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やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第五章 『神話受肉、メリケン・イレース』
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第26話 実体化する神話(リアル・エラー)

なんとかここまで持ってきました。

「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに」


 俺は逃げ出した土蜘蛛の黒い残滓を睨みながら、懐からクシャクシャになったタバコを取り出し、震える手で火を付けた。一年前の真実をさらけ出した途端、身体の芯から力が抜けていく。戦場だというのに、俺の怠惰は加速し、今すぐにでもその場に寝転びたいほどの虚脱感が襲ってきた。


「晴明! ぼさっとすんな、太陰の風に乗り遅れるぞ!」


 博雅が俺の襟首を無理やり掴み、【太陰たいいん】が巻き起こした猛烈な追い風の中に放り込んだ。俺、博雅、道満、有世、そして保憲。五人は風の刃を足場にして、街の光ファイバーを伝い、海へと逃走する土蜘蛛を追撃する。


「……やりたかないけど。このままだと一般人が起きてくる時間やわ。――広域展開、認識阻害」


 俺はタバコの煙を吐き出しながら、神戸全域の「意識」をハッキングした。今この街で起きている神話の激突を、誰もが「ただの朝霧」としか認識できないように塗り替える。逃げる土蜘蛛は、街の低級霊を吸い上げ、強制的に肉体を再構築しようとうごめいていた。


「――貴人きじん


 俺の呼びかけに応じ、背後に圧倒的な威光を纏った最高位が顕現した。それを見た保憲が、銀縁メガネを指先で押し上げ、不敵に笑う。


「おやおや。貴人さん、お久しぶりですね。相変わらず、不条理なまでの威圧感やね。嫌いやないですよ、その『格』の違いは」


 保憲が俺の隣に並び、貴人の神気と自らの知略を同調させた。最高位の神霊と、賀茂の次期当主。二人の視線が戦場を射抜く。


「「――『座れ』」」


 二人の言葉が重なり、絶対的な権威の波動が神戸中を駆け抜けた。土蜘蛛の養分になろうとしていた数万の低級霊たちは、そのひと言で魂の根源まで屈服させられ、消滅すら許されぬまま、路地裏やビルの隙間で石のように平伏した。


「……ちっ。俺より相性良いやんけ。逃げ道は塞いだぞ。――天空。座標固定。現実をコピーした『偽物の神戸』を上書きしろ」


 俺はもう一度天空を起動し、現実の座標を完全にトレースした異界で土蜘蛛を包囲した。逃げ場を失った土蜘蛛は、メリケンパークの埠頭から海へと逃げ込もうとする。一千年の怨念が海水を飲み込もうとした瞬間。


「――玄武。……フリーズ。その汚ねえ海ごと、永久に止まってろ」


 俺が指を鳴らすと、メリケンパーク一帯の海が一瞬で絶対零度の氷原へと変わった。行き場を失い、氷の上でのたうつ土蜘蛛。


「――六合りくごう。足の一本も漏らすなよ。完全に閉じ込めー!」


 土蜘蛛を包むように幾何学的な光の結界が展開され、逃げ場のない檻が完成する。俺は最後の一吸いを終え、シケモクを氷の地面に踏み消した。


「……博雅、道満。……一年前の『未解決ログ』、今ここで完全にデリートや」


「おぅ! 神話のバケモノごと、俺の氣で射抜いたる!」


 博雅が吠え、黄金色の氣を一点に凝縮させて光の弓矢を番える。異界の空を貫くような正義の輝きが、今度は俺を救うための光となって溢れ出した。


「……当たり前や。おどろおどろしい地獄の底まで、三人で塗り替えたるわ!」


 道満が凄まじい速度で九字を切り、その指先から溢れ出すのは、怨念すら食らい尽くす漆黒の呪術。かつて一人で抱えた呪い(バグ)を、彼女は今、俺たちのために使いこなしている。


 博雅の放つ天を突く光の矢、道満が紡ぎ出す呪いの闇、そして俺の右手に宿る最強で最凶のとうだが、一年前のあの日、血の混じった雨の中で止まっていた時間を、無理やり明日へと押し進めるように一点に収束していく。


「――消えろ。俺たちの未来ログに、お前はもういらんねん」


 三つの力が結界の内側で爆発した。

 一千年の神話が、その存在の根源から一文字残さず焼き尽くされ、白銀の閃光がすべてを飲み込み、一瞬、世界から音が消えた。

一千年の怨念も、泥濘のような過去の記憶も、すべてがその輝きの向こう側へとデリートされていく。

いやー、ホンマに途中でどうやって土蜘蛛を倒すか、晴明の一年前の苦悩をどこで出すか?めっちゃ悩みました。

土蜘蛛編で出さないという考えもあったのですが早めに出したい欲に駆られ我慢できずに描いちゃいました。

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