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やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第一章 『サンチカ・ハッカー・スパイダー』
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第6話 バックアップされた惨劇

んー、もう読みやすさ重視で言ってます。

翌朝、俺を叩き起こしたのはアラームの音じゃなく、スマホの絶え間ない通知音だった。

 北野の坂を駆け下り、学校の昇降口に着く頃には、校内の空気は昨日よりさらに俺の体感で十度は冷え込んでいた。


「……遅いですよ、晴明先輩」


 下駄箱の前で俺を待っていた有世の顔は、血の気が引いて土気色になっていた。あいつの自慢のタブレットを持つ指が、小さく震えている。


「どうした、有世。永田町のあほ共から督促状でも届いたんか?」


「……そんな可愛いもんじゃないですよ。これ、見てください。昨夜、サンチカの『蜘蛛』が世界中にバラ撒いた、呪いの動画の第二弾です」


 差し出された画面を覗き込んだ瞬間、俺の喉の奥がヒリついた。

 画面に映っていたのは、現代の神戸じゃない。血の匂いが漂ってきそうな、燃え盛る幕末の京都。そこで、俺の曽祖父——二代目晴明が、全身から白銀の五芒星を吹き出しながら、一人の男と殺し合っていた。


「……これ、道満の先祖か?」


「そうです。芦屋家の当時の当主……。でも、おかしいんです。歴史じゃ、二人は協力して土蜘蛛を封印したはずなのに」


 映像の中で、曽祖父の五芒星セーマンが光り、芦屋の男の胸を容赦なく貫いた。

 そして男が絶命する直前、放たれたドス黒い九字ドーマンが、土蜘蛛の封印に「呪い」として混ざり合うのが見えた。


『安倍……お前たちの繁栄は、この呪いの上で踊る仮初めのものだ……』


 ノイズまじりの音声が、俺の脳を直接かき回す。

 その時、背後から氷のような殺気が突き刺さった。


「……見たんか、晴明」


 振り返ると、そこには道満が立っていた。いつも以上に蒼白な肌、そしてその瞳には、今まで見たこともないような「悪辣な」憎悪が宿っていた。あいつの手の中で、バスケットボールが九字の形にひび割れ、黒い煙を吐いている。


「うちの先祖は、あんたの家にハメられたんや。封印の生贄いけにえにされて……その怨念を、土蜘蛛と一緒に閉じ込められた」


「……待て、道満。これ動画やぞ。誰かが意図的に作ったフェイクかもしれん」


「有世の解析でも、これが『真実の記録』やって出とんねん! 永田町のジジイ共も、あんたの親父も、みんな知っとったんやろ!」


 道満の氣が暴走し、昇降口のガラスにヒビが入る。博雅が慌てて割って入ろうとするが、道満が放った黒い九字が、博雅の黄金色の氣を汚泥のように侵食していった。


「……信じられへん、か。安倍くん」


 不意に、階段の踊り場から冷徹な声が降ってきた。生徒会長、賀茂保憲だ。あいつは銀縁メガネの奥の瞳を険しく光らせ、手に持った端末を俺たちに向けた。


「僕の計算チャートでも、この事実が表に出る確率は数%に過ぎひんかった。だが、土蜘蛛が過去の霊的記録ログをサルベージした以上、これはもう隠しようのない真実や。……芦屋家は、安倍家を守るための『部品』として消費されたんだよ」


「会長……あんた、知ってたんか……?」


 博雅の震える声に、保憲は答えず、ただ静かにメガネを押し上げた。その沈黙が、道満の心に最後の一線を超えさせた。

 なぁ、あんたならどう思う?


 信じていた歴史が、ただの「死体隠し」の記録だったとしたら。

 

「……嘘やろ。そんなん、ありえへん」


 博雅の声が、湿った空気の中に頼りなく消えた。

 正義の味方を地で行くあいつにとって、自分の信じてきた世界の土台が腐っていた事実は、土蜘蛛の毒より堪えたに違いない。


「……保憲、あんた。計算チャートがどうとか言う前に、人として言うことはないんか」


 俺が睨みつけると、保憲は眉ひとつ動かさずにディスプレイを見つめたまま答えた。


「感情はノイズや、安倍くん。僕の役目は、この街のシステムを維持することにある。……道満、君の怒りは論理的や。だが、その怒りが土蜘蛛のサーバーに同期シンクロしとる。今すぐ氣を鎮めんと、君自身が『動画』の一部になるぞ」


「うるさいわ! 安倍も賀茂も、自分たちの都合で世界を書き換えて……。そんなに維持したいんなら、うちの呪いと一緒に地獄まで持っていけ!」


 道満の叫びと共に、昇降口の空気が爆ぜた。

 黒い九字ドーマンの格子が空間をズタズタに切り裂き、有世のタブレットが火花を吹いて弾け飛ぶ。


「道満、待て!」


 博雅の制止も聞かず、あいつは黒い炎を纏ったまま、猛烈な速さで校門へと駆け出した。その背中は、もう俺たちの知っている「女子バスケ部のエース」のものじゃない。一歩踏み出すごとにアスファルトが黒く腐り、そこからデジタルノイズの糸が這い出している。


 なぁ、あんたならどうする。

 一年前、笑ってセンター街を歩いていた幼馴染が、歴史の闇に呑まれて化け物になろうとしている。

 俺? 俺はいつだってこう言いたいさ。「勝手にやってろ」ってな。


 だが、俺の影の中で騰蛇とうだが、今までになく不快な熱を持ち始めていた。

 不発弾の信管が、勝手にカチリと音を立てやがったんだ。


 俺はポケットの五芒星セーマン入りのジッポを強く握りしめた。

 空はもう、夕焼けなんて生易しいもんじゃない。

 三宮のビル群を飲み込むほど、おぞましい赤に変色していた。

ほんまはもう少し濃く長くしたいのですがこれくらいが読みやすいと思い調整してます。

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