第24話 最強で最凶の焔
(……消えろ。全部、この焔と一緒に消えてなくなれ)
泥水に映る「一年前の自害」の残像。博雅と道満の動揺。それらすべてを視界から排除するように、俺は右手の封印を自らの意志で強引に引き剥がした。
そこにあるのは、もはや「術」なんて呼べる綺麗なもんじゃない。
「――騰蛇。デリートや。一文字残さず、ゴミ箱の中身まで焼け」
俺の影から、かつてないほど巨大な紅蓮の蛇が這い出した。
それは温かみなんて微塵もない、ただ対象の「存在確率」をゼロに書き換えるためだけの純粋な暴力。【最強で最凶の焔】が、情報を汚染し続ける土蜘蛛を、そして俺の過去を暴き立てる異界の空を、地獄の業火で包み込んでいく。
これでいい。
この焔がすべてを焼き尽くせば、俺が自ら命を絶ったことも、この身体がバグだらけの借り物だということも、すべては闇の中に葬られる。
博雅も、道満も、何も知らなくていい。
ただ、日常に戻ればいいんだ。
「あ、ぁぁ……ア、ァァァァァッ!!」
土蜘蛛が、断末魔の叫びと共に蒸発していく。
焔はすべてを飲み込み、異界の座標そのものを消去し始めた。
だが、その時。
「――晴明! やめえッ!!」
焔の壁を突き破って、黄金色の氣が俺の視界に割り込んできた。
博雅だ。
あいつは、焔に焼かれるのも厭わず、土蜘蛛の核ではなく、俺の右腕をその熱い掌で力任せに掴んだ。
「……何してんねん、博雅。危ないやろーが、離してくれ。……全部、俺が消したるから」
「ふざけんな! お前、一人で何を消そうとしとるんや! あの映像が……あの雨の日にお前が何をしたんか、俺は、俺たちはまだ何も聞いとらんぞ!!」
焔の向こう側から、道満もまた、恐怖と怒りが入り混じった顔で俺を睨みつけていた。
なぁ、あんたならどう思う?
すべてをデリートして、何事もなかったかのように日常へ逃げようとした俺の右手を、この馬鹿野郎たちは、焼け付くような熱さで掴んで離さないんだ。




