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やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第四章 『学園(キャンパス)アンダー・デリート』
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第19話 全権掌握 蜘蛛の胎動

「――お前たちには、実務しごとの邪魔をさせたペナルティが必要だ。それも、再起不能なほどの徹底的な『更生』がね」


 地下の最深部、一千年の怨念を宿したサーバーラックの群れが、藤原の無機質な言葉に呼応するように一斉に赤黒く明滅した。

 平安時代の石造りの遺構を侵食し、のたうち回る光ファイバーの束。それが生き物のようにうねり、絡み合い、巨大な蜘蛛の脚へと変貌していく。

 いにしえの呪詛がデジタル信号パケットに変換され、この地下空間全体を一個の巨大な『電脳土蜘蛛』の胃袋へと書き換えていく。


「先輩、マズいです! 藤原の意識がシステムと完全に同期シンクロしました! 奴、自分の脳をサーバーにアップロードして、管理者権限(管理者モード)で現実をハッキングしてます!」


 有世が悲鳴を上げ、タブレットの画面には真っ赤な「CRITICAL ERROR」の文字が溢れ出す。

 特級呪物から抽出された一千年の嫉妬。それが最新の統治用OSを媒介にして、空間そのものを「未処理のゴミ」として分解しにかかっていた。


「っ、なんや……頭が……割れそうや……!」


 道満がこめかみを押さえて膝をつく。

 空中に浮かぶ無数のノイズ。それが文字列となって、俺たちの脳内に直接ハッキングを仕掛けてきた。

 映し出されるのは、一年前のあの日。

 俺が何も言わずに、雨の中に消えた時の記憶。

 置き去りにされた博雅の呆然とした顔。道満の、やり場のない怒りに震える背中。


「……はぁ。ホンマに、他人の脳みそに土足で踏み込んでくるなんて。プライバシーポリシーもへったくれもないな。コンプラ意識どこに忘れてきたんや、藤原さん」


 俺は脳を直接焼くような激痛を無視して、慣れ親しんだジッポを弾き、無理やりタバコの紫煙を肺に流し込んだ。

 奴は俺たちの「後悔」という名のバグを突き、精神の根幹からシステムダウンを狙っている。官僚らしい、実に嫌らしくて論理的な攻め方だ。


「道満、博雅! 耳を貸すな! あいつが見せてるのはただのログや。ただの、終わったデータの残滓やろうが! 今ここにいるのは、誰や!」


 俺の怒声が、電子ノイズの地獄を切り裂いた。

 博雅が黄金色の氣を爆発させ、歪む空間を力尽くで押し返して顔を上げた。

「……おぅ、分かってる。一年前の俺は、お前に何も言えんかった。でも、今の俺の拳は、目の前の現実(クソ野郎)を殴り倒すためにあるんや!」


「……ウチも、や。晴明……あんたの背中を見て泣くのは、一年前で卒業した。今のウチは、あんたを追い越すために、あんたの隣に立っとるんや!」


 道満が再び立ち上がり、その瞳から「もりかす」の甘さは完全に消え失せていた。

 指先に纏わせた黒い雷光が、周囲の光ファイバーを焼き切る。

 二人の強い意志リソースが、藤原の精神ハッキングを正面から弾き返した。


「……面白い。ならば、論理ロジックではなく、物量で踏み潰してやろう。国民は、ただの数字として処理されるのがお似合いだ」


 最深部の闇が裂け、データと怨念で編み上げられた巨大な蜘蛛の足が、俺たちの頭上から「強制執行」の重圧と共に振り下ろされた。


 なぁ、あんたならどう思う?

 過去のトラウマを餌にするような卑怯なOSに、俺たちの未来が管理されてたまるかってんだ。

 

「……やりたかないけど、そのシステム、再起動リブートすらできんほど粉々に壊してやるよ。一文字残さずデリートして、ゴミ箱の中身まで空にしてやるわ」


 俺は右手の封印を解き、影から解き放たれた白虎の銀の毛並みを追い風に、脈動する蜘蛛の心臓部へと真っ直ぐ突っ込んだ。

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