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やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第四章 『学園(キャンパス)アンダー・デリート』
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第20話 論理矛盾 限界突破

「――無駄だ。この領域サーバー内では、私の承認アクセスがない限り、君たちの術式はすべて『不正なプロセス』として遮断される」


 藤原の声が、地下空間の全スピーカーから幾重にも重なるノイズとなって降り注ぐ。

 振り下ろされた蜘蛛の足が、俺たちの立っていた平安の石畳を、デジタルな砂のごとく粉砕した。衝撃波が物理的な破壊ではなく「情報の暴力」として脳を揺さぶり、有世の展開していた防壁プロトコルを紙屑のように引き裂いていく。


「くっ、先輩……ッ! 敵の演算速度が速すぎです! 完全に多層防御レイヤーで固められて……手が出せへん!」


 有世が膝をつき、デコられたタブレットの端から過負荷の火花が散る。それでも彼女はポニーテールを振り乱し、血の滲む唇を噛んで画面を叩き続けた。


「……でも、タダでやられるほど、ウチのデジタル部門・・はヤワやないですよ! 晴明先輩、道満先輩! 三秒……いえ、二秒だけ時間リソースを稼いでください! 奴の論理ロジックの隙間に、土御門秘伝のウイルスをぶち込んで、管理者権限(管理者モード)を強奪ハックしたります!」


「おっ! ええ気合やん。二秒やな。……道満、いけるか?」


 博雅が黄金色の氣を拳に凝縮させ、迫りくる蜘蛛の足を真正面から受け止める。


「……誰に言うとんねん。二秒もあれば、世界を書き換えるには十分やわ」


 道満が、右手の指先を噛み切った。

 舞い散る鮮血。だが、その血は地面に落ちる前に、漆黒の呪力と混ざり合い、幾何学的な「負の文字列」へと変貌する。


「あんたのOSが『論理』で動いとるんなら、その前提ルーツごとバグらせてやるわ。……『電脳九字・全断絶グランド・デリート』!」


 道満の指先が、空中に超高速で九字を刻む。一年前の屈辱を糧に積み上げてきた地を這うような努力が、最新のデジタル呪詛と衝突し、空間に激しいバグの嵐を巻き起こした。

 藤原の支配領域に、システムが関知できない「感情という名の例外処理」が突き刺さる。


「なっ……私のOSが……逆ハックされているというのか!?」


「今です、先輩! 『管理者権限』、強制強奪ルート・アクセス成功クリアッ!!」


 有世の叫びと共に、藤原を包んでいた鉄壁の防壁ファイアウォールが、一瞬だけ青白く剥離した。


「……おぅ。待たせたな。……お前ら、最高の仕事やわ」


 俺は学ランを脱ぎ捨て、右手の封印を完全に消去デリートした。

 やる気? そんなもん最初からない。だが、隣で血を吐くような努力を重ねてきた相棒と、命がけでキーを叩いた後輩にここまでお膳立てされて、「やりたかない」なんて言えるほど、俺は無粋な男じゃない。


「――天空てんくう六合りくごう白虎びゃっこ。三位一体、この領域の全接続コネクション白紙クリアに戻せ」


 影から三柱の神霊が立ち上がる。

 天空が情報の因果を断ち切り、六合が逃げ場のない「結界の壁」で敵のプログラムを固定する。そこへ白虎の爪が、藤原の「論理ロジック」そのものを物理的に引き裂いていく。

 

「……馬鹿な。管理者権限を奪った程度で、私の千年が……プログラムが……消えて、いく……!?」


 なぁ、あんたならどう思う?

 論理だの効率だので固めた官僚の地獄を、一人の女の「努力」と、一人の少女の「執念」、そして一人の男の「やる気のない本気」がぶち壊していくこの快感。


「……やりたかないけど、その腐ったOS、最後の一行ラストコードまで焼き尽くしてやるよ。藤原さん、これが俺たちの『デリート』や」


 俺の指先が、三神の力を一点に集約し、藤原の胸元を貫いた瞬間、地下空間は白銀の閃光がすべてを呑み込み、耳を貸すのも嫌な電子ノイズが、ぷつりと途切れた。

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