
光も最初驚いた。
情報社会の世の中でこれ程までに情報が希薄なのは異常なのだ。
「それだけか……まあ彼の名前を知るだけで良かったから十分なんだけどね」
「深く調べればすぐに分かると思いますが……」
「そんな必要ないよ。強ければそれでいい」
「あそこまでの能力があって今まで知られてなかったのが不思議です」
「多分マギを発動させなかったんじゃないのかな。普通の学生相手なら徒手空拳で十分倒せそうだし」
「そうですね……」
それはさておき、と一夜が話の論点を変更してくる。
「なんで素性を六王家が隠してると考えたんだい? まあ日本平和協会は無いにしても、もしかしたら僕達の中の誰かの仕業かもしれないし、べつの大企業が隠匿してる可能性だってあるよ?」
「それは先程千凪貴人ともう一人、共に生活してると言いましたが、そのもう一人が氷上家当主の娘です」
得心がいった顔をする一夜。
「ああ、だから六王家だと」
「はい、少なくとも隠匿に関与してるとは思われます」
「もっと詳しく調べてみたいけどそんな時間もないからね〜。それに六王家同士のあのギスギスした所に首を突っ込みたくない」
「同感です」
「はぁー僕も天災みたいに全権を掌握してたらすぐ分かるのに」
一夜の言葉を聞いて光がすぐさま反応する。
「いいんですか? そんなことしたら仕事が今の三倍ですよ? 今でも十分大変なのに……」
「はは、その時は光に頑張ってもらうさ」
「はぁ、ところで」
一夜の冗談を聞き流し、光は真面目な表情で話し始める。
「爆弾魔の件はどうするつもりなんですか?」
「どうって?」
一夜が問い返してくる。
「このまま放っておいたままでいいのですか? もう確実に日本に潜伏してると思うんですが……」
「だろうね」
「なら今すぐにでも取り押さえるべきでは?」
「少なくとも100人は犠牲が出るよ?」
「一夜さんが出向いてもですか?」
「うん、だって爆弾魔だよ? 今までの事件からして広範囲のマギを使えるのは分かってるし。覚えてるでしょあの三年前のイギリスの孤児院での事件」
「はい」
短く光が返す。
「爆弾魔がイギリスの孤児院を三つ一斉に爆破し、死者は74人、負傷者23人の大惨事でした」
「そう、三つ一斉にだ。だから迂闊に手を出せない。つまり後手に回らざるをえない、ということだよ」
「歯がゆいですね……」
「仕方ないさ。それに今はそればかりに気を取られているわけにはいかないからね」
「そうですね……ところで一つ提案なのですが、五月祭の前に何名かの選手を集めて爆弾魔の事も話しておくべきなのでは?」
光の問いに頷く一夜。
「うん、だから明日来てもらうように数人に言ってある。もちろん彼もだ」
「そこらへんの用意は周到ですよねいつも」
「はは、ありがとう」
光の皮肉が通じない一夜。
そんな一夜を見て光は軽く溜息をつく。
「それに爆弾魔の居場所が今も分からないということは恐らく爆弾魔のバックに何か大きな組織の存在があると思うんだ。だからもしかしたら僕達が想定しているより大規模な事をしてくるのかもしれない。そのためには出来るだけ人手が欲しいからね」
「そうですか……分かりました。では私はもう少し爆弾魔について調べておきます」
「助かるよ、何か分かったら教えてくれ」
そう言いながら二人は会話を終了する。
光が部屋を出て行こうとすると一夜は大きな欠伸をしながら気だるげそうに呟くのが聞こえた。
「大きな組織……あそこ《・・・》だろうなぁ」




