第18話 電脳強制執行
「――申請。却下。三代目は『不確定要素』として、この国のシステムから一括破棄する」
地下の熱気に混じって、藤原の無機質な声が四方から響く。
同時に、官僚ゴーストたちが一斉に手にした巨大な印鑑を空に向けて叩きつけた。空中には赤いインクで「差押」という二文字が無数に刻印され、それが実体化した鋼の鎖となって俺たちの手足に絡みつく。それは単なる物理的な拘束じゃない。一千年の間、この国を縛り続けてきた「公権力」という名の絶対的な呪詛だ。
「っ、なんやこれ。身体が……鉛みたいに重い……!」
博雅が黄金色の氣を爆発させて抗うが、鎖は彼の「存在」そのものを否定するように締め上げていく。
「先輩、奴ら法的手続きを呪詛のコードに変換してます! この空間にいる限り、私たちは『存在してはいけないエラー』として処理され続けてるんです!」
有世がポニーテールを振り乱し、デコられたタブレットを猛烈な速さで叩く。彼女が展開する青いノイズの防壁が、官僚ゴーストたちの放つ「却下書類」の雨を辛うじて防いでいたが、それも時間の問題だった。
「……はぁ、ホンマにコンプラ違反も大概にして欲しいわ。残業代も出んような場所で、お役所仕事に精が出る。公務員ならもっと定時退社を心がけて欲しいもんやで」
「白虎、その『手続き』ごと噛み砕け。……道満、お前の一年間の成果、見せてやれよ」
「……言われんでも。あんたに見せつけるために、ウチがどれだけ自分を追い込んできたか。……『電脳九字・デリート』、受けてみぃ!」
道満が、重圧を跳ね除けて高く跳ねた。今の彼女の指先が描く九字は、もはやただの呪術を超えていた。藤原が構築した暗黒OSの脆弱性を突き、システムそのものを物理的に切り刻む、超高速の消去命令。
「おっ! いいキレやん。……道満、お前それ……」
博雅が目を見開き、一瞬だけ驚きに動きを止めた。一年前とは比較にならないほど鋭くなった道満の氣に、武人としての本能が反応したんだ。だが、彼はすぐに不敵な面構えに戻り、鎖を力任せに引きちぎった。
「晴明、道満! お前ら二人が道を作るなら、俺は俺の拳を通すだけや!」
博雅は地を蹴り、黄金色の氣を拳に集中させて突進した。驚きを即座に信頼へと変え、官僚ゴーストをその根源から粉砕していく。そこにあるのは、友を信じ、己の役割を全うする、誇り高き源家の男の背中だ。
なぁ、あんたならどう思う?
一年前、何も言わずに置き去りにしたはずの背中が、今は俺の前を走り、力強く道を切り拓いているんだ。
生意気な後輩に録画されながら、俺は「ウチ」という最高のライバルの熱にあてられていた。
「……やりたかないけど、俺も少しは『仕事』せんとな」
俺は冷めた目で、地下の最深部を睨み据えた。
そこには、一千年の嫉妬を吸い上げ、脈動を始めた巨大な「心臓部」が、俺たちを嘲笑うように不気味な光を放っていた。




