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やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第五章 『神話受肉、メリケン・イレース』
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第24話 最強で最凶の焔

(……消えろ。全部、この焔と一緒に消えてなくなれ)


 泥水に映る「一年前の自害」の残像。博雅と道満の動揺。それらすべてを視界から排除するように、俺は右手の封印を自らの意志で強引に引き剥がした。

 そこにあるのは、もはや「術」なんて呼べる綺麗なもんじゃない。


「――騰蛇(とうだ)。デリートや。一文字残さず、ゴミ箱の中身まで焼け」


 俺の影から、かつてないほど巨大な紅蓮の蛇が這い出した。

 それは温かみなんて微塵もない、ただ対象の「存在確率」をゼロに書き換えるためだけの純粋な暴力。【最強で最凶の焔】が、情報を汚染し続ける土蜘蛛を、そして俺の過去を暴き立てる異界の空を、地獄の業火で包み込んでいく。


 これでいい。

 この焔がすべてを焼き尽くせば、俺が自ら命を絶ったことも、この身体がバグだらけの借り物だということも、すべては闇の中に葬られる。

 博雅も、道満も、何も知らなくていい。

 ただ、日常に戻ればいいんだ。


「あ、ぁぁ……ア、ァァァァァッ!!」


 土蜘蛛が、断末魔の叫びと共に蒸発していく。

 焔はすべてを飲み込み、異界の座標そのものを消去(デリート)し始めた。


 だが、その時。


「――晴明! やめえッ!!」


 焔の壁を突き破って、黄金色の氣が俺の視界に割り込んできた。

 博雅だ。

 あいつは、焔に焼かれるのも厭わず、土蜘蛛の核ではなく、俺の右腕をその熱い掌で力任せに掴んだ。


「……何してんねん、博雅。危ないやろーが、離してくれ。……全部、俺が消したるから」


「ふざけんな! お前、一人で何を消そうとしとるんや! あの映像(ログ)が……あの雨の日にお前が何をしたんか、俺は、俺たちはまだ何も聞いとらんぞ!!」


 焔の向こう側から、道満もまた、恐怖と怒りが入り混じった顔で俺を睨みつけていた。

 

 なぁ、あんたならどう思う?

 すべてをデリートして、何事もなかったかのように日常へ逃げようとした俺の右手を、この馬鹿野郎たちは、焼け付くような熱さで掴んで離さないんだ。

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