第十三話 ちょっとした時間稼ぎ
さて、私も私で、ブルベギーアドを処刑してやろう。ゲバルトはあの橙髪の吸血鬼を壁に磔にしたようだし、こっちは地面にばら撒いてみようか?シェリルはブルベギーアドと交戦しつつ、チラリとベハオプテンを盗み見た。ゲバルトに磔にされて、刺し傷から血を垂らしている。もうどうしようもないから諦めた、と言ったようなふうで、無様にジタバタと手足を動かすこともしなかった。ただ、視線の先にブルベギーアドがいて、その目が明らかに応援を含んでいることは明確だったが。
「………しかし、ちょいとばかし力が足りないな………。」
実を言えば、私はあまり戦闘は得意でない。今まで受けてきた依頼は全て、戦闘メインのものではなかった。私の得意とするのは情報収集で、力もスピードも、洗脳技術もまだあの上位人たちには到底及ばない。こんな化け物とも戦ったことはあるが、こんなに相手に有利な戦場ではなかったし、何より私にもたくさん準備の機会があった。この世界では得られない大量の化学兵器を使用できたのだ。
「どうした…?やはり、機能は鈍るものか。」
それに、先ほどからブルベギーアドがこちらを見下してきているような気がする。先ほどまでの激しさはなく、ゆっくりと一言一句確かめるように言葉を吐いている。いまだに決定打を打てていない私のせいでもあるのだが、どうにも腹立たしい。
「………はぁ、仕事はちゃっちゃと片付けるのが私の趣味だったんだが。」
今私が持っている道具は、このポーチに入っている武器類と、あとはいろいろな薬や便利道具だけだ。どうも決め手に欠ける。使用している銀の長剣も、吸血鬼特攻ではあるのだが、そもそも当てることが難しい。一瞬で相手の首を刈り取るのが私の戦闘スタイルだから、どこを切っても再生してくる吸血鬼などには全くの通じない戦法なわけだ。だから、今回は戦い方を変えねばなるまい。一瞬で相手を切り裂ける技を。
「もう少し閉場までを引き延ばしてやってもいい。あと少しで何か完成するのだろう?」
壁に張り付いたブルベギーアドは──なんでこんな奇妙な体制が出来るのか理解に苦しむが──まだ血を使用して針を創造していた。おそらく、あの針の多段攻撃だろう。あたったら間違いなく痛い、あれだ。継戦に支障が出るので、できれば回避したいところだが、まあ無理だろう。ヴェアティに援護を頼むしかないな。
「ヴェアティ、防護陣だ。針から守れ。」
私の真正面に、巨大な防護壁が生成される。水色で、うっすら向こうが透けて見える、エネルギー体のような素材だった。こんな薄いもので、攻撃を防げるのか心配になったが、一応実績はあるので、信用しよう。それ以外ないからな。
「ふむ……解析は難易度が高いな。」
ブルベギーアドは魔法の全体を目で舐め回しながら、顎をかいていた。そういえば、あの秋風組実在派のジジイも、考え事をする時同じ仕草をしていたな。こういう時には決まって隙ができるものだが………やはり舐められていることに対してイラつくな。私の得意分野ではないというのに。
「………ゲバルト、ブルベギーアドを追い詰めておけ………私はベハオプテンとのお話に専念しよう。」
「わかった。俺がなんとかしておいてやるよ。」
壁に貼り付けたベハオプテンをどう煮てやろうかと熟考していたらしかったゲバルトを呼び戻し、バトンタッチだ。今までの戦いぶりを見る限り、戦闘では間違いなく私よりゲバルトやヴェアティの方が上手だ。ならば、適材適所というのが最適解だろう。ベハオプテンもいなくなった今、彼女らを敗北に導く導は全て折れたのだ。
シェリルからブルベギーアドをどうにかしろ、と言われたのはいいのだが、正直言ってどうすればいいのかわからない。俺がベハオプテンとどんちゃこする前に大体の行動パターンはわかっていたんだが……解法は見つからない。
「おいヴェアティ、俺にもなんか支援とかしてくれ。」
「扱い方雑ですね……まあ良いですけど。」
紫色のオーラがゲバルトにまとわりつき、吸収されていった。体が軽くなったような感覚と、実際に加速した思考伝達で、全身が透き通るような心地を覚えた。もはや握った剣ですら体の一部のようだ。
「ほう、役割交代かね。まあそれも一興。今度はどんなお楽しみを見せてくれるのかな?」
すと、と壁に張り付いていたブルベギーアドは地上に再び足をつけた。まだ彼の純白のタキシードは、シェリルによって切り裂かれたところ以外一切汚れてはいない。もうすでにその場所も再生してしまっていて、今現在彼は全くの無傷だったが。むしろ流れた血によって強化されているフシすらある。
普通に持久戦に持ち込んだら、まず勝てない。そもそも吸血鬼とは後半になればなるほど強化されるスロースターターだ。かといって、初っ端から全力で殺しにかかっても、まずまずこいつの身体能力から考えるに無理だろう。なら、どうすればいいのか。………駄目だな。俺には考えつかない。シェリルに頼むしかないか。現在ベハオプテンをいじめているあいつに助言をもらいに行こう。とは思ったが、それをするにはブルベギーアドを押さえておかなければいけない。じゃあどうしろと言うんだ。
「ヴェアティ、魔術で妨害を頼む。俺は全力であいつに切り掛かるから。袋小路に追い詰めるように、障壁を展開してくれ。」
「じゃあ私も普通に攻撃参加しますね。やっぱり二体一の方がいいですし。」
何重にも展開された魔法陣と、創造される半透明の障壁とが、ブルベギーアドを囲む。彼はそれを見て笑った。
「……なんとも。なんともまあ美しい色使いじゃないか。」
そして放たれたヴェアティの魔術は……ブルベギーアドの血の障壁によって、本体に若干の火傷痕を残すに留まった。




