第一章ー21
貴人と香がしのぎを削っている最中、観客席に二人の男女が現れた。
「一夜さん!」
少し癖のある黒の髪の毛を肩にかかるまで伸ばし、すらっとしたプロポーションで眼鏡をかけている美女ーー九十九光は先々歩いていく目の前の男を呼び止める。
「ちょっと待ってくださいよ!」
光の言葉に一夜と呼ばれた男が振り返る。
白髪で少しだけ吊り上がった目、整った顔立ちは俳優と言われても納得できる。
その男は光に微笑みながら喋りかけた。
「そんな大声で本名を言わないでよ〜。ここでは違う呼び方をする予定だったよね?後輩くん?」
「そうでしたね……すみません先輩」
「そうそう」
満足気に男は微笑む。
周りからは夢ノ丘高校のOB、もしくは恋人同士のように見えているだろう。
それが嬉しいような悲しいような気持ちの光。
「そもそも先輩がここに来る途中でどっか行っちゃうからいけないんですよ?お陰で最後の試合にしか間に合わなかったじゃないですか」
「あはは〜ごめんごめん。ついね、でも個人戦の最後って事はこの学校のトップって事だろ?なら結果オーライじゃないか」
「そうかもしれませんけど……」
男は全く悪びれてなさそうに謝る。
「あの子が君の妹かい?見た目だけで言うと対極に近いね〜」
「そんな事はどうでもいいです」
ピシャリと会話を切る光。
そんな事は以前から色んな人に言われている。
「それにしても術式を二つ展開出来るんだね。しかも大技のマギだ」
「あの子は小さい頃から優秀でしたから」
「ははっ、君が言うと皮肉に聞こえるけどね」
「先輩にそう言われる方が皮肉です」
などと話しながら観客席に座り、二人は試合を観戦する。
試合は、香が発動させた水蛇の攻撃を貴人が躱しながら香へ直接攻撃できる機会を伺っている所である。
「水で出来ている蛇に打撃を入れても無意味ですからね」
「なんであの少年はマギを発動させないんだろう?少しは活路が見出せるかもしれないのに」
何故だろう、男は疑問に感じたのか光に聞いてきた。
「今までの戦いでディーヴァが尽きたんじゃないですか?」
光は無難な答えを選んだ。
「それなのにあれだけ動けるのはおかしいでしょ。ディーヴァが無くなる程戦ったなら体力も相当消耗してるはずだよ」
「そうですね……明らかに体力に余力はありそうですね」
水蛇の攻撃を躱し続けている貴人を見て光も考えを変える。
確かにあれだけ動けてディーヴァが尽きているとは考え難い。
「まあ、君の妹は合格だね……姉として複雑かい?」
「……いえ、香も恐らく望む事でしょう」
男の言葉に光は一瞬の逡巡を見せたがすぐにハッキリと答える。
恐らく、いや必ず香は協力してくれるだろう。
姉としてそれは保証出来る。
「そうか、良かった。本当は学生に頼んではいけない事なのは分かってるんだけどね……」
男が伏し目がちに言う。
「仕方ないですよ」
「仕方ない、ね……」
「そんな顔しないで下さいよ、らしくないですよ先輩?」
光の言葉を聞き男は優しい表情を見せる。
「フフッ、確かにそうだね、らしくない。ありがとう、光」
「い、いえ……! そ……それより試合が終わりそうですよ」
いきなり名前を呼ばれ照れる光は話題を換える。
そこにはフィールドの端に追い詰められた貴人の姿があった。
「よく躱してましたけど、これで終わりですね」
「そうだね」
二匹の水蛇が逃げ場の無い貴人に襲いかかる。
二人が香の勝利を確信する。
しかしーー
「な!?」
光が驚愕の声をあげる。
隣の男も目を見開く。
それもそのはず、二人の目には貴人ではなく、香が倒れる姿があったからだ。
観客席は何が起こったのかは分からないが貴人が勝利したのを見て歓声があがる。
そんな中、光はまだ驚いていた。
隣の男もそんな様子だ。
「今の見えたかい?」
「少年が一瞬、術式を展開させたのだけは……」
「そうか……君でもハッキリとは見えないか……」
「一夜……先輩は見えたんですか?」
「なんとかね、あの子は学生のレベルを大きく逸脱している……」
「先輩……」
「うん、あの子も合格だ」
「そうですね。聖や竜峰、さらには夢ノ丘……今年は生徒のレベルが高いですね……他の学校にも六王家が多くいますし」
「五月祭を企画した甲斐があったよ」
そう言いながら二人は闘技場を去っていった。




