表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第五章 『神話受肉、メリケン・イレース』
21/30

第21 話 全データ消去、深淵の胎動

第四章はここで終わりです。

白銀の閃光が視界を真っ白に塗り潰した。

 一千年の嫉妬をパケットに変換して流し込んでいた藤原の暗黒OSが、三神の合体術式によってその末端から中央処理装置コアに至るまで、完全に消去デリートされていく。

 耳を貸すのも嫌な電子ノイズが、ぷつりと、音を立てて途切れた。


 目を開けると、そこにはただの、カビ臭い地下室の風景が戻っていた。

 遺構を侵食していた光ファイバーは黒く焦げ付いて千切れ、誇らしげに明滅していたサーバーラックの群れも、今はただの巨大な鉄のゴミ箱に成り下がっている。


「……終わった、んかな。藤原の信号、完全にロストしました」


 有世が膝をついたまま、真っ暗になったタブレットの画面を覗き込む。

 博雅は黄金色の氣を解き、大きく伸びをした。


「おぅ。完全にデリート成功やな。……道満、お前、大丈夫か?」


 道満は、傷ついた指先をジャージの袖で拭い、いつもの不敵な笑みを浮かべようとした。だが、その肩は微かに震えている。一年の空白を埋めるために、文字通り魂の全リソースを注ぎ込んだ『全断絶』。その代償は、彼女の華奢な肩にはあまりに重いはずだった。


「……ふん。やっと、一年前から止まっとった時が……動き出した気がするわ……晴明」


 道満が、真っ直ぐに俺を見つめる。

 俺は熱を持った右手をポケットに突っ込み、一年前には言えなかった言葉を、不器用に、かつ適当に投げつけた。


「……お疲れ。帰って寝るぞ。……今度は、勝手に消えたりしねーよ。隣で九字切りたきゃ、好きにしろ」


「…………っ、あんた、ホンマに可愛げのない物言いやね」


 道満が少しだけ口角を上げ、視線を逸らした、その時だった。

 

 ――ドォォォォォォォォォン……。


 地底のさらに奥底から、校舎全体を、いや北野の丘そのものを突き動かすような、巨大な地響きが轟いた。


「有世、今の揺れは何や! 藤原のシステム、完全に消えたんやろ!?」


「消えました! 消えましたけど……マズいです! 奴が『管理者権限』で土蜘蛛をOSの一部にしてたのは、支配するためだけじゃなかった。藤原のシステムそのものが、この地下に眠るオリジナル(本体)を抑え込む『蓋』になってたんです!!」


 有世の悲鳴と同時に、地下陰陽寮の堅牢な石壁が、内側から爆発するように粉砕された。

 そこから現れたのは、電子信号でもプログラムでもない。

 一千年の間、京都から神戸へと引きずり込まれ、学校という重石の下で煮詰めに煮詰められてきた「土蜘蛛」の真の肉体――その巨大な脚が、闇を裂いて這い出してきた。


「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。藤原って野郎、自分のOSで、このバケモノを飼い慣らしてるつもりやったんか?官僚の分際で、自然災害バケモノにリードがつくと思ってんのかよ」


 俺は学ランを肩にかけ、目の前に現れた山のような影を見上げた。

 藤原という「人間」の知恵をデリートした瞬間に現れた、理屈も法も通用しない「本物の絶望」。


「博雅、道満。……帰って母ちゃんの飯食うのはお預けや」


「しゃーないな……望むところや! プログラム相手より、こういうデカいツラしてる奴を殴る方が、俺の拳は喜ぶ!」


「……ウチもや。修行の成果、まだ半分も見せとらんからな。地獄の底まで、あんたの隣に張り付いてやるわ!」


 なぁ、あんたならどう思う?

 やっとバグを消去したと思ったら、システムの下に埋まってた一千年前のウィルス(神話)が牙を剥いてきたんだ。

 

「……やりたかないけど、最高の『終焉』を見せてやんよ」


 朝日が差し込む地上とは裏腹に、地下の深淵では、かつてないほどの暗黒がその巨大な顎を開いていた。

第五章で土蜘蛛編を終わらせるため執筆します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ