第十五話 アトリエ
俺たちとブルベギーアドの戦いに進展は見られない。今もこうして、全力で突進し剣でぶった切ろうとしているが、血の障壁とデコイが非常に邪魔だ。
前方に立つブルベギーアドに、剣を振り上げながら跳躍して距離を詰める。奴は俺の動きを完璧に把握してるとでもいうのか、まるで風に吹かれたかのように体を揺らし、滑らかに斬撃を回避した。
「避けんじゃねえよ……!」
「体が左右に分離するとわかっていて、どうしてそのまま立っていると思うんだね。プラナリアの思考でもしているのかい?」
「話しかけんな、気が散る!」
「君が話しかけてきたのだがね、そもそも、敵の集中力を削げるなら、私はこうやって話しかけ続けるよ。できることは全部やってこそのアーティストだ。」
薄い笑いを浮かべながら、彼は床から血を掬い上げた。手の内で一本の大きな槍が形成されていく。ゆうに二メートルは越すだろうその長物は、薔薇のように持ち手を針山にしていた。そして、ブルベギーアドはそれを躊躇なく握る。やや粘性のある液体が噴き出す音と共に、ホール内で赤い雨が降り注いだ。
「……おいおい、これはまずいんじゃないか……?」
奴ら吸血鬼の武器は、血。なんでも武器に変えて、殺しにくる。ならば、今こうして血の雨が降り注いでいる事態は、酷く危険度が高いということになる。言ってしまえば、毒針が降り注いでいるのと同じだ。何かされれば死ぬ。
肌に雫が落ちる。赤い色が、馴染むように広がっていく。湧き出したばかりだというのに、それは異常なほど冷たかった。思わず体を震わせる。戦いにより乱れた呼吸、その吐き出した息を見れば、白くなっていた。
「ゲバルトさん、全身展開式防衛術を発動させます。これで血は防げるはずです……寒さ対策は自分でしてください!」
今この状況でどうやってあったまればいいんだ!戦闘中だぞ、体を動かす以外にないだろ。で、今俺は全力で戦闘に集中しているんだ。これ以上どう動くんだ。
そう頭に血を上らせていれば、ぽん、と何かが弾けるようにして身体中に駆け巡った。また、あの時と同じ力が体に満ちるのを感じる。しかし、より体に馴染むように、心臓を起点とした熱が広がっていく。
気がつけば体の震えはなくなり、加速した拍動と焼けるような筋の過剰稼働が、全身を激しく刺す。体に展開された防護障壁は、この熱を内側に留めた。
「ヴェアティ、サンキュー。すっかり燃えるような気分だぜ。」
長剣を握る手をしっかりと強めた。今ブルベギーアドは、手に持つ槍をこちらへと向け、投擲の体勢をとっている。もうすでに片足が持ち上げられ、あと少しすれば猛烈な勢いで発射されるだろう。
受け止めてやる。そして、真っ二つに裂いてやる。固く決心し、体の中心に長剣を位置した。
「……血射突絶。」
しわがれた声と共に、それは轟音をたてて投げられた。空気を切り裂く赤い閃光。押し出された空気が先に体へと到達し、わずかにのけぞる。片足を後ろに下げ、前傾姿勢をとった。眼前に紅の鋒が見える。
やってやろう、全力で迎えてやる。俺の誇りに賭けて。
「うおおおおお!」
そのまま走り抜けるようにして、血の槍に突進した。金属同士が激しく打ちつけ合う不快な不協和音に、耳がひきつる。そして、紅が二つに分かれた。擦れ合う冷たい鉄の匂いに、口角を上げた。
槍は血の雨に変わる。形を失い、ただの液体へと変化する。その中を抜け、俺は片手を突き出したまま直立しているブルベギーアドへと長剣を振りかざした。
「あばよ、芸術家!」
この刃先が薄笑いを浮かべた顔面に触れる寸前、奴は目を大きく見開き、口角を上げたのが見えた。




