第3話 三宮アンダーグラウンド
「……ったく、次から次へと。三宮のネズミより数が多いんじゃねえか?」
俺は肩で息をしながら、五芒星の障壁を張り直した。
地下階段を下りた先は、サンチカの華やかなショッピングエリアとは真逆の、湿ったコンクリートの迷宮だった。
闇の中から這い出してくるのは、動画の呪いに当てられて理性を失った「傀儡」と、土蜘蛛が吐き出した眷属の小蜘蛛どもだ。
数分おきに襲いくる波に、博雅の「氣」を纏った拳が唸り、道満の九字切りが肉を砕く音が地下通路に反響する。
「晴明、ボサっとすな! 左や!」
道満の叫びと同時に、俺は横っ飛びに身を投げた。
さっきまで俺の頭があった場所を、毒を帯びた鋭い爪が空振る。
「……やりたかないねー、ほんまに。博雅、そいつの足止めろや!」
「言われんでも……! はぁっ!」
博雅が踏み込み、全身から黄金色の氣を爆発させる。その衝撃で小蜘蛛どもの動きが一瞬止まる。その隙を逃さず、道満が九字を切り刻んだ。
「――臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 腐り落ちろ!」
悪辣なドス黒い色の呪詛が通路を埋め尽くし、化け物どもをドロドロの液体に変えていく。努力で積み上げた執念の炎。それは正義とは程遠い、剥き出しの殺意だ。だが、奴らを一匹潰すごとに、俺たちの霊力も確実に削り取られていた。
その時、俺の耳元で場違いな電子音が響く。リオ先生の、あの低くてセクシーだが、絶対的な拒絶を許さない声だ。
『晴明君、聞こえてる? 永田町のクソジジイ共から「三宮の水没だけは避けてくれ」って陳情が来てるのよ。あと、これ一番重要。……あんたたちの派手な喧嘩で、地上に停めてある私のシーマに塵ひとつでも被らせたら、末代まで呪ってあげるから。維持費、バカにならないんだからね』
「……シーマの心配かよ。こっちはさっきから命の削り合いしとんねん!」
『期待してるわよ、三代目。せいぜい、私のボーナスを守ってちょうだい』
無情に切れる通信。
直後、通路の奥から、今までの雑魚とは「格」の違う重圧が押し寄せてきた。
巨体。
八本の節足がコンクリートを削る不快な音。
赤い複眼が俺たちを嘲笑うように見下ろしている。
「……やっと真打ち登場かよ」
俺はジッポを弾き、白銀の光を描いた。
道満が「死ね!」と叫びながら特大の呪力弾を叩きつけ、俺が五芒星でその威力を一点に凝縮させる。
博雅の氣が蜘蛛の装甲を粉砕し、ついに道満の執念の九字がその首を跳ね飛ばした。
凄まじい絶叫と共に、蜘蛛が爆ぜる。
俺たちは膝をつき、激しい消耗に視界を揺らした。
「……やった、か?」
博雅が荒い息を吐きながら呟く。
だが、俺の影の中に潜む太陰が、クスクスと冷たい笑い声を上げた。
「……おい、道満。喜ぶのはまだ早いぜ」
俺が指差した先。跳ね飛ばしたはずの蜘蛛の死体が、霧のように形を崩していく。
残ったのは、粘りつく黒い液体と、数えきれないほどの「スマホの基板」の残骸。
「……嘘やろ。あれだけやり合って、これ、ただの分体かよ」
道満が絶望に近い声を漏らす。
なぁ、あんたならどう思う?
命を削って、仲間の氣まで使い果たして、ようやく倒した大物が、ただの「着信拒否されたメールの残骸」だったとしたら。
「本物の『蜘蛛』は、もっと深い場所で、俺たちが踊るのを眺めてやがる……」
地下街のさらに奥。
本当の闇から、今までにない巨大な「殺気」が、通信ログの明滅と共にこちらを覗き込んでいた。
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