第十六話 閉場──この作品が永遠のものとなりますよう
勝った。そう思った瞬間、その考えは間違いだと気がついた。たしかに俺の刃は届いた。振り下ろした銀の長剣の切先は、ブルベギーアドの頭を二つに分けていた。だが、その別れた断面から血が意思を持って吹き出し、刃を俺の腕ごと包み込んだ。真っ二つに別れた顔それぞれが、不気味に笑みを浮かべる。
「引っかかってくれて嬉しいよ。ちょこまか駆け回る蜚蠊を引っ捕えるには、やはり餌が必要みたいだね。」
ブルベギーアドが、体を大きく広げる。左右に突き出された両手から血が放出され、形を成していく。ハエトリ草のように変形した血の捕縛網が、俺を包み込む。
「それでは、スクルトゥーラになって頂こうか。」
全身にべっとりと張り付く、冷たい血の感触。埃のような匂いが鼻につく。皮膚が焼けるように痛い。染み込んでくる不快感に、体を震わせた。
なぜ。なぜ俺がこんな目に。俺は復讐をしたいだけだ。あの村を焼き払ってやりたいだけだ。なら、どうして。そうか、ああそうだ。全部全部こいつらのせいだ。胸に鉛の如き怒りがのしかかる。
「……うざったいんだよ、お前は。俺の道を邪魔しやがって……。」
頭に血が上る。心の臓を中心に、溶岩のような熱さが血潮となって体を動かす。全身を覆う血の捕獲網が、ぷつり、ぷつりと裂けていく。
「おや、これでは足りなかったか。もう少し足そう──」
そう、ブルベギーアドが地面の血に手を伸ばしたとき、何かが奴の腕を切り落とした。ぽろり、と地面に転がる、しわの入った手。ようやく、焦りのような表情を見せる。
「おっと。私の大切な剣士を失うわけにはいかないからな、仕方ないと思ってくれ。」
壁に突き刺さる長剣、その投げられた方向を向く。ホールの反対側には、壁からようやく解放されたベハオプテンと、それを抱き抱えるシェリルがいた。どうも、壁から引き抜いたやつをこっちにぶん投げたらしい。
「は、ははは!面白いじゃないか。これで四対一というわけかね?だが私には、血が残っているのだ──」
ブルベギーアドが地面にかがみ込む。そして、残された左腕を地面につき、何かを唱えた。だが、何も起こらない。
「……申し訳ないわね……ブルベギーアド……。血はぜ〜んぶ、私が貰うわ。」
このホールに流れ出た血液が、ベハオプテンへと向かう。シェリルによってゆっくりと地面に降ろされ、失血状態でふらふらの彼女だったが、血を操る能力は衰えていない。
そして、補給される血液を失った捕縛網が、切れた。全身を覆っていた血がなくなると共に、俺は自由になる。振り下ろされたままのシルバーソード。まだ力の余っているこの体。
「お前が芸術作品になったな。喜ばしいことだろう?」
シェリルの言葉に、ブルベギーアドは苦笑した。抵抗するそぶりも見せず、全身をアジの開きのように切り裂かれた。その体からは、血が流れ出なかった。ただのミイラのようになったその顔は、何やら満足げな表情をしていた。
「……はぁ、はぁ、よっしゃぁ……。」
戦いの疲労がどっと押し寄せる。全身を突き動かしていた熱気が冷めていく。圧倒的な酸素不足と体の限界で、意識は夢の中へ沈んでいった。




