第八話 後先考えずに行動しようだなんて、頭が足りていないのかしら
街は荒れていた。戦闘慣れしていない吸血鬼たちは、日々吸血鬼の娯楽として決闘を行なっていた人間の闘士たちに蹂躙されている。混乱に乗じ、盗みを働くものも見受けられる。奴隷商人たちは日頃の行いからか、吸血鬼関係ないのにめった打ちにあっている。解放された奴隷は逃げ出す者もいれば、鬱憤を晴らすために革命軍に参加する者もいる。順調に進んでいるように思われた。
しかし、一つ予想外な問題があった。そう、吸血鬼が思ったより強いこと。より正確にいうならば、人間が吸血鬼に対して弱いこと。初めの方に人間側が優勢だったのは、吸血鬼側が驚きで思考停止していたからだ。しかし、状況を飲み込み、それぞれが冷静に戦えるようになってきた今では、明らかな力の差がある。人間が一人倒れれば、その血を使って吸血鬼が強化される。そして強化された吸血鬼は人間を殺す。そしてその血を使って………という悪循環。これはまずい事態になってきた。
「………いや、ふむ………。」
そうか、今更ながら気づいた。この街の人間は義体施術を行なっていない。そして、身体改造施術を受けてもいない。いかに異世界といえども、それを受けている前提で物事を進めていた。人間があちらと同じように強力だという前提で物事を進めていた。完全に私の計画不足。そうか、ここは異世界なのだ。
「ヴェアティ、ゲバルト。逃走の準備をしておけ………一応、最低限応戦できるような心構えをしておくように。」
シェリルが僅かながら、初めて焦りを見せたことに対し、二人は驚愕と不安の感情を抱いた。今まで完璧に物事を進めてきた人間が、一番大事なところで不確定な発言をしたのだ、無理もあるまい。
「………大丈夫なんだろうな。俺はまだ死ねないぞ。」
ゲバルトは携えた剣の柄に手を伸ばす。その手は若干震えていた。気圧されている。
「な、なんとしてでも、私は道を切り拓きます……!」
気丈に振る舞ってはいるが、こちらも不安を隠しきれていない。目が泳いでいる。
「………安心しろ、私はいざという時のために何通りか解決策を持っている。今回はパターン三を使用する。」
私の一番の失敗は、他人の力を高く見過ぎたことだ………まさかここまで非力な奴らばかりとは。今まで見た人間が強かったのか?いや、今まで見た人間は戦いを行わなかった。それを見ずしていかに実力がはかれよう。はあ………作戦失敗だ。パターン三を使うことになるとは、一番気に入らない策だったんだが………仕方ない。
「人間どもは置いておいて、私たちは本館に乗り込む。きっとここには貴族軍が派遣されるだろう、その警備が手薄になった時に正面切って突入する。」
そしてこの作戦を実行するには、ベハオプテンの手助けが必須だ。まだ完全に支配下に置けていない、あの第二貴族の娘の力を借りなければいけない。だが、まだ裏切られることはないだろう。裏切るにしても、あの女はもっと目立つところで成果を上げるだろうから………。
人間たちの視線は彷徨い、吸血鬼たちに反乱を起こしたことに対し迷いが芽生え始めている。仲間が死んでいき、自信を喪失したのだろう。そして迷いが芽生えたことで更に劣勢になっていく。こちらでも悪循環が生まれている。
「………はぁ、全く、本当いい眺めだ。」
そんなわけがない。だが、こうでも言っていないとやってられない。久しぶりにイラついた気がする。こっちの世界に来て、今までは周囲の奴らが無能なおかげで楽をできていたが、今は周囲の奴らが無能なせいで作戦が失敗になっている。
処刑場の上で街を眺めてはいるが、いつこっちに吸血鬼がやってくるか知れたものじゃない。現に今もこうやって………。
「邪魔だ。」
寄ってくる吸血鬼をひらきにしているというのに。ゲバルトとヴェアティも応戦してくれている。どうやら、ベハオプテンの操血偶ほどの実力はないようだ。昨日より手際よく処理している。シェリルも対改造人間戦闘術を応用して、素手で頭を打ち砕いている。脳筋だが、確実な方法ではある。
しかし、面倒なのが、数が多いということだ。そして、バカだということだ。あいつらは血が大好きな吸血鬼だから、たとえ返り血であっても気分が高揚して飛びかかってくる。普通は、仲間がこれだけ殺されている相手に無謀に突っ込んでくるなんてしないだろうに。この世界には腐った知能の奴らしかいないのか?どうやら私はバカどもの世界に転生してしまったらしい。私としては、扱いが楽で助かるが。
しばらくすると、襲いくる吸血鬼の量も大人しくなってきた。もう立っている吸血鬼はいない。人間もいない。結局、反乱軍どもの殺り残した吸血鬼どもは、私たちが狩ることになった。
「………役に立ってくれたな、これからもそうしてくれ………。」
少々疲れた、そう言う気力も湧かない。二人もそうなのだろう、こくりとだけ頷いて地面に座り込んだ。見上げる空には太陽が浮かんでいる。たまには日光浴もいいかな、なんて考えていると、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「良くやったわね、三人とも。いつでも助けるつもりだったのだけれど………まさか私の助けなしで全員殺すとは思いもしなかったわ。あと、あなたたち、私の配下の吸血鬼まで殺してない?エーデラーゲン家の者もここに居たはずだけれど………誰一人として立っていないと言うことは………。」
「もちろん、殺した。いや、殺すつもりはなかったんだが、見分けがつかなかった。それに、私だって無駄に使える駒を手放すようなことはしない………不可抗力だ。」
不満いっぱいの表情でシェリルを睨む。一切謝罪の言葉が混じっていなかったのが気に障ったのだろう。当然である。
「………はあ、まあいいわ。それに、ここにきたのは別の理由なの。」
ベハオプテンは遠くを指差して───この街の本館の方向を指差して───言った。
「あなた、ブルベギーアドに招かれたわよ。」
どうやら、この街の主は想像以上に変わり者らしい。




